何を学ぶ
新たな物質を生み出すことのできる化学は重要性を増している。物理や生物などの理科分野と融合することで、工学・医学・薬学・農学などあらゆる分野に応用されている。

寺田 眞浩(てらだ まさひろ)先生
東北大学/大学院理学研究科/教授
1964年、東京生まれ。東京工業大学(現・東京科学大学)工学部卒。同大学院理工学研究科を中退し東京工業大学工学部助手。東北大学大学院理学研究科助教授を経て、2006年より教授。2017年有機合成化学協会賞、2024年文部科学大臣表彰 科学技術賞(研究部門)。山登りと山野草観察が趣味。
化学の魅力と社会貢献
新しい物質を作り出すことができるのが、化学の醍醐味だ。新たな機能をもった物質を創造して実際に作る、あるいはこれまでできなかった方法で物質を作り出すことを可能にする学問分野である。化学の歴史は2000年以上前の錬金術にまでに遡る。鉛などの卑金属を貴金属である金に変えようとする過去の錬金術は科学の発達した今でこそ陳腐な試みであったと判っているが、現代の化学は、過去の錬金術で夢見たような「元素を組み合わせることで夢の物質や材料を作り出す」ことができるようになってきている。これまで存在の知られていなかった不思議な物質や合成法を見出すことで、世界を変える物質創製を実現してきたのが化学である。
新型コロナウイルス感染症で広く知られるようになったPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)検査法はおよそ40年前の化学者の発想によって生まれた。従来法であればとても1年ではできなかったワクチン開発ができるようになったことにも化学は貢献している。ワクチンの開発に限らず、ウイルスの活性を抑えて重症化を低減する治療薬の開発や供給にも化学は深く関わっている。治療薬の開発が候補化合物の化学合成とその治験によってなされており、治療薬として全世界に供給するにあたっても、膨大な量を賄うには化学合成なくしては成り立たないからである。
皆さんが今手にしているスマートフォンの液晶ディスプレイの開発にも化学は大きく貢献している。機能性材料の開発研究と位置づけられるが、液晶ディスプレイに相応しい性能を出すための分子設計やその素材の供給はまさに化学が主体的に関わる領域である。
化学の領域は生命科学や材料科学にも着実に広がっており、その進歩は自然科学全般の学問分野の発展とともにあったといえる。大きな影響を受けた学問分野として物理学と生物学がある。電子の発見に続き原子、分子が実在するものとして物理学者によって明らかにされ、電子の性質や原子の構造について、いくつか提案がなされるなか、物理学から量子論という新しい概念が芽生えた。量子論は原子や分子の持つ性質を矛盾なく説明できることから、化学の世界でも必要不可欠な概念となっている。一方、複雑で不思議に見える生命現象も、分子が関わることで起きているとする考えが進展するにつれ、より複雑な分子を生物から取り出す単離精製と構造解明が必要となる。いずれも化学の得意とするところであり、機能を調べる上で人工的に化学合成する必要性も出てきた。このように、化学は物理学に学問の基礎を置いて原子、分子に関する研究を進める一方、生物学には必要な化合物や方法論を提供している。
新型コロナウイルス感染症で広く知られるようになったPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)検査法はおよそ40年前の化学者の発想によって生まれた。従来法であればとても1年ではできなかったワクチン開発ができるようになったことにも化学は貢献している。ワクチンの開発に限らず、ウイルスの活性を抑えて重症化を低減する治療薬の開発や供給にも化学は深く関わっている。治療薬の開発が候補化合物の化学合成とその治験によってなされており、治療薬として全世界に供給するにあたっても、膨大な量を賄うには化学合成なくしては成り立たないからである。
皆さんが今手にしているスマートフォンの液晶ディスプレイの開発にも化学は大きく貢献している。機能性材料の開発研究と位置づけられるが、液晶ディスプレイに相応しい性能を出すための分子設計やその素材の供給はまさに化学が主体的に関わる領域である。
