何を学ぶ
コンピュータの全て、基礎から応用まで、ハードウェアからソフトウェアまでを扱う。人工知能やDXの波に乗り、IT業界に限らず人材は引く手あまた。

土屋 達弘(つちや たつひろ)先生
大阪大学/大学院情報科学研究科/教授
1972年広島生まれ。大阪大学基礎工学部出身。助手、講師等を経て、2012年から現職。専門はソフトウェアの高信頼化。著書に『教養のコンピュータアルゴリズム』(共立出版)等がある。
情報工学とは何か?
2020年代は、将来、生成AIの10年として記憶されるかもしれない。ChatGPTのように、人の言葉を理解して、質問に流暢な文章で答えるだけでなく、翻訳や作詞といったさまざまな創造的な課題をこなす人工知能(AI)の登場は、情報技術(IT)の新しい可能性を一般に広く知らしめ、人びとの働き方さえも刷新しようとしている。
また、2024年にはAIの研究者にノーベル物理学賞と化学賞が贈られ、ITの科学への貢献の大きさが改めて認識された。このように、ITはいまや世界を変えていく強大な原動力になっている。
情報工学はIT全般に関わる工学分野であり、その範囲は、コンピュータやコンピュータネットワークの原理といった基礎理論から、それらをどのように利用して問題解決や新しい機能、サービスを実現するかといった応用にまで至る。
また、2024年にはAIの研究者にノーベル物理学賞と化学賞が贈られ、ITの科学への貢献の大きさが改めて認識された。このように、ITはいまや世界を変えていく強大な原動力になっている。
情報工学はIT全般に関わる工学分野であり、その範囲は、コンピュータやコンピュータネットワークの原理といった基礎理論から、それらをどのように利用して問題解決や新しい機能、サービスを実現するかといった応用にまで至る。
情報工学の歴史
情報工学の歴史は、コンピュータとコンピュータネットワークの歴史である。イギリスの科学者、アラン・チューリング(1912~1954)は、情報工学の誕生に大きな役割を果たした人物である。チューリングはコンピュータの誕生に先立ってチューリング機械というコンピュータの仮想的なモデルを考案し、コンピュータで解くことのできない問題が存在することを示した (1936年)。現在の最新鋭のコンピュータも、相対的な速度の差こそあれ、チューリング機械の能力を超えることはできない。
一方、クロード・シャノン(1916~2001)は、より直接的に現在のコンピュータとネットワークの基礎を作ったといえる。シャノンは、学生時代に発表した論文において、コンピュータの実現に必要なデジタル回路の概念を確立した人物である(1937年)。第二次大戦後は、情報の量を数学的に定義するとともに、ネットワークで送ることのできる情報の量の限界(シャノン限界)の存在と、その限界まで効率的にデジタル情報を送ることが可能なことを示した。
実際に動作した最初のコンピュータが何かについては諸説があるが、近代的なデジタルコンピュータについては1940年ごろ誕生したといって間違いない。初期のコンピュータは、「計算機」の名の通り数学的な計算のために用いられ、その用途は主に軍事用であった。異なる処理を行うには配線自体を変える必要があり、大きさも巨大で現代の感覚からは電気設備といった方がふさわしい。やがて、半導体素子や集積回路の発展の恩恵を受けて小型化が進み、現在のスマートフォンの大きさにまで達している。その過程で、ハードウェアの構成(コンピュータアーキテクチャ)、基本ソフトウェア(オペレーティングシステム)、プログラミング技法、また、それらを利用した応用技術などがさまざまに発展していった。
一方、現在ネットワークといえば、インターネットを指すことが普通だろう。インターネットの前身であるARPANETでは、デジタルデータをパケットという細かい単位に分割し、それぞれを通信経路の途中にあるコンピュータが次々と中継して通信を行う仕組みを持っていた。これがインターネットに進化し、現在ではこのような通信方法が当たり前のものとなっている。当初、電子メールやファイルの転送が主な用途であったのが、ウェブページが発明され、さらに映像のライブ配信のように大量のデータを高速で転送することが可能になっている。また、暗号などのセキュリティを実現する技術を活用することで、インターネットを通じてさまざまなサービスを安心して利用することができる。このような通信関連技術の実現も、情報工学の成果といえる。
