何を学ぶ
社会の変化や環境問題など現代的課題と向き合いながら、人の暮らしを支える建築・都市空間をつくり、使い、未来へつなぐための技術やデザインを総合的に学ぶ学問である。

安原 幹(やすはら もとき)先生
東京大学/大学院工学系研究科/教授
1972年大阪府生まれ。東京大学大学院修士課程修了。博士(工学)。東京理科大学准教授などを経て現職。専門は建築意匠・建築設計。SALHAUS一級建築士事務所共同主宰。主な作品に「大船渡消防署住田分署」「守口市立図書館」など。
建築学とはどのような学問か
今、この文章を読んでいる皆さんの多くは、建築の中にいるのではないだろうか。自分の家かもしれないし、学校、図書館、あるいはカフェかもしれない。仮に屋外にいるとしても、周囲を見渡せば、住宅や店舗など、さまざまな建築が目に入るはずだ。建築とはそのように、常に私たちの身近にあって、日常生活の舞台となり、ときにはその背景として存在するものである。そして、建築学とは、そうした建築を「つくる」「使う」「評価する」ための知識や技術を体系的に学ぶ学問である。
建築の歴史は人類の歴史とほぼ重なっている。人間が、雨風をしのぐための居場所をつくった瞬間から、建築は始まったといえるだろう。その意味で建築学は、数ある工学分野の中でも非常に長い歴史を持つ学問だ。そのため、もしかすると、コンピュータや人工知能のような最先端分野と比べ、「あまり変わらない学問」に思えるかもしれない。しかし実際には、建築は長い歴史の中で常に社会や時代とともに変化してきた。世界を見渡せば、気候や文化、宗教、社会制度などの違いに応じた、驚くほど多様な建築が存在している。また、時代の変化に応じて、人びとが建築に求める役割も変わり続けている。たとえば、教育の方法や制度が変わると、学校建築の空間は変わる。かつての学校では、廊下に面して同じ大きさの教室がずらりと並んでいたが、昨今では多様な学びを実現するためのオープンスペースや、少人数での学びが可能な小さなスペースを備えた学校などが一般的になっている。また最近では、新型コロナウイルスの流行をきっかけに、人びとの住まい方や働き方が大きく変化し、住宅やオフィスのあり方も再検討を迫られている。ワークスペースを備えた住宅や、ラウンジやテラスなどでも自由に仕事をすることができるオフィス空間などがその例だ。このように社会の変化に応答し、また、ときにはその変化自体を先取りするような新しい建築空間を構想することも、建築学の重要な役割である。
建築の歴史は人類の歴史とほぼ重なっている。人間が、雨風をしのぐための居場所をつくった瞬間から、建築は始まったといえるだろう。その意味で建築学は、数ある工学分野の中でも非常に長い歴史を持つ学問だ。そのため、もしかすると、コンピュータや人工知能のような最先端分野と比べ、「あまり変わらない学問」に思えるかもしれない。しかし実際には、建築は長い歴史の中で常に社会や時代とともに変化してきた。世界を見渡せば、気候や文化、宗教、社会制度などの違いに応じた、驚くほど多様な建築が存在している。また、時代の変化に応じて、人びとが建築に求める役割も変わり続けている。たとえば、教育の方法や制度が変わると、学校建築の空間は変わる。かつての学校では、廊下に面して同じ大きさの教室がずらりと並んでいたが、昨今では多様な学びを実現するためのオープンスペースや、少人数での学びが可能な小さなスペースを備えた学校などが一般的になっている。また最近では、新型コロナウイルスの流行をきっかけに、人びとの住まい方や働き方が大きく変化し、住宅やオフィスのあり方も再検討を迫られている。ワークスペースを備えた住宅や、ラウンジやテラスなどでも自由に仕事をすることができるオフィス空間などがその例だ。このように社会の変化に応答し、また、ときにはその変化自体を先取りするような新しい建築空間を構想することも、建築学の重要な役割である。
