新課程初年度となる2025年入試は、受験生数が微増(『螢雪時代』編集部推定)も、負担増で「共通テスト離れ」が見込まれ、学校推薦型・総合型選抜の拡大もあり、一般選抜の志願者数は、国公立大が約1%増、私立大が約1%減と予測される。
チャレンジ志向が強まる一方、現役志向と家計不安から「年内入試」人気も高まり、全体に二極化が進みそう。
学部系統別では2024年と同様、文・国際・経済など文系人気が高まる一方、薬・看護・医療は人気低下、情報系は新設・定員増の過多で易化の見込みなど、弱めの「文高理低」が続きそうだ。
ここでは、高校・予備校の進路指導のベテラン先生方へのアンケートを参考に、さまざまな変動要因を総合し、2025年(以下、25年。他年度も同様)一般選抜の動向を予測する。
『螢雪時代』編集部推定によると、24年は4(6)年制大学の受験生数(以下、大学受験生数)が64万7千人と、23年より2.5%減少。25年は高卒者数が増加に転じる(2.3%増)が、大学現役志願率はほぼ前年並で、大学受験生数は65万7千人(前年比1.5%増加)と見られる(図表1)。
それでは、大学入学共通テスト(以下、共テ)の出願者数はどうなるか。新課程初年度の25年は、初登場の教科・科目以外に仕組み自体の変更は少なく、既卒者対象の経過措置(旧課程科目の出題)もあり、過去の課程の切り替わり時と同様、出題レベルの大きな変動はなさそう。
ただし、情報Ⅰの追加、国語の出題増、数学の出題範囲増などの負担増が敬遠され、私立大専願者を中心に「共テ離れ」が進みそうだ。また、強まる現役志向、物価上昇などによる家計不安の影響もあり、学校推薦型選抜(以下、推薦型)や総合型選抜(以下、総合型)で、早期に合格を確保したい受験生の増加が見込まれることも、「共テ離れ」に結びつく。
以上から、25年共テの出願者数は、前年とほぼ同じ49万人前後と予測する。
25年入試は、現役生は基本的に「初志貫徹~チャレンジ志向」と見られる。既卒者のほうが、経過措置が今年度限りのため安全志向が強そう。
アンケート回答では、国公立大志向について、「変わらない」「やや強まる」がほぼ半数で拮抗した昨年と異なり、今年は「変わらない」が大多数を占めた。
新課程でも、共テも2次も新登場の教科・科目以外に基本的な仕組みは変わらない。志望動向に影響する可能性があるのは次の2つだろう。
①共テの情報Ⅰ
共テの情報Ⅰは、国立大はほぼ9割が必須だが、公立大は「選択」が約3割、「課さない」も約2割を占める。また、必須の場合も配点が10%(共テの素点での比率)以下のケースが大多数を占め、北海道大・徳島大など必須だが点数化しない大学もあるが、 10%を超えるケースも理系(特に理工・情報科学・医)に見られる。基本的に配点が低いので過度に心配する必要はないが、共テの比重が大きい中堅国公立大の志望者は少しでも配点比率の低い大学・学部を選ぶ可能性がある。逆に、配点比率が15%を超える場合は、相応の得点が必要とされるだろう。例えば、一橋大はソーシャル・データサイエンスの前期(16%)・後期(18%)のみならず、商・経済の前期(17%)、経済の後期(15%)と、難関大の文系学部ながら比率の高さが際立つ。その他、配点比率が15%以上の主な例は次の通り。
愛知教育大(後期:教育支援専門職以外)、名古屋工業大(後期)、神戸大‐システム情報(前期)、広島大‐情報科学(後期)、三条市立大‐工(前・中期)、福井県立大‐恐竜・生物資源(前・後期)、広島市立大‐情報科学(前・後期)
②共テの数学ⅡBC
共テの数学②では、数学Cが出題範囲に加わった。選択問題では、数学Bの「数列」「統計的な推測」、数学Cの「ベクトル」「平面上の曲線と複素数平面」の4題から3題を選択する必要があり、文系は主に「統計的な推測」、理系は主に「平面上の曲線と複素数平面」を選択することになる。いずれにしても負担増となるので、数学1科目選択(数学ⅡBCを受けなくて済む)の大学・学部は、数学に自信のない文系や看護系の志望者の人気を集めそう。特に、公立の看護・医療系に多く見られるので要注目だ。
