何を学ぶ
レントゲンやキューリー夫妻から続く原子・原子核と放射線を活用する工学分野。エネルギーや分析、医療等、幅広い対象分野を特徴とする。

河原林 順(かわらばやし じゅん)先生
東京都市大学/理工学部/教授
1968年生まれ。東京大学大学院工学系研究科修了。博士(工学)。専門は放射線計測。名古屋大学在職時にガンマ線カメラに関する研究を始め、現在も放射線イメージングを研究している。
学問の歴史と将来
レントゲンがX線の存在を報告(1895年)してから130年、この100年以上の間に人類は「物とは何であるか?」に関する深い知識を身につけることになった。特に物質そのものの構成要素に関する知識は、キューリー夫妻やラザフォードらの活躍に端を発し、アインシュタインの質量とエネルギーの同等法則を通じ、分子・原子から原子核・クオークの解明へと、その探査は素粒子物理学の世界で現在も続いている。これら学問の進歩の中で原子核と放射線に関する応用が原子力工学分野の始まりである(原子力工学とその周辺学問については下図参照)。
放射線は、アルファ線やベータ線、ガンマ線などの原子核から放出される高エネルギー粒子や、原子から放出されるX線などが知られており、原子核や原子などの微小な存在と直接リンクしているため、さまざまな分野で応用されている。特にX線はその発生方法が比較的簡易であることから、古くから利用されており、医学応用やX線透過試験、絵画などの分析等に活用されている。たとえば、大英博物館の見どころの一つとして知られている「アンダーソンの猫」は、2500年前にエジプトで作製されたブロンズ製の優美な猫の像であるが、X線を用いるX線蛍光分析法により像の各部分の元素分析がなされた。一体のブロンズ像でありながら各部の元素比率の違いが詳細に調べられ、像がいつの時代に作られ、どのように補修され、どのような経歴を経てきているかが解析され、考古学的資料としての価値が像の横のパネルに説明されている。もし将来、大英博物館を訪れる機会があれば、像を眺めるだけではなく、その横の説明文もよく読んでみることをお勧めする。これら放射線の応用は、物質分析だけではなく他の分野でも利用されている。特に対象を人体とした診断・治療技術の開発は、放射線の人体への影響から古くから行われており、骨折等の診断に使用されるレントゲン撮影や、放射線によるがん治療は悪性腫瘍治療の三大治療法の一つになるなど、広く普及している。
原子核の応用としては、核反応に伴う質量からエネルギーへの転換が着目された。核反応では、燃焼などの化学反応と比較してケタ違いに大きなエネルギーが開放される。オイルショックなどの時代背景の後押しもあり、今でもエネルギーを生み出す発電としての応用が原子力分野の主流となっている。発電のみならずその周辺の核燃料サイクル・廃止措置等の総合的な研究開発が今も続けられており、放射線の負の影響を押さえつつ、温暖化ガスを排出しない一次エネルギー源として世界各国で活用されている。これらの応用開発は順調に進んできたわけではない。開発初期における各国の研究炉の事故、米国スリーマイル島事故、旧ソ連チェルノブイリ事故、日本の東京電力福島第一原子力発電所事故などが起こり、不幸な被害が発生したものの、その都度事故から貴重な教訓を学び取り、より安全になるように構造の変更や、国による規制自体の改善など不断の努力がなされている。原子力発電は本質的に温暖化ガスを排出しないため、一次エネルギー源として世界各国から大きな期待が寄せられている。
