何を学ぶ
フランス文学から出発して、アート、思想、カルチャー、社会運動など複数の扉を開いていく。今の自分からできるだけ遠くはなれて、自分にしかないスタイルを見つけ出す。

齊藤 哲也(さいとう てつや)先生
明治学院大学/文学部/教授
1976年、北海道に生まれる。北海道大学卒。パリ第七大学博士課程修了。専攻は20世紀フランス文学(特にシュルレアリスム)。著書に『零度のシュルレアリスム』『ヴォルフガング・パーレン』など。
3つの「?」
このページで目をとめたみなさんは、おそらく3つほどの「?」を頭に浮かべながらこの文章を読み始めようとしているのではないか。
まず、なぜ「文学」を学ぶのか?―この始めの問いに対しては「とにかく楽しいから!」と答えておこう。次に、文学をなぜ「大学」で学ぶのか? これに対しては、もちろん「文学のスペシャリストになるため」と答えることができる。ただし、文学のスペシャリストを目指すとは、何よりもまず〈言葉への感性〉を研ぎ澄ますことだ。本の時代であってもネットの時代であっても、手紙の時代であってもSNSの時代であっても、また、アートの世界であってもビジネスの世界であっても、斬新なアイデアを生み出し、それを他者と共有するには、いつも言葉が必要不可欠となる。だから先に挙げた2番目の問いに対してはこう答えよう―“文学はバツグンに「使える」から”と。そして最後の問い―なぜ「フランス」文学なのか? ここからこの3つめの「?」に答えていこう。
まず、なぜ「文学」を学ぶのか?―この始めの問いに対しては「とにかく楽しいから!」と答えておこう。次に、文学をなぜ「大学」で学ぶのか? これに対しては、もちろん「文学のスペシャリストになるため」と答えることができる。ただし、文学のスペシャリストを目指すとは、何よりもまず〈言葉への感性〉を研ぎ澄ますことだ。本の時代であってもネットの時代であっても、手紙の時代であってもSNSの時代であっても、また、アートの世界であってもビジネスの世界であっても、斬新なアイデアを生み出し、それを他者と共有するには、いつも言葉が必要不可欠となる。だから先に挙げた2番目の問いに対してはこう答えよう―“文学はバツグンに「使える」から”と。そして最後の問い―なぜ「フランス」文学なのか? ここからこの3つめの「?」に答えていこう。
言葉のグルメに
フランスと言えば、食に関するあれこれが思い浮かぶかもしれない。しかし、日本人たちはこれまでフランス生まれの料理やワインばかりに舌鼓を打ってきたのではなかった。明治以降、日本人たちはフランスから数多くの言葉を取り寄せ、それらを味わい尽くしてきたのである。
日本語であれフランス語であれ、言葉は日常的なものである。しかし、そんな言葉のなかから、これしかないという食材(言葉)を選び出し、それを卓越した腕前でアートに変えてしまうのが、「文学」という名のいわば三ツ星レストランだ。フランス文学を研究するとは、世界最高クラスのシェフたち(作家たち)の逸品を実際に味わいながら、言葉のグルメになることである。
フランス文学を代表する「有名店」のなかにはこんな名前が。ボードレール『悪の華』、ユゴー『レ・ミゼラブル』、サン=テグジュペリ『星の王子様』、カミュ『異邦人』など、フランス語で書かれた詩や小説をみなさんもすでにいくつか知っているのではないか。また、2014年にノーベル文学賞を受賞したモディアノや、2022年に同賞を受賞したエルノーといった現代作家の名前を聞いたことがある人もいるにちがいない。
世界に今も大きな影響を与え続ける「一流シェフ」の作品を味わいながら、言葉への感性を磨いていくのがフランス文学研究である。実際、フランス文学の研究から出発した日本人作家は数多い。また、フランス文学の世界では、作家と研究者の垣根が低いので、大学に入れば、そうした教授たちの講義を聞くチャンスにも恵まれるだろう。
日本語であれフランス語であれ、言葉は日常的なものである。しかし、そんな言葉のなかから、これしかないという食材(言葉)を選び出し、それを卓越した腕前でアートに変えてしまうのが、「文学」という名のいわば三ツ星レストランだ。フランス文学を研究するとは、世界最高クラスのシェフたち(作家たち)の逸品を実際に味わいながら、言葉のグルメになることである。
