何を学ぶ
太陽系・地球の誕生や、恐竜滅亡の謎に迫るなどロマンあふれる一方、自然災害や天然資源を扱うなど幅広い。防災・減災やSDGsに対して科学的に取り組む上で不可欠な分野だ。

岡田 誠(おかだ まこと)先生
茨城大学/基礎自然科学野、理学部長/教授
1965年神奈川県生まれ。東京大学大学院修了。博士(理学)。茨城大学助手、助教授を経て2015年より現職。専門は古地磁気学、古海洋学。チバニアン提案チーム代表を務めた。
地学に関連する学問分野の歴史的背景
地学ほど幅広い対象を持つ教科はない。さらに関連する学問分野が多数あり進歩も速く、昔の教科書が役に立たない場合も多い。だから大学でも、高校地学の教科書に書かれていること全てを、もれなく教えることができる教員は少ないだろう。裏を返せば、手軽に人類最先端の知識に触れることができるのが、地学を学ぶことの魅力だ。
地学を形作る分野は大きく2つに分けることができる。1つは、いま私たちが目にする世界のなりたちを調べる分野だ。歴史的には、古代ギリシャで行われた地球の円周の計測が測地学の始まりといわれている。このほか、世界各地にあった古代文明では、正確な暦をつくるために太陽や夜空の星の運行を精密に測定していたようだ。これらが天文学の始まりといえよう。
もう1つは、岩石や地層に残された証拠から昔の地球の姿を調べる分野だ。はじまりは、古代ギリシャ時代の博物学(自然界にあるあらゆる物やできごとをこまかく調べる学問)にさかのぼる。このうち、地層や岩石・鉱物・化石などを調べる分野が、野外地質学や岩石学・鉱物学・古生物学として発展してきた。ここではこれらをまとめて「古典地質学」と呼ぶことにする。
18世紀末になると、イギリスのハットンが「斉一説(せいいつせつ)」を提唱した。それ以前では、地球上で起こったさまざまなできごとは、それぞれの天変地異(例えばノアの大洪水など)が引き起こしたと考えられていた。しかし斉一説では、過去のできごとは、いま私たちの目の前で起こっているできごとと同じ自然の法則によって引き起こされたとした。つまり地球誕生以来、自然の法則は変わっていないという考え方である。斉一説により、人びとははじめて、目の前にある地層やそこに含まれる鉱物・化石などがどのようにつくられてきたかについて、神のような人智を超えた存在の力によるものではなく、今観察できる自然現象の結果できたものとして考えることができるようになった。この考え方は、ダーウィンによる進化論へと受け継がれ、現代科学の基礎を作った。
20世紀後半になると、プレートテクトニクスの登場により、それまで断片的に観測されていた地球上のさまざまなできごとの原因を統一的に理解できるようになった。そこでは、科学的な手法による測定・解析技術を用いることで近代地質学の各分野はさらなる進歩を遂げ、「地球科学」として統合されるようになった。そして、地球科学で発展した手法をほかの惑星に用いることで、地球科学は「地球惑星科学」へと広がった。同時に、経済活動の急速な拡大に伴い、私たちの生活環境へさまざまな悪影響がもたらされた。特に大気・水圏の汚染や地球温暖化に伴う気候の急速な変化である。これらの環境問題を地球科学と結びつけて扱う分野として「地球環境科学」が、さらにそうした環境問題も含め、宇宙-地球をひとつのシステムとして総合的に理解することを目指す「地球システム学」が発展してきた。
一方、正確な暦を作るための「天文学」や、正確な地図を作るために地表の計測を精密に行う「測地学」などが社会における必要性から発展してきた。これらも18世紀以降は自然科学としてさらなる進歩を遂げ、20世紀以降、宇宙論を扱う近代天文学や、地磁気や重力、地震を扱う地球物理学として開花していった。これらの多くは物理学の分野でもある。
地学を形作る分野は大きく2つに分けることができる。1つは、いま私たちが目にする世界のなりたちを調べる分野だ。歴史的には、古代ギリシャで行われた地球の円周の計測が測地学の始まりといわれている。このほか、世界各地にあった古代文明では、正確な暦をつくるために太陽や夜空の星の運行を精密に測定していたようだ。これらが天文学の始まりといえよう。
もう1つは、岩石や地層に残された証拠から昔の地球の姿を調べる分野だ。はじまりは、古代ギリシャ時代の博物学(自然界にあるあらゆる物やできごとをこまかく調べる学問)にさかのぼる。このうち、地層や岩石・鉱物・化石などを調べる分野が、野外地質学や岩石学・鉱物学・古生物学として発展してきた。ここではこれらをまとめて「古典地質学」と呼ぶことにする。