放射線は、アルファ線やベータ線、ガンマ線などの原子核から放出される高エネルギー粒子や、原子から放出されるX線などが知られており、原子核や原子などの微小な存在と直接リンクしているため、さまざまな分野で応用されている。特にX線はその発生方法が比較的簡易であることから、古くから利用されており、医学応用やX線透過試験、絵画などの分析等に活用されている。たとえば、大英博物館の見どころの一つとして知られている「アンダーソンの猫」は、2500年前にエジプトで作製されたブロンズ製の優美な猫の像であるが、X線を用いるX線蛍光分析法により像の各部分の元素分析がなされた。一体のブロンズ像でありながら各部の元素比率の違いが詳細に調べられ、像がいつの時代に作られ、どのように補修され、どのような経歴を経てきているかが解析され、考古学的資料としての価値が像の横のパネルに説明されている。もし将来、大英博物館を訪れる機会があれば、像を眺めるだけではなく、その横の説明文もよく読んでみることをお勧めする。これら放射線の応用は、物質分析だけではなく他の分野でも利用されている。特に対象を人体とした診断・治療技術の開発は、放射線の人体への影響から古くから行われており、骨折等の診断に使用されるレントゲン撮影や、放射線によるがん治療は悪性腫瘍治療の三大治療法の一つになるなど、広く普及している。
原子核の応用としては、核反応に伴う質量からエネルギーへの転換が着目された。核反応では、燃焼などの化学反応と比較してケタ違いに大きなエネルギーが開放される。オイルショックなどの時代背景の後押しもあり、今でもエネルギーを生み出す発電としての応用が原子力分野の主流となっている。発電のみならずその周辺の核燃料サイクル・廃止措置等の総合的な研究開発が今も続けられており、放射線の負の影響を押さえつつ、温暖化ガスを排出しない一次エネルギー源として世界各国で活用されている。これらの応用開発は順調に進んできたわけではない。開発初期における各国の研究炉の事故、米国スリーマイル島事故、旧ソ連チェルノブイリ事故、日本の東京電力福島第一原子力発電所事故などが起こり、不幸な被害が発生したものの、その都度事故から貴重な教訓を学び取り、より安全になるように構造の変更や、国による規制自体の改善など不断の努力がなされている。原子力発電は本質的に温暖化ガスを排出しないため、一次エネルギー源として世界各国から大きな期待が寄せられている。
学問の現状と課題
原子力発電は、温暖化ガスを排出しないこと、エネルギー出力をある程度コントロール可能であること等の特性を持つため、安全に使いこなすことが社会から求められている。現在の発電所では核分裂連鎖反応を活用し、ウラン、プルトニウムなどが核分裂した際に放出される膨大なエネルギーを電気エネルギーに転換している。核分裂連鎖反応は、核分裂性物質に中性子を照射し、核分裂核反応を起こさせ、その際に放出されるエネルギーを熱として取り出すと共に、同時に放出される中性子を次の核分裂核反応につなげるものである。核分裂後には放射性の廃棄物が残るため、安全にエネルギーを取り出し、廃棄物を安全に封じ込めることがもっとも重要な課題である。そのための安全研究が盛んに行われており、耐震、保全(経年劣化)、確率論的信頼性評価などの研究や、廃棄物の分類や減容などの処理をする核燃料サイクルや廃止措置の研究がなされている。
また、将来のエネルギー源を目指し、海水中の水素の同位体からエネルギーを取り出す(重水素と三重水素を融合させヘリウムに変化させる核融合反応を活用)核融合発電や、ウラン資源を有効活用する新型炉等の研究開発が国際的に進められている。短時間の核融合はすでに欧州、米国、日本のプラズマ閉じ込め型実験施設などで実現されているものの、反応の長時間の維持やエネルギーを取り出す発電装置としての能力は未知数である。そのため、国際熱核融合実験炉(ITER)の建設がフランスのサン・ポール・レ・デュランスにおいて、日本も含む国際協力プロジェクトとして進められている。また、既存の原子力発電施設よりウラン資源を有効利用可能なナトリウム冷却型高速炉もロシアで実証炉(BN-800)の運転が2016年から始まっている。現在も運転が継続されつつ、発電性能、核燃料サイクルや放射性廃棄物削減などの研究開発が行われている。また、日本や中国で高温ガス炉の運転が、二次エネルギー源として有望である水素の生成・大量供給を視野に入れて進められている。これら発電側の研究開発と同時に、核廃棄物の最終処分場の建設も進んでおり、発電から廃止までの一つの環の完成を目指し、世界各国で開発がなされている。