一方、クロード・シャノン(1916~2001)は、より直接的に現在のコンピュータとネットワークの基礎を作ったといえる。シャノンは、学生時代に発表した論文において、コンピュータの実現に必要なデジタル回路の概念を確立した人物である(1937年)。第二次大戦後は、情報の量を数学的に定義するとともに、ネットワークで送ることのできる情報の量の限界(シャノン限界)の存在と、その限界まで効率的にデジタル情報を送ることが可能なことを示した。
実際に動作した最初のコンピュータが何かについては諸説があるが、近代的なデジタルコンピュータについては1940年ごろ誕生したといって間違いない。初期のコンピュータは、「計算機」の名の通り数学的な計算のために用いられ、その用途は主に軍事用であった。異なる処理を行うには配線自体を変える必要があり、大きさも巨大で現代の感覚からは電気設備といった方がふさわしい。やがて、半導体素子や集積回路の発展の恩恵を受けて小型化が進み、現在のスマートフォンの大きさにまで達している。その過程で、ハードウェアの構成(コンピュータアーキテクチャ)、基本ソフトウェア(オペレーティングシステム)、プログラミング技法、また、それらを利用した応用技術などがさまざまに発展していった。
一方、現在ネットワークといえば、インターネットを指すことが普通だろう。インターネットの前身であるARPANETでは、デジタルデータをパケットという細かい単位に分割し、それぞれを通信経路の途中にあるコンピュータが次々と中継して通信を行う仕組みを持っていた。これがインターネットに進化し、現在ではこのような通信方法が当たり前のものとなっている。当初、電子メールやファイルの転送が主な用途であったのが、ウェブページが発明され、さらに映像のライブ配信のように大量のデータを高速で転送することが可能になっている。また、暗号などのセキュリティを実現する技術を活用することで、インターネットを通じてさまざまなサービスを安心して利用することができる。このような通信関連技術の実現も、情報工学の成果といえる。
情報工学のホットトピック
ここでは情報工学の分野で現在関心が高い話題をピックアップしたい。いまや、人工知能(AI)という言葉を耳にしない日はない。このブームを実際にけん引しているのは、機械学習の技術である。これは、入力されたデータから規則や知識などを学習する手法であり、深層学習と呼ばれる画期的な手法が近年開発され、俄然注目されるようになった(深層学習以前は、犬と猫の写真を区別することさえ困難であった)。機械学習技術を利用する自然言語処理やコンピュータビジョンなどの分野も研究開発が盛んである。自然言語処理とは、人が日常的に使っている自然言語をコンピュータによって解析することであり、音声認識や自動翻訳などの応用がある。ChatGPTを実現しているのも、自然言語処理の技術である。コンピュータビジョンは、画像や映像を処理して情報を得ることのできる、いわばロボットの目を実現する。人工知能以外のIT分野での最近のブームとしては、IoT(Internet of Things)が挙げられる。インターネットに接続されたさまざまな機器と情報交換する仕組みがIoTである。IoTを支えるネットワーク基盤の充実と、IoTを利用した問題解決はますます重要になっており、その応用範囲は、建築、土木、農業分野にも及ぶ。そして、それらのIoT機器から収集されるデータはかつてない速度で増加している。このような大量のデータ、すなわち、ビッグデータをネットワークを通じて収集するとともに、高速に処理し、有用な情報を導き出すための技術開発も盛んである。機械学習の進歩とビッグデータの一般化によって、大きな注目を集めているのが、データ分析に関する科学分野であるデータサイエンスである。大量のデータに対し、複雑な分析手法を高速に適用するためには高度なITが必要であり、情報工学とデータサイエンスの2つの分野は不可分になりつつある。
こういったITの使われ方に応じて、従来からある専門分野にも変革が生じている。たとえば、問題の解き方を考えるアルゴリズムの分野では、これまで想定されていなかった規模の巨大なデータを高速に処理するための研究が行われている。また、機械学習に向いたコンピュータアーキテクチャやプログラミング技術なども注目されている。
