何を学ぶ
人の移動の影響や効果を、多様な視点から明らかにすることを通して、現代社会や今後の社会のあり方について学び、人間そのものについての理解を深めることを目指す学問。

橋本 俊哉(はしもと としや)先生
立教大学/観光学部/教授
1963年埼玉県生まれ。立教大学社会学部観光学科卒。立教大学大学院社会学研究科博士前期課程、東京工業大学大学院理工学研究科博士後期課程を経て、現在、立教大学観光学部教授、博士(工学)。専門は観光行動論、観光感性論。
グローバル社会における人の移動
人とモノ、情報がグローバルに行き交うことが当たり前の社会となった。なかでも成長を続ける中国や東南アジア諸国では、ビジネス需要が増えていることに加え、観光客を受け入れる国から、住民自らも海外旅行を楽しむ国へと変化してきていることから、近年、アジアは旅行者数の伸び率が世界中でもっとも高い地域の一つとなっている。
2020年以降、新型コロナウイルスが猛威をふるい、人の移動が極端に制限されることとなった。しかしこのことは、図らずも、グローバルな人とモノの移動なしに生活が成り立たないことを私たちが改めて認識する契機ともなった。新型コロナウイルスがほぼ収束したことで、アジアの人の移動の増加傾向は今後も続くものとされている。
2020年以降、新型コロナウイルスが猛威をふるい、人の移動が極端に制限されることとなった。しかしこのことは、図らずも、グローバルな人とモノの移動なしに生活が成り立たないことを私たちが改めて認識する契機ともなった。新型コロナウイルスがほぼ収束したことで、アジアの人の移動の増加傾向は今後も続くものとされている。
観光は「現代社会を映し出す鏡」
私たちは旅行するとき、交通、宿泊、飲食、旅行業など、多くの旅行関連産業を利用する。人が移動することは経済的な効果を生み地域振興につながるだけではなく、訪問客と受け入れ側の人びととの交流は新たな文化を生む源泉となる。また旅行者にとっても、はじめての土地を訪れれば知的好奇心が刺激されるし、その国や地域への関心が高まるとともに、自らの生活環境のよさに改めて気づくなど、多くの知的刺激が得られるだろう。
このように、人が移動することで多くの経済的・社会的効果がもたらされるのである。
観光の形態は時代によって大きく変化する。観光に出かける機会が限られていた労働中心の時代には、旅行に出かけること自体が大きな選択だった。旅行することが“普通のこと”となると、「どこに行くか」が重視されるようになる。そして、現代のように出かけることがさらに一般化すると、「旅行先で何をするか・したいか」が重視されるようになる。
現代の日本で言えば、団体旅行から個人旅行へ、見る観光から体験する観光へとウエイトが移るなかで、伝統文化に改めて目が向けられたり、エコツーリズムやヘルスツーリズムが注目されるようになり、さらには都市型の「オタク文化」などを対象とした、新しい形態の観光が誕生してきている。観光はまさに「現代社会を映し出す鏡」なのである。
観光学は、以上のような人の移動の影響や効果をさまざまな視点から明らかにし、また、新たな観光形態が誕生した社会的背景や現状の分析などを通して、私たちの生きる現代社会やこれからの社会のあり方について学び、人間そのものについての理解を深めようとする学問領域である。
このように、人が移動することで多くの経済的・社会的効果がもたらされるのである。
観光の形態は時代によって大きく変化する。観光に出かける機会が限られていた労働中心の時代には、旅行に出かけること自体が大きな選択だった。旅行することが“普通のこと”となると、「どこに行くか」が重視されるようになる。そして、現代のように出かけることがさらに一般化すると、「旅行先で何をするか・したいか」が重視されるようになる。
現代の日本で言えば、団体旅行から個人旅行へ、見る観光から体験する観光へとウエイトが移るなかで、伝統文化に改めて目が向けられたり、エコツーリズムやヘルスツーリズムが注目されるようになり、さらには都市型の「オタク文化」などを対象とした、新しい形態の観光が誕生してきている。観光はまさに「現代社会を映し出す鏡」なのである。