フランス文学を代表する「有名店」のなかにはこんな名前が。ボードレール『悪の華』、ユゴー『レ・ミゼラブル』、サン=テグジュペリ『星の王子様』、カミュ『異邦人』など、フランス語で書かれた詩や小説をみなさんもすでにいくつか知っているのではないか。また、2014年にノーベル文学賞を受賞したモディアノや、2022年に同賞を受賞したエルノーといった現代作家の名前を聞いたことがある人もいるにちがいない。
世界に今も大きな影響を与え続ける「一流シェフ」の作品を味わいながら、言葉への感性を磨いていくのがフランス文学研究である。実際、フランス文学の研究から出発した日本人作家は数多い。また、フランス文学の世界では、作家と研究者の垣根が低いので、大学に入れば、そうした教授たちの講義を聞くチャンスにも恵まれるだろう。
カルチャーのデパート
フランス文学を学ぶことには「デパート」を歩くような楽しさと刺激がある。というのも、フランス文学の大きな特徴として、その他さまざまなアートやカルチャーと強く結びついていることが挙げられるからだ。実際、フランス文学の研究から出発して、美術やその他カルチャーの専門家になった研究者は数多い。
フランスという名のデパートには、もちろん「文学」コーナーも充実しているが、それ以外にも「絵画」「写真」「映画」「ファッション」など、個性的で魅力的なコーナーが目白押しだ。各フロアをちらっとのぞいてみよう。
まず絵画について。フランス絵画と聞いて、マネ、モネ、ルノワールなど日本でも人気の高い印象派のフランス人画家を思い浮かべる人は多いだろう。また、特に20世紀初頭、「芸術の都」パリが、ピカソやモディリアーニなど、数多くの画家たちを呼び寄せたことを知っている人もいるかもしれない。
次に写真と映画について。現在、当たり前のように私たちの身の回りにある写真が初めて世界に登場したのは、何を隠そう、19世紀のフランスである。20世紀には、ドアノーやカルチエ=ブレッソンなどのフランス人写真家たちが、報道、ファッション、アートを股にかけた活躍をすることになる。写真だけではない。映画が生まれたのも、何とフランスなのだ。それ以来、フランス映画は世界中の人びとを魅了し、現在でもフランス映画のファンは数多い。
これはほんの一例にすぎない。大学でフランス文学の扉を開くことは、アート、ファッション、その他さまざまなカルチャーの扉を同時に開くことなのだ。では、ここから、あなたをその入口までお連れしよう。
フランスという名のデパートには、もちろん「文学」コーナーも充実しているが、それ以外にも「絵画」「写真」「映画」「ファッション」など、個性的で魅力的なコーナーが目白押しだ。各フロアをちらっとのぞいてみよう。
まず絵画について。フランス絵画と聞いて、マネ、モネ、ルノワールなど日本でも人気の高い印象派のフランス人画家を思い浮かべる人は多いだろう。また、特に20世紀初頭、「芸術の都」パリが、ピカソやモディリアーニなど、数多くの画家たちを呼び寄せたことを知っている人もいるかもしれない。
次に写真と映画について。現在、当たり前のように私たちの身の回りにある写真が初めて世界に登場したのは、何を隠そう、19世紀のフランスである。20世紀には、ドアノーやカルチエ=ブレッソンなどのフランス人写真家たちが、報道、ファッション、アートを股にかけた活躍をすることになる。写真だけではない。映画が生まれたのも、何とフランスなのだ。それ以来、フランス映画は世界中の人びとを魅了し、現在でもフランス映画のファンは数多い。
これはほんの一例にすぎない。大学でフランス文学の扉を開くことは、アート、ファッション、その他さまざまなカルチャーの扉を同時に開くことなのだ。では、ここから、あなたをその入口までお連れしよう。
「使える」言語
フランス文学を学ぶには、まずフランス語を学ばなければならない。しかし心配は無用。どの大学のフランス文学科でも、発音から始めて丁寧にフランス語の読み方、書き方、話し方を教えてくれる。
たとえば、明治学院大学では、1年次に週4コマ(1コマ90分)のフランス語の必修授業(少人数クラス)があり、視聴覚機材も使って、初歩からじっくりとフランス語を身につけていく。2年次以降も文法、講読、会話、作文など多くの授業が体系的に組まれており、その他にも検定用のフランス語や、特別演習フランス語などの選択科目も充実している。もちろんフランス語を母語とする教師もたくさんいる。フランスの大学への留学制度も整っているので、本場の言葉にどっぷり浸かってくるのもいいだろう。