なお、現在の重要な課題として、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉に関する研究開発も盛んに行われている。放射線下での信頼性の高い遠隔ロボット技術開発や、バーチャル空間に関する研究、取り出した廃棄物の分析技術や処理技術、施設の解体技術などのさまざまな開発が、国や大学、民間企業の協力のもとに進められている。また事故炉のみならず普通に運転を終了した原子力発電施設の廃止措置も進められており、廃棄物の処理方法の確立やそのための技術開発も重要な課題となっている。これら廃止にかかる研究開発と、新しい原子炉に関する研究開発をともに絶え間なく進めていくことにより、持続可能な社会を支え得るエネルギーシステムの構築が可能になると期待される。
原子力分野には、エネルギー応用分野以外にも放射線応用分野や燃料サイクル工学などがあり、放射線を活用した分析技術などの開発が行われている。これらの研究開発は、原子核及び核反応、さらに原子核(又は原子)から放出される放射線を活用した研究開発であり、理系文系問わずさまざまな分野で用いられている。近年はレーザーや加速器、中性子を活用した研究がトレンドであり、レーザー・加速器質量分析器の開発や、ホウ素中性子捕捉療法などがん治療の新しい手法の開発などが、国内外で盛んに行われている。
また、将来のエネルギー源を目指し、海水中の水素の同位体からエネルギーを取り出す(重水素と三重水素を融合させヘリウムに変化させる核融合反応を活用)核融合発電や、ウラン資源を有効活用する新型炉等の研究開発が国際的に進められている。短時間の核融合はすでに欧州、米国、日本のプラズマ閉じ込め型実験施設などで実現されているものの、反応の長時間の維持やエネルギーを取り出す発電装置としての能力は未知数である。そのため、国際熱核融合実験炉(ITER)の建設がフランスのサン・ポール・レ・デュランスにおいて、日本も含む国際協力プロジェクトとして進められている。また、既存の原子力発電施設よりウラン資源を有効利用可能なナトリウム冷却型高速炉もロシアで実証炉(BN-800)の運転が2016年から始まっている。現在も運転が継続されつつ、発電性能、核燃料サイクルや放射性廃棄物削減などの研究開発が行われている。また、日本や中国で高温ガス炉の運転が、二次エネルギー源として有望である水素の生成・大量供給を視野に入れて進められている。これら発電側の研究開発と同時に、核廃棄物の最終処分場の建設も進んでおり、発電から廃止までの一つの環の完成を目指し、世界各国で開発がなされている。
なお、現在の重要な課題として、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉に関する研究開発も盛んに行われている。放射線下での信頼性の高い遠隔ロボット技術開発や、バーチャル空間に関する研究、取り出した廃棄物の分析技術や処理技術、施設の解体技術などのさまざまな開発が、国や大学、民間企業の協力のもとに進められている。また事故炉のみならず普通に運転を終了した原子力発電施設の廃止措置も進められており、廃棄物の処理方法の確立やそのための技術開発も重要な課題となっている。これら廃止にかかる研究開発と、新しい原子炉に関する研究開発をともに絶え間なく進めていくことにより、持続可能な社会を支え得るエネルギーシステムの構築が可能になると期待される。
原子力分野には、エネルギー応用分野以外にも放射線応用分野や燃料サイクル工学などがあり、放射線を活用した分析技術などの開発が行われている。これらの研究開発は、原子核及び核反応、さらに原子核(又は原子)から放出される放射線を活用した研究開発であり、理系文系問わずさまざまな分野で用いられている。近年はレーザーや加速器、中性子を活用した研究がトレンドであり、レーザー・加速器質量分析器の開発や、ホウ素中性子捕捉療法などがん治療の新しい手法の開発などが、国内外で盛んに行われている。
大学での主な科目名の内容とカリキュラム