また、仮想現実(バーチャルリアリティ)や拡張現実などの実用化が進んでいるのは周知の通りである。映像だけでなく、たとえば、触覚を利用するインターフェースを通して、コンピュータにより身体の拡張を実現する研究も行われている。
図1は、2012年と2022年において、ある国際学会の論文のキーワードとして頻出したものを、ワードクラウドとして表している。2012年ではビッグデータ研究のブームを背景に、query、retrieval、searchといった、データの探索に関連する語が現れている。一方、2022年では、深層学習や機械学習に関連するdeep、learning、machine等が目立っているのがわかる。
こういったITの使われ方に応じて、従来からある専門分野にも変革が生じている。たとえば、問題の解き方を考えるアルゴリズムの分野では、これまで想定されていなかった規模の巨大なデータを高速に処理するための研究が行われている。また、機械学習に向いたコンピュータアーキテクチャやプログラミング技術なども注目されている。
また、仮想現実(バーチャルリアリティ)や拡張現実などの実用化が進んでいるのは周知の通りである。映像だけでなく、たとえば、触覚を利用するインターフェースを通して、コンピュータにより身体の拡張を実現する研究も行われている。
図1は、2012年と2022年において、ある国際学会の論文のキーワードとして頻出したものを、ワードクラウドとして表している。2012年ではビッグデータ研究のブームを背景に、query、retrieval、searchといった、データの探索に関連する語が現れている。一方、2022年では、深層学習や機械学習に関連するdeep、learning、machine等が目立っているのがわかる。
日本の情報工学関連学科とカリキュラム
日本の国立大学に初めて情報工学関連の学科が設立されたのは1970年であり、電気通信大学―工、東京工業大学―理、山梨大学―工、京都大学―工、大阪大学―基礎工の5つの学部に作られた。現在、情報工学に関連する学科は非常に多く、情報学科・専攻協議会の会員一覧には300以上の学科や学類などが登録されている(https://di-council.sakura.ne.jp/)。学科、学類名にはさまざまなものが用いられており、それぞれの特徴を表している。しかし、進学に際しては学科名だけで決めるのではなく、その学科で行われている研究やカリキュラムの特徴をウェブページなどで確認した上で判断したい。たとえば、システムという名前のつく学科は多数あるが、どのようなシステムを指向しているのかは学科によってさまざまな特色がある。
このような情報工学関連学科の内容の多様化に呼応する形で、情報処理学会ではさまざまな領域ごとに教育対象となる知識項目を整理、分類し、カリキュラム標準 J17として公表している。J17では、教育の目標に応じてコンピュータ科学(CS)、情報システム(IS)、ソフトウェアエンジニアリング(SE)、コンピュータエンジニアリング(CE)、インフォメーションテクノロジ(IT)等の7つの領域に分け、領域の教育として最低限押さえておくべき項目を示している。表1はこれらのうち重なりが比較的少ないCS領域、CE領域、IT領域における教育項目を示している。
以下、いくつかの項目について簡単に説明する。プログラミングは情報工学分野では避けては通れない。最近では、小中学校でもプログラミング教育が広く実施されているが、高校の「情報」が理解できていれば問題ない。『プログラミング』などの科目において、大学で必要な内容を学習することができる。反対に、プログラミングは学ぶべきことのごく一部であることに注意しよう。たとえば、絵がいくらきれいでもストーリーがだめならおもしろい漫画にはならないように、プログラミングができてもアルゴリズムがまずければ、満足なプログラムやシステムは実現できない。『アルゴリズムと計算量』では、効率のよい問題解決の手順やそのためのデータの表現、操作方法を学ぶ。『情報保証とセキュリティ』では、暗号や情報システムへの攻撃に対する対策などについて学ぶ。『情報ネットワーク』では、コンピュータネットワークにおいて、データがどのように表現され、どのように目的地へ届けられるかという仕組みや、プログラムを利用して実際にコンピュータ間で通信を行う方法について学ぶ。『組込みシステム』では、IoTの基盤となる、機械や装置などに組み込まれるコンピュータシステムについて学ぶ。画像や映像については『グラフィックスと可視化』で学ぶ。