【新増設・改組】
25年の主な大学・学部等の新増設・改組を図表2に示した。東京医科歯科大と東京工業大が統合し、10月から「東京科学大」として発足。また、昨年に続き理系の学部等の新設が目立つ。特に神戸大‐システム情報、福井県立大‐恐竜は、地区を越えて注目度が高い。既存の理系学部の再編も目立ち、岩手大‐理工が3→1学科、島根大‐総合理工が7→1学科、宮崎大‐農が6→2学科に統合する。
【定員増】
国立大の理工系学部で定員増が相次ぐ。 25年は、福島大‐理工学群(40人増)、横浜国立大‐理工(23人増)、岐阜大‐工(20人増)、名古屋大‐工(20人増)、三重大‐工(30人増)、滋賀大‐データサイエンス(50人増)、大阪大‐工(33人増)・基礎工(27人増)、和歌山大‐システム工(30人増)、広島大‐情報科学(30人増)などで定員増が行われる。
一方で、秋田大‐教育文化(20人減)、和歌山大‐教育(30人減)、山口大‐教育(25人減)など、教員養成系の定員減が目立つ。
【女子枠】
学生の多様性の確保を目的として、男子比率が高い理工系学部への「女子枠」設置が続いている。25年は国立15大学(室蘭工業大・秋田大・福島大・茨城大・千葉大・新潟大・福井大・三重大・滋賀大・神戸大・和歌山大・香川大・佐賀大・長崎大・宮崎大)の推薦型・総合型で新設。東京科学大・名古屋大・島根大でも実施学部等を増やす。
こうした定員増減や女子枠の拡大は、一般選抜の募集人員の増減につながる場合が多いので要注意だ。
一般選抜の変更を見てみよう。
【日程変更】
京都工芸繊維大が後期を募集停止。京都大‐法、茨城県立医療大、沖縄県立看護大も後期を募集停止。一方、山陽小野田市立山口東京理科大‐薬で前期、和歌山大‐観光で後期を新規実施する。
【共テ】
富山大‐教育の後期で4→8科目に増加。一方、新潟県立看護大の前・後期で数学を2→1科目に軽減する。
【2次】
宇都宮大‐農の前期で英語重視の1→2科目に増加。和歌山大‐経済・観光の前期で総合問題を学科2科目に変更。熊本大‐薬の前期で英語・面接を追加。東京都立大では5学部の前期で英語を追加。静岡県立大‐経営情報の前期で1→2科目に増加。
一方で、一橋大は全学の前期で外国語から聞き取り・書き取り試験を除外。名古屋大‐医(医)・理の前期で国語を除外。島根大‐教育の前・後期で調査書点数化を除外。神戸市外国語大・高知工科大では全学の後期で2次を取りやめる。
【2段階選抜】
九州大‐薬(臨床薬)、長崎大‐薬(薬)、熊本大‐薬、山形県立保健医療大の各前期で新規実施。新設の神戸大‐システム情報の前・後期でも実施する。また、旭川医科大の前・後期、東京大の前期(理科三類以外)で予告倍率を引き締め、大阪公立大‐医(医)の前期で選抜基準に倍率を追加(従来は得点)、奈良県立医科大‐医(医)の前期では得点を追加(従来は倍率)する。一方、横浜国立大は全学で廃止する。
【学費等の増減】
東京都立大で生計維持者が都内に在住する学生の授業料全額免除を導入。神奈川県立保健福祉大でも入学金を半額に減額。一方で、東京大が学費を増額する。
以上の点も踏まえると、25年国公立大一般選抜の志願者は1%程度の増加が見込まれる。
私立大志向についての先生方のアンケート回答は、国公立大と異なり、24年と同様に「やや強まる」「変わらない」に集約された。ただし「やや強まる」は推薦型・総合型人気の反映とも言える。
ここ数年の私立大一般選抜の易化傾向から、難関~準難関校への「チャレンジ志向」が続く一方、中堅校を中心に推薦型・総合型で「早く確実に」決める傾向が強まり、一般選抜の受験者層が薄くなりそう。このため、志願状況の二極化が進みそうだ。
24年入試では、大都市圏の難関~準難関校で、実質倍率(受験者数÷合格者数。以下、倍率)の倍率アップダウンが相半ばした(図表3)。25年入試も同じ傾向が続くものと見られる。