観光学は、以上のような人の移動の影響や効果をさまざまな視点から明らかにし、また、新たな観光形態が誕生した社会的背景や現状の分析などを通して、私たちの生きる現代社会やこれからの社会のあり方について学び、人間そのものについての理解を深めようとする学問領域である。
観光系学科で何を学ぶのか
立教大学社会学部に、日本の4年制大学としてはじめて観光学科が設置されたのは、1967年のことであった。当時、日本は経済成長の真っ只中で、観光関連産業への就職への期待も高かった。21世紀に入って以降、観光系の学部・学科の開設が相次ぎ、成熟社会を迎えた現在の観光教育は多様化している。
現在日本の大学で開設されている観光系学科の教育内容を、学科名称を手がかりに分類してみると、次の通りになる。
「観光学系」:観光学科、観光科学科。観光の概念を幅広くとらえ、観光学を総合的に学ぶ。
「観光文化系」:観光文化学科、交流文化学科、観光交流文化学科など。主に観光の文化的側面について学ぶ。
「観光経営系」:観光経営学科、観光産業学科、観光ビジネス学科など。主にビジネスとしての側面から観光を学ぶ。
「国際系」:国際学科、国際観光学科など。主にグローバルな視点から観光の役割や効果について学ぶ。
「地域・政策系」:地域創造学科、観光政策学科、観光まちづくり学科など。地域の振興や活性化の視点から観光を学ぶ。
そのほかにも、環境ツーリズム学科、観光デザイン学科など、観光の特色ある領域を学ぶことができる大学もある。
世の中には、現代社会や人間行動を理解しようとする幾多の学問が存在する。それらの学問の視点から日常生活圏外での社会行動を分析すると考えれば、観光学の研究視点が多様であることは容易に理解できよう。
本誌でも、観光学は便宜上、「社会・社会福祉学部系統」に分類されて紹介されているが、観光系の学科は「経済・経営・商学部系統」や「国際関係学部系統」にも紹介されている。観光という社会行動をどのような視点からとらえるかによって、ひとつの系統には収まりきれない多様性を持つことが、観光学の大きな特徴なのである。
旅行会社や航空会社など、旅行関連産業へのあこがれを持ってこの紹介文を読みはじめた人がいるかもしれない。しかし、基本的に大学での観光教育は、専門学校とは異なり、現場の知識は大切にするが、職業上の技術の修得を目指した実務教育に限られない幅広さを持つ。観光学へのアプローチにはこれだけ多様性があることを理解した上で、自分の関心に沿った観光系学科を見つけてほしい。
現在日本の大学で開設されている観光系学科の教育内容を、学科名称を手がかりに分類してみると、次の通りになる。
「観光学系」:観光学科、観光科学科。観光の概念を幅広くとらえ、観光学を総合的に学ぶ。
「観光文化系」:観光文化学科、交流文化学科、観光交流文化学科など。主に観光の文化的側面について学ぶ。
「観光経営系」:観光経営学科、観光産業学科、観光ビジネス学科など。主にビジネスとしての側面から観光を学ぶ。
「国際系」:国際学科、国際観光学科など。主にグローバルな視点から観光の役割や効果について学ぶ。
「地域・政策系」:地域創造学科、観光政策学科、観光まちづくり学科など。地域の振興や活性化の視点から観光を学ぶ。
そのほかにも、環境ツーリズム学科、観光デザイン学科など、観光の特色ある領域を学ぶことができる大学もある。
世の中には、現代社会や人間行動を理解しようとする幾多の学問が存在する。それらの学問の視点から日常生活圏外での社会行動を分析すると考えれば、観光学の研究視点が多様であることは容易に理解できよう。
本誌でも、観光学は便宜上、「社会・社会福祉学部系統」に分類されて紹介されているが、観光系の学科は「経済・経営・商学部系統」や「国際関係学部系統」にも紹介されている。観光という社会行動をどのような視点からとらえるかによって、ひとつの系統には収まりきれない多様性を持つことが、観光学の大きな特徴なのである。
