何を学ぶ
英語が世界の共通語になる前はフランス語が国際語であった。フランス語学ではフランス語を言語学や音声学の側面、さらに最近では隣接分野を含む多様な観点から考察する。

川口 裕司(かわぐち ゆうじ)先生
東京外国語大学/名誉教授
1958年、和歌山県生まれ。東京外国語大学大学院修了。専攻はフランス語学・トルコ語学。著書に『フランコフォンの世界』(共編訳)、『映画に学ぶ英語』(共著)、『モジュールで身につくトルコ語』(共著)、『映画に学ぶフランス語』、『ゼロから話せるフランス語 新装版』(共著)など。
外国語学習の意義
受験生の間では、外国語系大学というと、外国語だけを専門に勉強するように思われているが、これは誤りだ。どの言語でも、いわゆる外国語の基礎トレーニングは2年ほどで終わる。外国語系大学で学ぶことの真価は、むしろ後の専門課程の2年間で問われる。修得した言語を通して、その国や地域の言語、文化、歴史などに関する広い教養がどれくらい身についているかが勝負なのだ。
最近ではインターネットなどで、外国語を日常的に聞くことができるようになっている。また、留学の可能性もかつてに比べるととても大きくなった。
それなら、わざわざ外国語系大学に行かないでも外国語ができるようになるのではないかと思っている受験生がいたら、ちょっと考えてみてほしい。自分で日本語の文法や日本の文化を相手の人に説明できるかどうかを。そう考えると、同じことを外国語で説明するのがどれほど大変なことなのかが理解でき、同時にそうした広い教養を身につけるには、外国語系大学で勉強する必要があるとわかるはずだ。
外国語学習とは、もう一人の自分との出会いであり、別の世界で生きようとする新しい自己を、その人の人生を通じて形成していく作業にほかならない。しかもこの作業には終わりがない!
では、フランス語を研究する諸分野には、どのようなものがあるのだろうか。
最近ではインターネットなどで、外国語を日常的に聞くことができるようになっている。また、留学の可能性もかつてに比べるととても大きくなった。
それなら、わざわざ外国語系大学に行かないでも外国語ができるようになるのではないかと思っている受験生がいたら、ちょっと考えてみてほしい。自分で日本語の文法や日本の文化を相手の人に説明できるかどうかを。そう考えると、同じことを外国語で説明するのがどれほど大変なことなのかが理解でき、同時にそうした広い教養を身につけるには、外国語系大学で勉強する必要があるとわかるはずだ。
外国語学習とは、もう一人の自分との出会いであり、別の世界で生きようとする新しい自己を、その人の人生を通じて形成していく作業にほかならない。しかもこの作業には終わりがない!
では、フランス語を研究する諸分野には、どのようなものがあるのだろうか。
奥が深いフランス語の研究
「フランス語は美しい響きのことばだから選びました」と言う新入生が毎年いる。確かにそうかもしれない。しかしフランス語にだって、痰(たん)を切るときのような、お世辞にも美しいとはいえない音がある。しかもその音がフランス語らしさをかもし出しているのだから、言葉はなんとも奥が深い。
外国語を知ると、なぜか人の知らない秘密を知ったような気になるのも不思議なものだ。デミタスはドゥミ・タスであり、デジャヴはデジャ・ヴュなのだと、つい余計なことまで言いたくなる。このような言葉の音声に興味のある人には、音声学と音韻論の勉強をお勧めする。
フランス語を習いはじめると、だれでも数字の数え方に驚く。69までは普通なのに、70になると突然「60+10」と言う。71はしたがって「60+11」と言うが、80はなんと「4×20」だ。また、名詞には性の区別があり、たとえば朝と太陽は男性で、夜と月は女性である。これなら何となく納得できるかもしれないが、テーブルとイスが女性で、デスクとアームチェアが男性となると考え込んでしまう。こうした現象に興味を抱く人は形態論や語彙論の勉強に向いている。
あるとき女子学生から、「先生、わたし文法が大好きなんです!」と目を丸くして言われたことがあった。戸惑ったのはこっちだ。自慢ではないが、私は文法が好きだなんて思ったことは一度もない。とはいえ、こうした几帳面な整理好きさんがたくさんいてくれるおかげで、文法研究はいつも人材豊富な研究分野の1つになっている。