24年は弱いながら「後がない」意識が見られ、チ ャレンジ校へ目配りしつつ、合格確保校も押さえる「十字型」の出願パターンが見られた。25年は合格確保校を「学科試験重視、併願可」の推薦型・総合型で押さえるケースが増える可能性があり、一般選抜自体は「凸型」の出願パターンになりそうだ。
一般選抜の変更で、共テ利用方式における「情報必須の方式」「多科目型」の導入が目立つ。
【共テ併用化】
早稲田大‐社会科学・人間科学が独自入試を、独自入試と共テの成績を組み合わせる「共テ併用方式」に全面的に移行する。
【情報必須の方式】
私立大の共テ利用方式では、情報は「選択」か「課さない」がほとんどだが、情報を必須とする方式の導入もある。立命館大では7学部の共テ併用方式で情報活用型を、関西学院大の共テ利用1月出願でも情報必須の8科目型を新規実施。獨協大・東京都市大も情報必須の新方式を導入する。
【多科目型の導入】
青山学院大‐国際政治経済の共テ利用、日本女子大の共テ利用前期で5科目型を、名城大‐法・農・薬のC方式前期で5教科型を、近畿大‐情報の共テ利用前期で6教科7科目型、同‐建築の共テ利用中・後期で5教科7科目型を導入。情報必須の方式も含め、国公立大併願者が主な対象と見られる。
【共テ利用その他】
聖心女子大・聖マリアンナ医科大で新規実施。一方、獨協医科大‐医で廃止する。また、立命館大の共テ利用3月選考では、7学部で5教科型と3教科型を廃止する。
【新方式】
東邦大‐医・薬・理・看護・健康科学で統一入試を、大阪歯科大‐歯・医療保健・看護で全学部日程を新規実施する。
【試験日程】
実践女子大では1月実施の一般Ⅰ期を新規実施。甲南大は一般中期の試験日程を「2/9→2/17・18」に繰り下げ、法・経済など5学部で一般後期を廃止する。
【英語外部検定利用】
芝浦工業大の一般前期・全学統一日程、玉川大の全学統一入試前・後期では、英語の独自試験を廃止し、共テの英語または英語外部検定の利用に全面移行。また、慶應義塾大‐文の一般選抜、國學院大の一般A日程、中央大‐商の学部別選抜、津田塾大の一般A方式、名城大の一般A・F・K方式などで新規利用。
早稲田大では英語外部検定利用方式を、商で廃止し、文・文化構想で募集枠を拡大する。
理工系学部、特に情報科学系と建築系の増設が多く、愛知淑徳大‐教育など教員養成系の増設も目立つ。この他、金沢工業大の全学的な改編(4→6学部)、龍谷大‐社会の学科統合(3→1学科)、桃山学院大と桃山学院教育大の統合(桃山学院大‐教育に)も要注目だ。さらに、女子受験生の志望分野の多様化を受け、大妻女子大‐データサイエンスや安田女子大‐理工など、女子大で活発な増設・改組が行われる。
【共学化】
25年は女子大の共学化が相次いでいる。清泉女学院大(清泉大に改称予定)、名古屋女子大(名古屋葵大に改称予定)、神戸松蔭女子学院大(神戸松蔭大に改称予定)が全学部で共学に移行し、東京家政学院大・園田学園女子大(園田学園大に改称予定)・活水女子大も一部の学部を共学化する。
【キャンパス移転】
東京理科大‐薬が「千葉県野田市→ 東京都葛飾区」、龍谷大‐社会が「滋賀県大津市→京都市伏見区」にキャンパス移転。
以上の変動要因から、私立大一般選抜全体の志願者数は1%程度の減少と予測する。
24年は国際・外国語をはじめ文系が人気復活、薬や医療系など「理系の資格系」が人気低下、理工系も伸びず、弱めの「文高理低」となった。
25年もこの傾向は変わらず、就職事情の好転から、文、国際・外国語、法、経済系など文系学部は人気が高まる見込み。一方、教員を取り巻く環境などから、教員養成系の人気低迷は続きそう。
理系では、定員増などの影響で理・工・農の志願者増が見込まれるが、情報科学系は相次ぐ新設や定員増の規模に志願者増が追いつかず、やや易化が見込まれる。また、医で志願者増、歯・薬や看護・医療系は人気低下が予想される。
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