原子力工学はいわゆる総合工学であり、複数の専門分野によって支えられている。核分裂連鎖反応を活用するための炉物理(原子炉工学)や核燃料材料開発(材料工学)、耐震設計(耐震工学)から、発電機を回すタービン熱水力学(流体工学)、放射線や放射性物質などの安全性を担保するための放射線管理(放射線工学、安全管理学)や計測技術(計測工学)、規制方法(規制法令)、廃棄物の処理や核燃料サイクル(化学、廃止措置工学)など、さまざまな分野に分かれて研究開発が行われている(大学における専門科目の講義例は下表参照)。さらに将来に向け、加速器工学や核融合炉工学、一部は医療応用を目的とした研究開発(医学応用)がなされている。このため、大学において学ばなければならない内容は多岐にわたるのが原子力工学の特徴である。
カリキュラムとしては、数学、語学をベースとし、基礎的な知識を培う物理学、化学、生物学、基礎的な専門知識を涵養する放射線工学、熱流体力学、材料力学、材料工学、計測工学、専門的な知識を学ぶ炉物理、核燃料サイクル工学、廃炉工学、加速器工学、法令等が低学年から高学年まで配置されている。
さらに知識の取得のみならず、実験をベースとした学びや、コミュニケーションやディスカッション能力、さらにチーム活動能力を高めるためのプロジェクト講義や、人文教養も含めたエネルギーや社会環境の講義が横断的に配置されているのが通常である。また計算機やプログラミングに関する講義、AIやデータサイエンス等の講義も取りこまれている。これらの中から必要な科目を自らの興味に従い選択履修しつつ最終的に専門分野を決定し、卒業研究に取り組み社会へと巣立っていくことになる。
このように広い範囲を学んだ後、選択した専門分野について深く学ぶカリキュラムを採用しているため、自らの興味に応じた分野へ進むことが容易である。原子力工学は原子核・放射線と関連付けられればどのような分野でも対象となるため、エネルギー、化学、医学、薬学、宇宙、材料、大規模計算など理工学的な分野のみならず、法令や社会学も教育対象としている大学もあり、さまざまな分野への道が用意されている。このため、特定分野を専門として極めることも可能であると共に、複数の分野を学び複合領域のエキスパートとなることも可能で自由度が高い。さらに大学間や国研などの研究機関との連携も教育や研究両面において模索されている。
意欲のある学生が原子力工学に集まり、自らの進みたい分野へ学びを進め、多様な課題に挑戦し高い教養と力強い勇気を養うことが期待される。
カリキュラムとしては、数学、語学をベースとし、基礎的な知識を培う物理学、化学、生物学、基礎的な専門知識を涵養する放射線工学、熱流体力学、材料力学、材料工学、計測工学、専門的な知識を学ぶ炉物理、核燃料サイクル工学、廃炉工学、加速器工学、法令等が低学年から高学年まで配置されている。
さらに知識の取得のみならず、実験をベースとした学びや、コミュニケーションやディスカッション能力、さらにチーム活動能力を高めるためのプロジェクト講義や、人文教養も含めたエネルギーや社会環境の講義が横断的に配置されているのが通常である。また計算機やプログラミングに関する講義、AIやデータサイエンス等の講義も取りこまれている。これらの中から必要な科目を自らの興味に従い選択履修しつつ最終的に専門分野を決定し、卒業研究に取り組み社会へと巣立っていくことになる。
このように広い範囲を学んだ後、選択した専門分野について深く学ぶカリキュラムを採用しているため、自らの興味に応じた分野へ進むことが容易である。原子力工学は原子核・放射線と関連付けられればどのような分野でも対象となるため、エネルギー、化学、医学、薬学、宇宙、材料、大規模計算など理工学的な分野のみならず、法令や社会学も教育対象としている大学もあり、さまざまな分野への道が用意されている。このため、特定分野を専門として極めることも可能であると共に、複数の分野を学び複合領域のエキスパートとなることも可能で自由度が高い。さらに大学間や国研などの研究機関との連携も教育や研究両面において模索されている。
意欲のある学生が原子力工学に集まり、自らの進みたい分野へ学びを進め、多様な課題に挑戦し高い教養と力強い勇気を養うことが期待される。