化学の領域は生命科学や材料科学にも着実に広がっており、その進歩は自然科学全般の学問分野の発展とともにあったといえる。大きな影響を受けた学問分野として物理学と生物学がある。電子の発見に続き原子、分子が実在するものとして物理学者によって明らかにされ、電子の性質や原子の構造について、いくつか提案がなされるなか、物理学から量子論という新しい概念が芽生えた。量子論は原子や分子の持つ性質を矛盾なく説明できることから、化学の世界でも必要不可欠な概念となっている。一方、複雑で不思議に見える生命現象も、分子が関わることで起きているとする考えが進展するにつれ、より複雑な分子を生物から取り出す単離精製と構造解明が必要となる。いずれも化学の得意とするところであり、機能を調べる上で人工的に化学合成する必要性も出てきた。このように、化学は物理学に学問の基礎を置いて原子、分子に関する研究を進める一方、生物学には必要な化合物や方法論を提供している。
化学はセントラルサイエンス
2000年以降、7名もの日本人がノーベル化学賞の栄誉に輝いたことをみても日本の現在の化学のレベルは極めて高く、国際的にも認知されていることが判る。これらのノーベル賞受賞者の研究成果は、さまざまな分野で応用されており、最先端を切り開く道具や材料として活用されている。つまり、化学の成果は全ての自然科学の分野と工学・医学・薬学・農学といった幅広い領域に生かされており、化学はその中央に位置することから、セントラルサイエンスと呼ばれることもある。
化学は物質の性質と変化を調べる学問であり、新しい物質の合成法や分離法、新しい検出法に関わっていることは今も昔も変わらない。現代の文明社会は、食料、洗剤、医薬品、衣類、家具、情報機器、自動車、建築物などを構成するありとあらゆる物質によって支えられている。これらの物質を研究開発し、製品化し生産する過程に化学は深く関わっている。したがって、社会との関わりも工学を通してもっとも深く、化学は工業化と直結したイメージになりがちだが、一方で、材料自体に高付加価値をつける研究開発が加速していることも見逃せない。たとえば、軽くて強靭な材料の開発は飛行機の低燃費化を実現することができる。情報記録材料や液晶ディスプレイ、有機発光素子などに用いられる新しい素材の開発研究にも化学は重要な役割を果たしており、電子機器産業にも化学者が要請される時代になった。機械工学においてもロボットの開発が進むにつれ、軽くて強い構造体や人工筋肉の開発、駆動させるモーターの小型化など、化学が貢献している範囲は広い。
医学や薬学分野では、生物活性化合物の分離や精製、構造決定や、さらにはその化学合成を通して化学は貢献している。医薬品の化学合成はもとより、DNAの配列を簡単に解読する手法の開発も化学の研究者が中心となって進められている。農学でも目的に特化した農薬や、植物の生育を促進する物質の開発が進められており、化学の貢献が期待されている。
今後は環境問題への関わりもより深くなる。二酸化炭素の排出抑制が宣言され、エネルギー需要の問題を解決するための太陽光電池パネルの材料開発や、クリーンエネルギーとして水素が注目されるなか、危険を回避した貯蔵方法や発生法など、化学が貢献できる領域は多岐にわたる。
化学は物質の性質と変化を調べる学問であり、新しい物質の合成法や分離法、新しい検出法に関わっていることは今も昔も変わらない。現代の文明社会は、食料、洗剤、医薬品、衣類、家具、情報機器、自動車、建築物などを構成するありとあらゆる物質によって支えられている。これらの物質を研究開発し、製品化し生産する過程に化学は深く関わっている。したがって、社会との関わりも工学を通してもっとも深く、化学は工業化と直結したイメージになりがちだが、一方で、材料自体に高付加価値をつける研究開発が加速していることも見逃せない。たとえば、軽くて強靭な材料の開発は飛行機の低燃費化を実現することができる。情報記録材料や液晶ディスプレイ、有機発光素子などに用いられる新しい素材の開発研究にも化学は重要な役割を果たしており、電子機器産業にも化学者が要請される時代になった。機械工学においてもロボットの開発が進むにつれ、軽くて強い構造体や人工筋肉の開発、駆動させるモーターの小型化など、化学が貢献している範囲は広い。