このようにJ17では情報工学の分野を領域に分けて学ぶべき項目を整理しているのだが、学科名にこれらの領域の名前を持つところは少ない。実際のカリキュラムは、いずれの領域にもオーバーラップしているのが普通であり、やはり、情報を入手した上でどの大学のどの学科を志望するのかを決めるのがよいだろう。特に、最近になってデータサイエンスを前面に掲げる情報工学、情報科学関連の学科や学部が急増している。コンピュータ自体よりデータ分析に興味がある場合は、そのような学校を中心にチェックしてみるとよいかもしれない。
このような情報工学関連学科の内容の多様化に呼応する形で、情報処理学会ではさまざまな領域ごとに教育対象となる知識項目を整理、分類し、カリキュラム標準 J17として公表している。J17では、教育の目標に応じてコンピュータ科学(CS)、情報システム(IS)、ソフトウェアエンジニアリング(SE)、コンピュータエンジニアリング(CE)、インフォメーションテクノロジ(IT)等の7つの領域に分け、領域の教育として最低限押さえておくべき項目を示している。表1はこれらのうち重なりが比較的少ないCS領域、CE領域、IT領域における教育項目を示している。
以下、いくつかの項目について簡単に説明する。プログラミングは情報工学分野では避けては通れない。最近では、小中学校でもプログラミング教育が広く実施されているが、高校の「情報」が理解できていれば問題ない。『プログラミング』などの科目において、大学で必要な内容を学習することができる。反対に、プログラミングは学ぶべきことのごく一部であることに注意しよう。たとえば、絵がいくらきれいでもストーリーがだめならおもしろい漫画にはならないように、プログラミングができてもアルゴリズムがまずければ、満足なプログラムやシステムは実現できない。『アルゴリズムと計算量』では、効率のよい問題解決の手順やそのためのデータの表現、操作方法を学ぶ。『情報保証とセキュリティ』では、暗号や情報システムへの攻撃に対する対策などについて学ぶ。『情報ネットワーク』では、コンピュータネットワークにおいて、データがどのように表現され、どのように目的地へ届けられるかという仕組みや、プログラムを利用して実際にコンピュータ間で通信を行う方法について学ぶ。『組込みシステム』では、IoTの基盤となる、機械や装置などに組み込まれるコンピュータシステムについて学ぶ。画像や映像については『グラフィックスと可視化』で学ぶ。
このようにJ17では情報工学の分野を領域に分けて学ぶべき項目を整理しているのだが、学科名にこれらの領域の名前を持つところは少ない。実際のカリキュラムは、いずれの領域にもオーバーラップしているのが普通であり、やはり、情報を入手した上でどの大学のどの学科を志望するのかを決めるのがよいだろう。特に、最近になってデータサイエンスを前面に掲げる情報工学、情報科学関連の学科や学部が急増している。コンピュータ自体よりデータ分析に興味がある場合は、そのような学校を中心にチェックしてみるとよいかもしれない。
卒業後の進路について
企業に就職する場合、コンピュータ、電気機器、ソフトウェア・情報システム、通信、ゲームといった、ITそのものを生業(なりわい)とする分野の会社が就職先となることが多い。しかし、最近の乗用車のように一見ITとは無関係でも、内実はきわめて複雑なコンピュータであるような機器も多く、そういった機器を開発している会社、たとえば、自動車、精密機器などのメーカーへも多くの人材が進出している。また、金融・保険、建築、食品、警備といった分野でも、ITの活用のため、情報工学関連学科出身者へのニーズは大きい。また、能力とアイデアさえあれば、自分でベンチャー企業を立ち上げることも可能である。
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