何を学ぶ
自分を取り巻く環境の影響を受けて人間が成長していく現象を多角的にとらえようとする学際的な分野。学校からバーチャル空間に至るまで視野にとらえられるフィールドは幅広い。

山名 淳(やまな じゅん)先生
東京大学/大学院教育学研究科/教授
1963年、鳥取県生まれ。広島大学大学院教育学研究科修了。神戸市外国語大学、東京学芸大学、京都大学を経て、2017年より現職。教育学専攻。趣味は卓球。著書に『記憶と想起の教育学』(編著)、『災害と厄災の記憶を伝える』(編著)、『都市とアーキテクチャの教育思想』など。
教育という具体的な活動に関わる
中学校や高校で教育学や教育学部の説明をさせていただく機会があるが、「教育学とは学校の教師になるための学問」であると考えている中高生が多いということをよく実感する。何を隠そう私自身が、大学の教育学部で学び始めた頃に同様のイメージを持っていた。この印象は完全に誤りであるわけではないが、教育学の全体像を正確に言い表しているわけでもない。
大学では教職課程(教育職員免許状を取得するために受講が必要な科目等のまとまり)の一環として教育学の授業を受けることも少なくない。そこでは特に学校教育を学ぶ。教育学の特徴の一つとして、たしかに子どもたちを教え育む営みに取り組む専門家を養成するという役割を期待されてきたことが挙げられる。
教育学の成り立ちを遡ってみても、教育という具体的な営みとの密接な関係を見て取ることができる。「教育学」に対応する欧語の一つである「ペダゴーギク(Pädagogik)」には、子どもを導く術というニュアンスが含まれている。そこには、実際の教育活動に関わるコツや知恵(現代風に言い換えれば「実践知」や「技術知」)とそれらを振り返って整理することで得られる知識(「反省知」)が混ざり合っていた。
教育学とは、何よりも目の前の子どもたちの現在と未来のよりよい状態に関わるための知識と技能に関する学問としての側面を有している。教育学という学問の特徴として、このことはとても重要だ。ただし、それだけでは教育学の説明としてはやはり十分ではない。
大学では教職課程(教育職員免許状を取得するために受講が必要な科目等のまとまり)の一環として教育学の授業を受けることも少なくない。そこでは特に学校教育を学ぶ。教育学の特徴の一つとして、たしかに子どもたちを教え育む営みに取り組む専門家を養成するという役割を期待されてきたことが挙げられる。
教育学の成り立ちを遡ってみても、教育という具体的な営みとの密接な関係を見て取ることができる。「教育学」に対応する欧語の一つである「ペダゴーギク(Pädagogik)」には、子どもを導く術というニュアンスが含まれている。そこには、実際の教育活動に関わるコツや知恵(現代風に言い換えれば「実践知」や「技術知」)とそれらを振り返って整理することで得られる知識(「反省知」)が混ざり合っていた。
教育学とは、何よりも目の前の子どもたちの現在と未来のよりよい状態に関わるための知識と技能に関する学問としての側面を有している。教育学という学問の特徴として、このことはとても重要だ。ただし、それだけでは教育学の説明としてはやはり十分ではない。
さまざまな学問にアクセスする教育学
「教育学とは何か」を一言でとらえることはそう簡単なことではない。なぜなら、教育学は多様な側面を持つからだ。ここでは、2020年に日本学術会議心理学・教育学委員会がその活動の一環として教育学について議論した際の定義を参照しておこう。それによれば、「教育学とは、ある社会・文化における人間の生成・発達と学習の過程、及びその環境に働きかける教育という営みを対象とする様々な学問領域の総称」(『大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準 教育学分野』、1頁)であると説明されている。教育学がとても広い分野であることが示されているが、これを読んだだけではその広さについて今ひとつ実感が湧きにくいかもしれない。以下で解説していこう。
教育学の分野では、よく「教育○○学」という言葉を目にする。多くの場合、教育について論じる際の「さまざまな学問領域」の名称がこの「○○学」のなかに入る。たとえば、哲学をもとにして教育について考える領域には、「教育哲学」という名称が与えられている。「善い教育」という場合の「善い」とはどのようなことかといった問いは、この領域で扱われる。あるいは、教育に関わる諸事象を社会学の手法を用いて分析する領域は、「教育社会学」と呼ばれている。社会格差と教育とはどのような関係にあるかということは、主にこの領域で論じられてきた。