旅行会社や航空会社など、旅行関連産業へのあこがれを持ってこの紹介文を読みはじめた人がいるかもしれない。しかし、基本的に大学での観光教育は、専門学校とは異なり、現場の知識は大切にするが、職業上の技術の修得を目指した実務教育に限られない幅広さを持つ。観光学へのアプローチにはこれだけ多様性があることを理解した上で、自分の関心に沿った観光系学科を見つけてほしい。
観光学部のカリキュラム例
観光学部に所属する学生が、具体的にどのようなことを学ぶのかについて、立教大学の例を紹介しよう。
1998年に日本初の観光学部として開設された立教大学観光学部は、当初は観光学科のみであったが、現在は、観光経営と観光・地域計画について総合的に学ぶ観光学科(「観光学系」)と、観光の文化現象としての側面を中心に学ぶ交流文化学科(「観光文化系」)の2学科体制となっている。
カリキュラムの全体像は表の通りで、入学後、基本的には上段の科目群から履修していき、学年の進行とともに下段の科目群が学べる構造となっている。
1年次の春学期にまず「観光学概論」と「基礎演習」を履修し、観光学と調査・研究方法の基礎を学ぶ。自由科目には、1年次から参加できる海外フィールドワーク科目「グローバル・スタディ・プログラム」、2年次からの「演習」、3年次設定の「観光インターンシップ」などがある。
なお、観光地の計画に関わる仕事を目指すにしても観光の文化的側面を理解する必要があるし、旅行ジャーナリストで活躍するにしても観光経営の基礎知識が必要となる。そのため、履修単位の上限はあるものの、自らの関心に応じて、他学科の選択科目群からも、科目を選択して並行履修できる体制をとっている。
他の学問と比較すると、両学科で学ぶ内容の違いがわかりにくい印象を持つかもしれない。それは、観光学を学ぶ学生は、観光現象を分析する視点の多様性を認識し、観光について総合的・多角的に理解してほしいと考えているためである。
1998年に日本初の観光学部として開設された立教大学観光学部は、当初は観光学科のみであったが、現在は、観光経営と観光・地域計画について総合的に学ぶ観光学科(「観光学系」)と、観光の文化現象としての側面を中心に学ぶ交流文化学科(「観光文化系」)の2学科体制となっている。
カリキュラムの全体像は表の通りで、入学後、基本的には上段の科目群から履修していき、学年の進行とともに下段の科目群が学べる構造となっている。
1年次の春学期にまず「観光学概論」と「基礎演習」を履修し、観光学と調査・研究方法の基礎を学ぶ。自由科目には、1年次から参加できる海外フィールドワーク科目「グローバル・スタディ・プログラム」、2年次からの「演習」、3年次設定の「観光インターンシップ」などがある。
なお、観光地の計画に関わる仕事を目指すにしても観光の文化的側面を理解する必要があるし、旅行ジャーナリストで活躍するにしても観光経営の基礎知識が必要となる。そのため、履修単位の上限はあるものの、自らの関心に応じて、他学科の選択科目群からも、科目を選択して並行履修できる体制をとっている。
他の学問と比較すると、両学科で学ぶ内容の違いがわかりにくい印象を持つかもしれない。それは、観光学を学ぶ学生は、観光現象を分析する視点の多様性を認識し、観光について総合的・多角的に理解してほしいと考えているためである。
観光を通して現代社会と未来を学ぶ
受験生が自らの進路を選ぶにあたり、その学部・学科を卒業した学生がどのような仕事で活躍しているかは、大きな関心事であろう。たしかに大学に入学してからも、低学年からセミナーが開催され就職を意識せざるを得ないし、実際に大学生にとって、就職活動は時間的・経済的に大きな負担となっている。