医学や薬学分野では、生物活性化合物の分離や精製、構造決定や、さらにはその化学合成を通して化学は貢献している。医薬品の化学合成はもとより、DNAの配列を簡単に解読する手法の開発も化学の研究者が中心となって進められている。農学でも目的に特化した農薬や、植物の生育を促進する物質の開発が進められており、化学の貢献が期待されている。
今後は環境問題への関わりもより深くなる。二酸化炭素の排出抑制が宣言され、エネルギー需要の問題を解決するための太陽光電池パネルの材料開発や、クリーンエネルギーとして水素が注目されるなか、危険を回避した貯蔵方法や発生法など、化学が貢献できる領域は多岐にわたる。
大学における化学の内容
化学の応用分野は皆さんの想像以上に広い。工学・医学・薬学・農学といった基幹分野にとどまらず、材料科学、環境科学、生命科学などあらゆる分野に応用されている。化学が役立つ領域は多種多様で、科学の関わるどんな分野にも進むべき道を見つけることができるため、基本的な知識と技量をしっかり身につけることが大切となる。そのため、大学の1年次から3年次までは基礎力の強化に重きがおかれた基礎化学を学ぶことになる。「すべての応用は基礎からはじまる」からだ。より細分化し専門化した最先端の化学に触れるのは、4年次で研究室に配属されてからか、大学院に進学してからになる。3年次までに学ぶ基礎化学は、大きく、無機化学、有機化学、分析化学、物理化学の4つに分類できる。
無機化学は主として、金属の酸化物や塩化物などのイオン性結晶や錯体などの合成、構造や物性、反応を広く扱う分野である。元素の性質に応じた分類、イオンや結晶の色、結晶構造、イオン平衡など、高校の化学で学ぶ内容のほとんどが、大学で学ぶ無機化学の一部になっている。新たな物性をもった無機化合物の創製が盛んに行われており、3年次までに基礎力をしっかり身につけておく必要がある。
有機化学は主として第二周期の典型元素を中心とした炭素、酸素、窒素ならびに水素から成る物質の合成、構造と物性、反応を扱う分野である。これらの物質に含まれる元素の種類は多くはないが、物質変換する際の反応の豊富さ、有機化合物の構造の多様性もあるため、初歩的な内容にとどまっていた高校とは異なり、大学で本格的に学ぶことになる。大学では知識のみならず、実験技術の習得もあり学ぶべきことが多い。有機化学は医農薬品や機能性材料など応用範囲が広く、研究対象も多彩だ。
分析化学は、物質の分析法を学ぶ分野である。高校でも学ぶ機会もあり、かつては主に金属イオンについて滴定法や沈殿法による分析操作を行っていたことから、無機化学の一部としてとらえられてきた。しかし、最近では有機化合物の分析、DNAやタンパク質などの生体物質などの特殊な測定法の開発も著しいため、分析化学の対象は幅広い。質量分析器などの先端分析機器の開発も含まれることから物理学や工学などの知識も必要となってくる。
物理化学は、高校では取り扱われることが無かった量子化学を取り入れ、原子の構造を理解し、それをもとに分子構造の理解に応用するとともに、統計熱力学の力も借りて物質の物性や反応を理解する指針を与える。高校で学ぶ原子の構造、性質、熱化学などはこの分野に属しているが、大学ではより深く数学と物理学を使って記述するため、高校の物理で学んだ内容も含んでいる。コンピューター性能の著しい発展もあり、化学反応や物性の理論的な解析にとどまらず、データ科学に基づいて新しい機能性材料を創出することも盛んに行われている。
無機化学は主として、金属の酸化物や塩化物などのイオン性結晶や錯体などの合成、構造や物性、反応を広く扱う分野である。元素の性質に応じた分類、イオンや結晶の色、結晶構造、イオン平衡など、高校の化学で学ぶ内容のほとんどが、大学で学ぶ無機化学の一部になっている。新たな物性をもった無機化合物の創製が盛んに行われており、3年次までに基礎力をしっかり身につけておく必要がある。