哲学や社会学だけでなく、歴史学、心理学、政治学、経済学、経営学、工学、法学など、多様な学問分野の名称が「教育○○学」のなかに入る。教育学では、規範的な問いを重視する研究から実証性に重きを置く研究に至るまで、実に多彩な学術を土台にして、さまざまな角度から教育の営みが論じられているのである。
こうした学問の複合性が教育学の醍醐味だ。たとえば、最近のメディア・テクノロジーの目覚ましい発展を受けて、学習のツールも大きく変化しつつあることを例に取ってみよう。いわゆるICT教育(最新の情報通信技術を活用した教育)の理論と実践について議論しようとする場合、教育工学と呼ばれる領域がまずこのテーマにとって重要な役割を果たす。また、新たな教育メディアを通じてどのような学習が可能になるかを論じる際に、教育方法学が関連してくるだろう。そもそも教育がこれまでどのような媒体によって支えられ、現在どのような状況にあるのかを見渡そうとすれば、教育哲学や教育史学なども関わりを持つかもしれない。教育学は、このように本来的に学際的な性質を帯びており、多様な対話に開かれているのである。
教育学の分野では、よく「教育○○学」という言葉を目にする。多くの場合、教育について論じる際の「さまざまな学問領域」の名称がこの「○○学」のなかに入る。たとえば、哲学をもとにして教育について考える領域には、「教育哲学」という名称が与えられている。「善い教育」という場合の「善い」とはどのようなことかといった問いは、この領域で扱われる。あるいは、教育に関わる諸事象を社会学の手法を用いて分析する領域は、「教育社会学」と呼ばれている。社会格差と教育とはどのような関係にあるかということは、主にこの領域で論じられてきた。
哲学や社会学だけでなく、歴史学、心理学、政治学、経済学、経営学、工学、法学など、多様な学問分野の名称が「教育○○学」のなかに入る。教育学では、規範的な問いを重視する研究から実証性に重きを置く研究に至るまで、実に多彩な学術を土台にして、さまざまな角度から教育の営みが論じられているのである。
こうした学問の複合性が教育学の醍醐味だ。たとえば、最近のメディア・テクノロジーの目覚ましい発展を受けて、学習のツールも大きく変化しつつあることを例に取ってみよう。いわゆるICT教育(最新の情報通信技術を活用した教育)の理論と実践について議論しようとする場合、教育工学と呼ばれる領域がまずこのテーマにとって重要な役割を果たす。また、新たな教育メディアを通じてどのような学習が可能になるかを論じる際に、教育方法学が関連してくるだろう。そもそも教育がこれまでどのような媒体によって支えられ、現在どのような状況にあるのかを見渡そうとすれば、教育哲学や教育史学なども関わりを持つかもしれない。教育学は、このように本来的に学際的な性質を帯びており、多様な対話に開かれているのである。
教育学の対象は広い
教育学はなぜ学際的な性質を持つのだろうか。その大きな理由の一つは、教育学が扱う対象が実に広範にわたるということにある。やや大上段に構えた表現になるが、人間が生み出したものを総称して、ここでは「文化」と呼んでみる。人間は自分を取り巻く文化の作用を受けて変化する。そのことを通して、今度はその人が新たな文化を生み出していく。自己と文化がそのようにして相互に生成し合うような関係性が成り立つことがある。その過程およびそこから生じる成果が、広い意味での「学び」であり、「教養」であり、また「自己形成」(と同時に「文化形成」)である。教育学が関心を向けているのは、そのような人間とそれを取り巻く環境との力動性の全体なのだ。
学校は、そのような意味での学びを支える教育施設としての重要性を帯びている。家庭や地域もまた、教育の大切な場所だ。さらに、教育的意図の多寡はあるものの、職場も、ミュージアムや図書館も、何らかの意味が込められたモニュメントがちりばめられた都市空間も、あるいはバーチャル空間も、直接あるいは間接に人間形成と関わりがある。