ところで、もしあなたが地方の出身なら、日本語が1つだけでないことは百も承知のはず。ところが外国語学習となると、このあたりまえのことが忘れられがちで、フランス語を学ぶときも標準フランス語からはじめて、へたをするとそれだけで終わってしまう。もちろんフランスの地方に行ってみれば、その地域のフランス語に接することができる。それだけではない。社会の階層や職業によって使われるフランス語が、多彩であることを実感できる。それらを研究するのが方言学や社会言語学だ。
外国語学習で苦労した経験のある人は少なくないであろう。日本語を母語とする私たちは、フランス語の発音や動詞の時制などを学ぶ際に、大きな困難に直面することになる。教員が学習者の言語特徴を踏まえながら、どのようにフランス語を教えれば、学ぶ側が不安を抱くことなく、弱点を克服することができるのだろうか。それを研究するのがフランス語教育学である。
このほかにもフランス語の研究には、興味深い分野ではあるが、一人の研究者の手に負えない領域がある。
言葉は時とともに移りゆく。フランス語史はそうした歴史的変遷を記述し、変化の原因を究明する。その場合、録音資料のない時代については、文字資料や地名などが利用される。この分野では言語学と歴史学と文学が渾然(こんぜん)一体となっており、しばしば文献学という名で呼ばれる。
筆者のHP https://www.tufs.ac.jp/ts/personal/ykawa/
27言語を学べるTUFS言語モジュール https://www.coelang.tufs.ac.jp/mt/、スマホ版はhttps://www.coelang.tufs.ac.jp/m/
外国語を知ると、なぜか人の知らない秘密を知ったような気になるのも不思議なものだ。デミタスはドゥミ・タスであり、デジャヴはデジャ・ヴュなのだと、つい余計なことまで言いたくなる。このような言葉の音声に興味のある人には、音声学と音韻論の勉強をお勧めする。
フランス語を習いはじめると、だれでも数字の数え方に驚く。69までは普通なのに、70になると突然「60+10」と言う。71はしたがって「60+11」と言うが、80はなんと「4×20」だ。また、名詞には性の区別があり、たとえば朝と太陽は男性で、夜と月は女性である。これなら何となく納得できるかもしれないが、テーブルとイスが女性で、デスクとアームチェアが男性となると考え込んでしまう。こうした現象に興味を抱く人は形態論や語彙論の勉強に向いている。
あるとき女子学生から、「先生、わたし文法が大好きなんです!」と目を丸くして言われたことがあった。戸惑ったのはこっちだ。自慢ではないが、私は文法が好きだなんて思ったことは一度もない。とはいえ、こうした几帳面な整理好きさんがたくさんいてくれるおかげで、文法研究はいつも人材豊富な研究分野の1つになっている。
ところで、もしあなたが地方の出身なら、日本語が1つだけでないことは百も承知のはず。ところが外国語学習となると、このあたりまえのことが忘れられがちで、フランス語を学ぶときも標準フランス語からはじめて、へたをするとそれだけで終わってしまう。もちろんフランスの地方に行ってみれば、その地域のフランス語に接することができる。それだけではない。社会の階層や職業によって使われるフランス語が、多彩であることを実感できる。それらを研究するのが方言学や社会言語学だ。
外国語学習で苦労した経験のある人は少なくないであろう。日本語を母語とする私たちは、フランス語の発音や動詞の時制などを学ぶ際に、大きな困難に直面することになる。教員が学習者の言語特徴を踏まえながら、どのようにフランス語を教えれば、学ぶ側が不安を抱くことなく、弱点を克服することができるのだろうか。それを研究するのがフランス語教育学である。
このほかにもフランス語の研究には、興味深い分野ではあるが、一人の研究者の手に負えない領域がある。
言葉は時とともに移りゆく。フランス語史はそうした歴史的変遷を記述し、変化の原因を究明する。その場合、録音資料のない時代については、文字資料や地名などが利用される。この分野では言語学と歴史学と文学が渾然(こんぜん)一体となっており、しばしば文献学という名で呼ばれる。
筆者のHP https://www.tufs.ac.jp/ts/personal/ykawa/
27言語を学べるTUFS言語モジュール https://www.coelang.tufs.ac.jp/mt/、スマホ版はhttps://www.coelang.tufs.ac.jp/m/
