全体解説:
国公立大の志願者は横ばい、私立大では微増。
受験生の意識はコロナ前に戻り、人文系が人気回復
国公立大:共通テスト免除
東北大・岡山大で志願者大幅増
『螢雪時代』編集部では、国公立大の共通テストを課さない(以下、共テ免除)学校推薦型選抜と総合型選抜(以下、「選抜」を略)について、2024年度(以下、24年。他年度も同様)入試結果の調査を行った。23年12月25日現在(調査締切日)の、共テ免除型の両選抜合計の集計データ(82校:志願者数=約2万2千人)では、前年比で「志願者:前年並み、合格者1%増」、倍率(志願者数÷合格者数。以下も同様)は2.3倍→2.2倍(23年→24年)とわずかにダウンした(グラフ①)。
大学受験生数が減少(約3%減。旺文社推定)したのに、志願者が前年並みを保った要因として、24年は新型コロナウイルス感染症の扱いが通常の感染症と同様の「5類」に移行し、受験生の意識が「コロナ前」に戻りつつあることが挙げられる。部活動などの実績づくりや資格・検定取得の機会がほぼコロナ以前に戻り、学校推薦型や総合型に出願する条件が整ったことや、国内外の移動の活発化などが背景にあると見られる。
一方で、当初は25年新課程入試を控えた「後がない」意識から、「年内入試」の志願者が大幅に増えると見込まれたが、実際はそこまで「後がない」意識はなかったようだ。近年、国公立大は一般選抜、特に後期から学校推薦型・総合型へ募集人員を移す傾向が強まっているが、23年共通テストの平均点大幅アップが、準備に別の手間がかかる学校推薦型や総合型より、一般選抜による「初志貫徹」を後押しした模様だ。
共テ免除型の学校推薦型・総合型合計では、志願者数は「国立大1%増、公立大1%減」、合格者数は「国立大1%増、公立大1%増」という結果になった。
従来から総合型に力を入れ、さらに「国際卓越研究大学」の候補に選定されて人気アップした東北大(14%増)、23年に後期を全廃し、学校推薦型・総合型と前期との併願パターンが確立した岡山大(14% 増)の志願者大幅増が目立つ。倍率は国立大2.5倍、公立大2.1倍と、ほぼ前年並みに落ち着いた。
学部系統別では、文・人文系の人気が復活。一方で薬・医療系の人気はダウンした。経済系は前年の反動で減少し、理工系は人気が継続している傾向が見られた。
私立大:学校推薦型・総合型
近年の易化傾向が出願を後押し
『螢雪時代』編集部では、私立大の学校推薦型(指定校制を含む)と総合型についても調査した。23年12月25日現在(調査締切日)の集計データ(126校:志願者数=約29万9千人)では、前年比で「志願者2%増、合格者8%増」、倍率は2.3倍→2.2倍とわずかにダウンした(グラフ②)。
私立大では、ここ数年の合格者大幅増で入りやすくなったことが志願者増につながった。しかし、より確実なはずの指定校制に流れず、公募制や総合型を選ぶ傾向が見られた。
地区別に見ると、小論文・面接中心の首都圏で、法政大・立教大など大幅増が目立ち、学科試験中心で併願可能な大学が多い京阪神地区で抑えめな出願となっている。志願者の約75%を占める京阪神地区で注目すべきは、摂南大の倍率アップ(1.7倍→2.1倍)。志願者1%減に対し、合格者は16%減と絞り込んだ。定員管理の観点から調整したものと見られる。逆に、京都女子大は合格者38%増。前年の14%減の反動と見られ、志願者13%減もあって大幅に倍率ダウン(2.4倍→1.5倍)した。
この他、グローバル教養学環の増設や、公募制の教科科目型に学科試験のみで面接を課さない方式を新設した甲南大が、志願者大幅増(52% 増)により倍率アップ(2.4倍→3.1倍)。一方で、京都産業大は志願者17% 減で倍率ダウン(3.6倍→2.9倍)。前年の合格者11%減による倍率アップの反動と見られる。また、近畿大(4.3倍→3.7倍)も倍率ダウンした。
主な学部系統別に見ると(グラフ③)、新型コロナウイルス感染症の「5類」移行の影響で、海外留学などの可能性が開けた国際系や、文・人文系が人気復活し、一方で薬・医療系は人気低下。また、就職事情の好転などから、資格志向が弱まり、法学系や教員養成系の人気低下も目立っている。
【ここがポイント】
「後がない意識」による「年内入試」志願者大幅増とはならず
私立大は首都圏で志願者が大幅増、京阪神は抑えめの出願に
この記事は「螢雪時代(2024年5月号)」より転載いたしました。