以上のことにもすでに滲み出ているが、教育の対象者も児童・生徒に限らない。乳幼児から大学生や社会人に至るまで、幅広い人びとが視野に入ってくる。老年期の変化を教育学の対象とする立場もある。
教育学の拡がりには他にもさまざまな軸がある。教育実践から教育政策に至るまで。地域から日本全国の動向に至るまで。国内的な視野から国際的な視野に至るまで。教育の過去から現在、さらには未来に至るまで。知育から感性の教育に至るまで。トレーニングからケアに至るまで。こうした拡がりのどこを重視するかによって、各研究者の特徴が色濃く出ることになる。
教育に関わる現実と学問とのインターフェイスが教育学だ。世の中で生じるさまざまな出来事が教育とどのように関連しているかということに敏感であることが、教育学には求められる。いじめや不登校現象などのように、教育との結びつきが明瞭であるテーマに取り組むこともある。難民、戦争、地球温暖化などのような地球規模の問題が教育とどう関わるかを論じることもある。
学校は、そのような意味での学びを支える教育施設としての重要性を帯びている。家庭や地域もまた、教育の大切な場所だ。さらに、教育的意図の多寡はあるものの、職場も、ミュージアムや図書館も、何らかの意味が込められたモニュメントがちりばめられた都市空間も、あるいはバーチャル空間も、直接あるいは間接に人間形成と関わりがある。
以上のことにもすでに滲み出ているが、教育の対象者も児童・生徒に限らない。乳幼児から大学生や社会人に至るまで、幅広い人びとが視野に入ってくる。老年期の変化を教育学の対象とする立場もある。
教育学の拡がりには他にもさまざまな軸がある。教育実践から教育政策に至るまで。地域から日本全国の動向に至るまで。国内的な視野から国際的な視野に至るまで。教育の過去から現在、さらには未来に至るまで。知育から感性の教育に至るまで。トレーニングからケアに至るまで。こうした拡がりのどこを重視するかによって、各研究者の特徴が色濃く出ることになる。
教育に関わる現実と学問とのインターフェイスが教育学だ。世の中で生じるさまざまな出来事が教育とどのように関連しているかということに敏感であることが、教育学には求められる。いじめや不登校現象などのように、教育との結びつきが明瞭であるテーマに取り組むこともある。難民、戦争、地球温暖化などのような地球規模の問題が教育とどう関わるかを論じることもある。
大学における教育学の学び方
教育学の学修は大学ごとのカリキュラムによって異なる。ここでは、多くの大学でみられる一般的なパターンを紹介しよう。入学して1・2年目の間に、「教育学概論」「教育原論」などのようなタイトルの入門的な授業で、教育学の基本特徴、基礎概念、方法論、論証スタイルなどを学ぶ。その後、2年次の後半あるいは3年次あたりから、各専門分野の授業を履修する。「教育○○学」や「○○教育学」に関する概説を行う授業に参加することもあれば、演習形式の授業で学ぶこともある。教育学関係の演習にはさまざまな特色があり、専門領域のテクストと向き合って討論したり、それぞれの研究領域の手法を学んだり、教育のフィールドワークに出かけて観察を行ったりと、担当者によってその方向性が異なる。
多様な活躍の場に通じる
すでに述べたような広義の学びは、もともと驚きや喜びに満ちたものであるはずだ。そうした体験を取り戻すにはどのようにしたらよいか。こうした問題に関心があり、「人間」というテーマに関心があり、人間を取り巻く「環境」に関心があるということは、教育学を学ぶ上でとても大切なことだ。
教育学を学んだ後の進路は、教職や教育行政や教育研究に関する職業はもちろんのこと、各種公務員や一般企業なども含む幅広い分野に渡る。それはなぜかと問われれば、社会のなかには教育と全く関わらないことなど存在しないから、と答えたい。そのことの意味は、ここまでお読みくださった皆さんにはおわかりいただけると思う。人間と社会・文化との喜ばしい相互作用を追い求める学問へようこそ。
教育学を学んだ後の進路は、教職や教育行政や教育研究に関する職業はもちろんのこと、各種公務員や一般企業なども含む幅広い分野に渡る。それはなぜかと問われれば、社会のなかには教育と全く関わらないことなど存在しないから、と答えたい。そのことの意味は、ここまでお読みくださった皆さんにはおわかりいただけると思う。人間と社会・文化との喜ばしい相互作用を追い求める学問へようこそ。