しかし、より大切なことは、長期的な視点から、自分がどのようなキャリアを積み重ねて充実した人生を送りたいかについて考え、自らの生涯を自主的に設計することである。転職が珍しくなくなった現代において、新卒時の就職は、自立して人生を歩みはじめるキャリアの第一歩なのであり、そこから5年後・10年後を見据えて、どのように人生をステップアップしていくかを考えることが、より重要なのである。
大学で観光学を学ぶことは、現代社会とその未来を学び、人間そのものについての理解を深めることである。観光学を通して、変化の激しいグローバル社会のなかで生きていくために、何が大切なのかを学ぶことができるだろう。
しかし、より大切なことは、長期的な視点から、自分がどのようなキャリアを積み重ねて充実した人生を送りたいかについて考え、自らの生涯を自主的に設計することである。転職が珍しくなくなった現代において、新卒時の就職は、自立して人生を歩みはじめるキャリアの第一歩なのであり、そこから5年後・10年後を見据えて、どのように人生をステップアップしていくかを考えることが、より重要なのである。
大学で観光学を学ぶことは、現代社会とその未来を学び、人間そのものについての理解を深めることである。観光学を通して、変化の激しいグローバル社会のなかで生きていくために、何が大切なのかを学ぶことができるだろう。
観光を学ぶ学生の活躍の場の広がり
ゼミの学生に、観光学部を志望した理由を尋ねると、子どものころの旅行先での体験が印象的であったことを挙げる学生が少なくない。宿泊先の従業員の気配りに感激した、困ったときにツアーコンダクターがとても頼もしく感じた、などである。彼ら・彼女らは、今度は自分が人にそうした幸せを与えられるような仕事に就きたいという明確な目的意識を持って積極的・主体的に学ぶので、希望する業種に就職し、その想いを実現すべく、社会で活躍している。
このように、子どものころのたった一度の旅先での体験が記憶に鮮明に焼きつき、その人の一生を決めることさえある。観光にはこうした「力」があるのである。観光の仕事は、お客様に幸せを与えるとともに、自らも幸せになれる「幸せ産業」であると言える。
また、私たちは、日常生活のなかでも、季節ごとに自然を愛し、伝統的な行事を楽しんできたし、商業空間でアートやミニコンサートに出会ったり、日帰り入浴施設や世界の食を楽しんだりと、楽しみの要素は、私たちの生活全般に浸透している。泊りがけの旅行にしても、ゆったりとした時間を楽しんだり、豊かな自然に囲まれて仕事をする(「ワーケーション」)ようなニーズが、これからますます増えるだろう。
観光学を学ぶことで、これまでのような旅行・観光ビジネスの枠組みにとらわれることなく、「人びとの生活を豊かにする」ために何ができるかを考え、魅力的な社会を創ることの大切さに気づくはずである。観光学はこうした魅力や可能性、やりがいに満ちているのであり、観光学を学んだ学生が活躍し得る場は、ますます広がっていくことになるであろう。
このように、子どものころのたった一度の旅先での体験が記憶に鮮明に焼きつき、その人の一生を決めることさえある。観光にはこうした「力」があるのである。観光の仕事は、お客様に幸せを与えるとともに、自らも幸せになれる「幸せ産業」であると言える。
また、私たちは、日常生活のなかでも、季節ごとに自然を愛し、伝統的な行事を楽しんできたし、商業空間でアートやミニコンサートに出会ったり、日帰り入浴施設や世界の食を楽しんだりと、楽しみの要素は、私たちの生活全般に浸透している。泊りがけの旅行にしても、ゆったりとした時間を楽しんだり、豊かな自然に囲まれて仕事をする(「ワーケーション」)ようなニーズが、これからますます増えるだろう。
観光学を学ぶことで、これまでのような旅行・観光ビジネスの枠組みにとらわれることなく、「人びとの生活を豊かにする」ために何ができるかを考え、魅力的な社会を創ることの大切さに気づくはずである。観光学はこうした魅力や可能性、やりがいに満ちているのであり、観光学を学んだ学生が活躍し得る場は、ますます広がっていくことになるであろう。