有機化学は主として第二周期の典型元素を中心とした炭素、酸素、窒素ならびに水素から成る物質の合成、構造と物性、反応を扱う分野である。これらの物質に含まれる元素の種類は多くはないが、物質変換する際の反応の豊富さ、有機化合物の構造の多様性もあるため、初歩的な内容にとどまっていた高校とは異なり、大学で本格的に学ぶことになる。大学では知識のみならず、実験技術の習得もあり学ぶべきことが多い。有機化学は医農薬品や機能性材料など応用範囲が広く、研究対象も多彩だ。
分析化学は、物質の分析法を学ぶ分野である。高校でも学ぶ機会もあり、かつては主に金属イオンについて滴定法や沈殿法による分析操作を行っていたことから、無機化学の一部としてとらえられてきた。しかし、最近では有機化合物の分析、DNAやタンパク質などの生体物質などの特殊な測定法の開発も著しいため、分析化学の対象は幅広い。質量分析器などの先端分析機器の開発も含まれることから物理学や工学などの知識も必要となってくる。
物理化学は、高校では取り扱われることが無かった量子化学を取り入れ、原子の構造を理解し、それをもとに分子構造の理解に応用するとともに、統計熱力学の力も借りて物質の物性や反応を理解する指針を与える。高校で学ぶ原子の構造、性質、熱化学などはこの分野に属しているが、大学ではより深く数学と物理学を使って記述するため、高校の物理で学んだ内容も含んでいる。コンピューター性能の著しい発展もあり、化学反応や物性の理論的な解析にとどまらず、データ科学に基づいて新しい機能性材料を創出することも盛んに行われている。
化学に興味のある皆さんへ
大学で学ぶ化学は高校の延長線上にある部分もあり、もちろん内容に重なりもあるが、覚えることから理解することに重きが置かれるようになる。高校では「物質Aと物質Bを混合すると物質Cになる」と覚えることが主で、“なぜそうなるの?”という問いにはっきりとした答えを見つけられないことが多いのでは?大学では物質Aと物質Bを混合するとどのように反応して物質Cになるかを学ぶことが主になる。その過程で培った基礎力を発揮して、答えの用意されていない問いに自ら答えを出すのが研究である。4年次や大学院で行う研究活動では、何が正解かわからない問題を紐解く第一歩を踏み出すことになる。こうした課題に果敢に挑戦できる人材を大学では育成しようとしている。
化学を真に理解するためには、自然に潜む論理を学ぶことが大切である。自然現象を論理的に理解しようとする物理学はもとより、数式を使って理路整然と証明する数学も得意な人が望まれる。一方で、鋭い観察力はもちろん、仮説と実験に基づく検証の繰り返しを忍耐強く続けること、ときには実験の間違いすらもきっかけとなって過去の化学の偉大な発見がなされている。物質が変化していく様子に素直に感動できる人、好奇心が強く、手を動かしてみようという実行力のある人こそ化学の道に進んでほしい。
進路は、素材産業(プラスチック、ゴム、ガラスなど)、洗剤、インクなどの身近な化成品製造業のほかに、医薬品や機能性材料などの高付加価値な成品を製造する企業、電気・電子機器メーカーや自動車産業などきわめて幅広い。研究や教育に従事したければ、世界の研究機関が日本の優れた化学を学んだ皆さんを待っている。
化学を真に理解するためには、自然に潜む論理を学ぶことが大切である。自然現象を論理的に理解しようとする物理学はもとより、数式を使って理路整然と証明する数学も得意な人が望まれる。一方で、鋭い観察力はもちろん、仮説と実験に基づく検証の繰り返しを忍耐強く続けること、ときには実験の間違いすらもきっかけとなって過去の化学の偉大な発見がなされている。物質が変化していく様子に素直に感動できる人、好奇心が強く、手を動かしてみようという実行力のある人こそ化学の道に進んでほしい。
進路は、素材産業(プラスチック、ゴム、ガラスなど)、洗剤、インクなどの身近な化成品製造業のほかに、医薬品や機能性材料などの高付加価値な成品を製造する企業、電気・電子機器メーカーや自動車産業などきわめて幅広い。研究や教育に従事したければ、世界の研究機関が日本の優れた化学を学んだ皆さんを待っている。