18世紀末になると、イギリスのハットンが「斉一説(せいいつせつ)」を提唱した。それ以前では、地球上で起こったさまざまなできごとは、それぞれの天変地異(例えばノアの大洪水など)が引き起こしたと考えられていた。しかし斉一説では、過去のできごとは、いま私たちの目の前で起こっているできごとと同じ自然の法則によって引き起こされたとした。つまり地球誕生以来、自然の法則は変わっていないという考え方である。斉一説により、人びとははじめて、目の前にある地層やそこに含まれる鉱物・化石などがどのようにつくられてきたかについて、神のような人智を超えた存在の力によるものではなく、今観察できる自然現象の結果できたものとして考えることができるようになった。この考え方は、ダーウィンによる進化論へと受け継がれ、現代科学の基礎を作った。
20世紀後半になると、プレートテクトニクスの登場により、それまで断片的に観測されていた地球上のさまざまなできごとの原因を統一的に理解できるようになった。そこでは、科学的な手法による測定・解析技術を用いることで近代地質学の各分野はさらなる進歩を遂げ、「地球科学」として統合されるようになった。そして、地球科学で発展した手法をほかの惑星に用いることで、地球科学は「地球惑星科学」へと広がった。同時に、経済活動の急速な拡大に伴い、私たちの生活環境へさまざまな悪影響がもたらされた。特に大気・水圏の汚染や地球温暖化に伴う気候の急速な変化である。これらの環境問題を地球科学と結びつけて扱う分野として「地球環境科学」が、さらにそうした環境問題も含め、宇宙-地球をひとつのシステムとして総合的に理解することを目指す「地球システム学」が発展してきた。
一方、正確な暦を作るための「天文学」や、正確な地図を作るために地表の計測を精密に行う「測地学」などが社会における必要性から発展してきた。これらも18世紀以降は自然科学としてさらなる進歩を遂げ、20世紀以降、宇宙論を扱う近代天文学や、地磁気や重力、地震を扱う地球物理学として開花していった。これらの多くは物理学の分野でもある。
地学を構成する分野
これまで地学のなりたちの歴史について見てきた。次に、地学をかたち作る個別の分野の関係について見ていこう(上図参照)。
まず古典地質学(野外地質学・古生物学・岩石学・鉱物学)は、調べる対象の記載・分類を行うという意味において、現代でも必須の分野だ。特に過去の長い時間スケール(地質学的時間スケール)の中で起こったできごとを対象とする地球年代学や古海洋学、古気候学、古地磁気学といった分野では、研究に必要なデータを得るための基礎的スキルとして位置づけられている。これらの分野を基礎として、地球物理学や地球化学などを統合したのが地球科学や地球惑星科学なのだ。一方、現在の地球で起こっている事柄を対象としているのが、地震学や地球電磁気学、海洋学、気象学、測地学、自然地理学などの分野だ。
このように地学には、地質学的時間スケールで起こったできごとを調べる分野と、現在の地球を調べる分野があるが、これらは互いに深く結びついている。たとえば、現在の地磁気などを観測することで地球の状態を理解する「地球電磁気学」のスキルを用いることで海洋底地殻の磁気異常が観測され、それを説明するために海洋底拡大説、さらにはプレートテクトニクスが提唱された。プレートの生成や移動はマントル対流が原因となっているが、マントル対流の解明には地震学を基礎とした地震波トモグラフィーと呼ばれる手法が主要な役割を果たした。以上に加え、古気候学や古海洋学によって過去の気候や海洋を調べる時にも、現在の地球の気候や海洋、そこにすむ生物のなりたちに関する知識、すなわち気象学や海洋学、生物学が必要とされる。
以上をまとめると、地学に含まれるさまざまな分野は互いに結びついていること、さらに物理学・化学・生物学についても、地学を理解するうえで深い関係を持っていることがいえる。つまり「地学」というのは極めて学際的なのである。