フランス語は、かつてはヨーロッパにおける外交語として通用していたという歴史を持ち、現在でも国際連合などの国際機関の公用語の一つになっている。そしてまた、フランス語は、フランス以外のさまざまな国においても公用語や準公用語として使用されている。
フランスやフランス語圏、そしてさまざまな国際舞台でフランス語を読み、書き、聞き、話す。要するにフランス語は、アートの現場でもビジネスの現場でも「使える」言語なのだ。
たとえば、明治学院大学では、1年次に週4コマ(1コマ90分)のフランス語の必修授業(少人数クラス)があり、視聴覚機材も使って、初歩からじっくりとフランス語を身につけていく。2年次以降も文法、講読、会話、作文など多くの授業が体系的に組まれており、その他にも検定用のフランス語や、特別演習フランス語などの選択科目も充実している。もちろんフランス語を母語とする教師もたくさんいる。フランスの大学への留学制度も整っているので、本場の言葉にどっぷり浸かってくるのもいいだろう。
フランス語は、かつてはヨーロッパにおける外交語として通用していたという歴史を持ち、現在でも国際連合などの国際機関の公用語の一つになっている。そしてまた、フランス語は、フランス以外のさまざまな国においても公用語や準公用語として使用されている。
フランスやフランス語圏、そしてさまざまな国際舞台でフランス語を読み、書き、聞き、話す。要するにフランス語は、アートの現場でもビジネスの現場でも「使える」言語なのだ。
専門の研究
語学以外に、フランス文学科にはどんな科目があるのだろうか。
明治学院大学を例にとれば、1・2年次では「フランス学概説」「フランスの歴史」「フランス文学史」など、フランスの文化や歴史を一から学べる科目が揃っている。2年次にはすでにプレゼミ(ゼミの準備科目)の「基礎研究」があり、自分の関心のあるテーマを選び、議論しながらフランスへの関心をさらに深めていく。
3年次以降の授業は、さらにバラエティに富んでいる。先ほど、フランス文学を学ぶことには「デパート」のような楽しさがあると書いたが、そのような研究の複合性を反映して、「現代芸術」「映画芸術」「写真芸術」「表象メディア論」など、多彩な授業が開講されている。フランス文学関連の授業については言うまでもない。自分の関心に合わせて「近現代の文学」「詩と演劇」「小説と批評」「現代翻訳論」など、いくつも自由に選択できる。
明治学院大学を例にとれば、1・2年次では「フランス学概説」「フランスの歴史」「フランス文学史」など、フランスの文化や歴史を一から学べる科目が揃っている。2年次にはすでにプレゼミ(ゼミの準備科目)の「基礎研究」があり、自分の関心のあるテーマを選び、議論しながらフランスへの関心をさらに深めていく。
3年次以降の授業は、さらにバラエティに富んでいる。先ほど、フランス文学を学ぶことには「デパート」のような楽しさがあると書いたが、そのような研究の複合性を反映して、「現代芸術」「映画芸術」「写真芸術」「表象メディア論」など、多彩な授業が開講されている。フランス文学関連の授業については言うまでもない。自分の関心に合わせて「近現代の文学」「詩と演劇」「小説と批評」「現代翻訳論」など、いくつも自由に選択できる。
ゼミと卒論
明治学院大学では3年次から全員が少人数のゼミ(演習)に所属し、4年次では卒業論文を書いていく。テーマは自分で選ぶ。例を挙げれば「バルザック研究」「ゴダールの映画世界」「絵本と空想力」「日本とフランスのフェミニズム運動」など。
卒論を書くことはやはり大変である。しかし、それゆえに「私は4年間でこれを研究した!」という強い自信を持って、卒業生は新たな社会やさらなる研究の道へと進んでいけるのだ。フランス文学研究の複合性を反映して、卒業生の進路も実にバラエティに富んでいる。開かれる扉の多様さ、これもフランス文学研究の大きな特徴かもしれない。
さあ、次はあなたもフランス文学の扉から〈世界〉へ飛び出してみてはどうか。
卒論を書くことはやはり大変である。しかし、それゆえに「私は4年間でこれを研究した!」という強い自信を持って、卒業生は新たな社会やさらなる研究の道へと進んでいけるのだ。フランス文学研究の複合性を反映して、卒業生の進路も実にバラエティに富んでいる。開かれる扉の多様さ、これもフランス文学研究の大きな特徴かもしれない。
さあ、次はあなたもフランス文学の扉から〈世界〉へ飛び出してみてはどうか。