まず古典地質学(野外地質学・古生物学・岩石学・鉱物学)は、調べる対象の記載・分類を行うという意味において、現代でも必須の分野だ。特に過去の長い時間スケール(地質学的時間スケール)の中で起こったできごとを対象とする地球年代学や古海洋学、古気候学、古地磁気学といった分野では、研究に必要なデータを得るための基礎的スキルとして位置づけられている。これらの分野を基礎として、地球物理学や地球化学などを統合したのが地球科学や地球惑星科学なのだ。一方、現在の地球で起こっている事柄を対象としているのが、地震学や地球電磁気学、海洋学、気象学、測地学、自然地理学などの分野だ。
このように地学には、地質学的時間スケールで起こったできごとを調べる分野と、現在の地球を調べる分野があるが、これらは互いに深く結びついている。たとえば、現在の地磁気などを観測することで地球の状態を理解する「地球電磁気学」のスキルを用いることで海洋底地殻の磁気異常が観測され、それを説明するために海洋底拡大説、さらにはプレートテクトニクスが提唱された。プレートの生成や移動はマントル対流が原因となっているが、マントル対流の解明には地震学を基礎とした地震波トモグラフィーと呼ばれる手法が主要な役割を果たした。以上に加え、古気候学や古海洋学によって過去の気候や海洋を調べる時にも、現在の地球の気候や海洋、そこにすむ生物のなりたちに関する知識、すなわち気象学や海洋学、生物学が必要とされる。
以上をまとめると、地学に含まれるさまざまな分野は互いに結びついていること、さらに物理学・化学・生物学についても、地学を理解するうえで深い関係を持っていることがいえる。つまり「地学」というのは極めて学際的なのである。
「チバニアン」と地学
「チバニアン」とは、地質時代の1つである中期更新世(約12.9万年前~77.4万年前)を示す時代名称として提唱されたものだ。2020年1月に行われた国際学会の審査で承認され、日本の地名が地球の歴史(地質年代)の名称に使われる最初の事例となった。ここでは、チバニアンを例に、地学分野の研究がいかに学際的であるか示そう。
約46億年間の地球の歴史は、117の地質時代に区分される。一つひとつの境界は、その境界のことを世界で最もよく調べることができる地層によって定められる。その地層がGSSP(国際境界模式層断面とポイント)だ。今回は、千葉県市原市の地層が中期更新世のはじまり(約77万年前)を定めるGSSPとして認定されたのだ。こうした地質時代を扱う分野は、近代地質学のなかでも「地球年代学」や「層位学」という限られた分野の範疇(はんちゅう)に入るのだが、GSSPを認定する過程では、実にさまざまな分野の研究が行われ、その成果が最適な候補の選定に用いられた。これらの分野には物理学の一部である「古地磁気学」をはじめ、化学の範疇である安定酸素同位体や、宇宙線生成核種、放射年代の測定などが含まれる。つまり年代層位学という狭い学問分野の研究に際しても、人類がこれまで自然科学の研究で培った知識や技術を総動員して取り組む必要が生じているのである。この事例からも、先に述べたように地学はきわめて学際的であることがわかる。
約46億年間の地球の歴史は、117の地質時代に区分される。一つひとつの境界は、その境界のことを世界で最もよく調べることができる地層によって定められる。その地層がGSSP(国際境界模式層断面とポイント)だ。今回は、千葉県市原市の地層が中期更新世のはじまり(約77万年前)を定めるGSSPとして認定されたのだ。こうした地質時代を扱う分野は、近代地質学のなかでも「地球年代学」や「層位学」という限られた分野の範疇(はんちゅう)に入るのだが、GSSPを認定する過程では、実にさまざまな分野の研究が行われ、その成果が最適な候補の選定に用いられた。これらの分野には物理学の一部である「古地磁気学」をはじめ、化学の範疇である安定酸素同位体や、宇宙線生成核種、放射年代の測定などが含まれる。つまり年代層位学という狭い学問分野の研究に際しても、人類がこれまで自然科学の研究で培った知識や技術を総動員して取り組む必要が生じているのである。この事例からも、先に述べたように地学はきわめて学際的であることがわかる。
求められる学生像と大学の地学におけるカリキュラム
大学における地学分野では、どのような学生が求められているのであろうか。地学分野の対象は地球や宇宙に存在する物質と、そこで起こったできごとすべてとなり、極めて幅広い。したがって、さまざまなものやできごとに対して広く興味を持つ人が向いているだろう。さらに地学以外の理科分野のどれか1つでも得意なものがあると心強い。一方、多くの高等学校では、教科としての地学は国立文系向けのみに開講されているので、理系の生徒が地学を学ぶ機会は限られている。このため、理系の生徒が地学分野に興味を持つための情報は、ほとんどがテレビや雑誌などのメディアであろう。そこでは、地球温暖化やそれに伴って増加している昨今の気象災害、地震・津波の災害、さらには「はやぶさ2」などに代表される宇宙探査が主流を占めている。しかし残念ながら、実際の大学における地学分野の学科等でこれらすべてをカバーできるところは少なく、たとえば気象や宇宙分野などが、物理学科等に含まれる場合もある。このため、最近の地学系分野(地球惑星科学や地球環境学、地球システム学など)では、隕石などを用いた惑星科学分野や、気象災害を扱えるよう大気物理学分野などを取り入れているところもある。
多くの大学における地学分野のカリキュラムは、1~2年次の間に地学の基礎スキルを占める古典地質学分野を共通的に学び、3~4年次で細分化された分野のゼミに所属することで、卒業研究で行うような専門的な授業を受けるという構成になっていることが多い。この場合、たとえば気象や宇宙だけに興味を持っている学生にとって、1~2年次で受講する古典地質学分野の授業は、自分にとって関係がないように見えるだろう。ところが地球を含め宇宙で起こっているできごとはすべて何らかの関連を持っている。このため最初は全く興味がなくても、学んでいくうちにのめり込んでしまうようなおもしろい分野を見つけるチャンスが転がっているのだ。学生には、そんなチャンスを見つけることを楽しみつつ学んでほしい。
多くの大学における地学分野のカリキュラムは、1~2年次の間に地学の基礎スキルを占める古典地質学分野を共通的に学び、3~4年次で細分化された分野のゼミに所属することで、卒業研究で行うような専門的な授業を受けるという構成になっていることが多い。この場合、たとえば気象や宇宙だけに興味を持っている学生にとって、1~2年次で受講する古典地質学分野の授業は、自分にとって関係がないように見えるだろう。ところが地球を含め宇宙で起こっているできごとはすべて何らかの関連を持っている。このため最初は全く興味がなくても、学んでいくうちにのめり込んでしまうようなおもしろい分野を見つけるチャンスが転がっているのだ。学生には、そんなチャンスを見つけることを楽しみつつ学んでほしい。
主な進路
多くの大学(特に地方大)の地学系学科では、社会から必要とされる人材の育成を目標に掲げており、後述する専門分野への就職という面で有利な場合が多い。たとえばこれらの地学系学科では、基本スキルとして古典地質学分野の教育をしているところが多く、特に野外地質学分野の技術が生かせる地質調査が求められる企業(ゼネコンや地質・環境コンサルタントなど)、また資源・エネルギー関連企業への就職が数多く見られる。また地球物理系のゼミに所属している場合は、プログラミング関係に強くなる場合が多く、システムエンジニア系の就職も安定している。もちろん、宇宙・地球のなぞを解き明かすことに興味を持ち、博士課程進学の後、研究職へ進む場合や、気象庁や国土地理院等、地学関連の国家公務員になる場合もある。このほか、中学校・高等学校の理科教員(多くの理学部では教員免許状を取得できる)や土木関係の地方公務員になる場合も多い。
大学で学んだことが社会で生かせる場面は少ないと思われがちだ。しかし地学系の教育を受けた場合は、たとえばわれわれが住むこの大地や呼吸する空気、川を流れる水などはすべてつながっていると考えることができるので、大学で学んだことを何らかの形で社会に生かせる場合が多いのではないだろうか。
地学系の大学教員としては、こうした普段の何気ない思考のなかにも地学の要素が生きて、社会をよりよくすることに貢献できる人材を育てられれば本望である。
大学で学んだことが社会で生かせる場面は少ないと思われがちだ。しかし地学系の教育を受けた場合は、たとえばわれわれが住むこの大地や呼吸する空気、川を流れる水などはすべてつながっていると考えることができるので、大学で学んだことを何らかの形で社会に生かせる場合が多いのではないだろうか。
地学系の大学教員としては、こうした普段の何気ない思考のなかにも地学の要素が生きて、社会をよりよくすることに貢献できる人材を育てられれば本望である。