建築学にはどのような分野があるのか
建築学は非常に幅の広い学問であり、いくつかの分野に分類することができる。分野の構成や名称は大学によって異なるが、ここでは代表的な例を紹介する。
〇構法・構造・材料系
これらの分野は、建築の物理的な成り立ちを扱う。建築構法学 では、建築がどのような材料や部材、部品によって構成され、どのような手順や仕組みでつくられているのかを学ぶ。建築がつくられるプロセスの背後にある生産の仕組みや職人・技術者の役割、社会との関係まで含めて考える分野だ。建築構造学 は、力学を基礎として、重力や地震、台風などの力に対して安全な建築をつくるための分野である。同時に、柱の少ない大きな空間を可能にしたり、既存建築の耐震診断や補強を行ったりするなど、建築の可能性を広げる役割も担っている。建築材料学 では、コンクリートや木材、鋼材などの物理・化学・力学的特性を研究し、それらが建築の性能・耐久性・意匠・環境負荷等とどのように関わるかを総合的に扱う。資源循環の観点からも、近年ますます重要になっている分野である。
〇環境・設備系
これらの分野では、人が快適に過ごせる建築環境の実現を考える。建築環境工学 では、熱、空気、光、音、水といった環境要素を対象に、室内外の環境を科学的に分析する。夏涼しく冬暖かい空間、自然光をうまく取り入れた明るい空間、静かで落ち着いた空間などを、数値や実験を通して評価し、計画へとつなげる。建築設備工学 は、空調、照明、給排水、給湯などの設備を計画・設計する分野である。今日、建築には快適性を確保した上で、エネルギー消費や二酸化炭素排出を抑えることが求められており、建築環境工学の知見を生かしながら、それを具体的に実現するための技術体系といえる。
〇意匠・計画・歴史系
建築意匠学 は、いわゆる「デザイン」を扱う分野だが、単に美しい形や奇抜な形を考えることが目的ではない。求められる機能、使い手の行動、周辺環境との関係などの条件に加え、構造や材料、設備といった技術的条件を統合し、建築としてふさわしい空間や形態を構想するための分野である。建築計画学 では、建築が実際にどのように使われているのか、人びとがどのように行動しているのかを調査・分析する。その成果は、例えば住宅や学校、病院などを設計する際の重要な指針として活用される。建築史学 は、過去の建築を単に「古いもの」として扱うのではなく、その時代背景や社会的意味を読み解く学問である。歴史的建築物の保存や活用、さらには現代や未来の設計を考えるための重要な手がかりを与えてくれる。
〇その他の分野
そのほかにも、都市計画やまちづくり、防災工学、建築情報学など、多様な研究領域があり、その広がりは今日ますます拡張している。建築学は、理系学部にありながら、文化・歴史・地理・経済・人間心理、さらには美学といった、文系的、あるいは芸術的な要素をも含む。それゆえ、さまざまな適性の人が自分に合った分野を見つけることができるし、文理の垣根を超えて、幅広い興味を持つ人にもお勧めである。
これらの分野は、建築の物理的な成り立ちを扱う。
これらの分野では、人が快適に過ごせる建築環境の実現を考える。
そのほかにも、都市計画やまちづくり、防災工学、建築情報学など、多様な研究領域があり、その広がりは今日ますます拡張している。建築学は、理系学部にありながら、文化・歴史・地理・経済・人間心理、さらには美学といった、文系的、あるいは芸術的な要素をも含む。それゆえ、さまざまな適性の人が自分に合った分野を見つけることができるし、文理の垣根を超えて、幅広い興味を持つ人にもお勧めである。
建築学科ではどのような学びをするのか
建築学科では、これまでに紹介した多彩な分野を、講義による理論学習と、演習・実験による実践的学習の両面から学ぶ。その中でも、建築学科を特徴づけるのが「設計製図」の授業である。設計製図では、与えられた設計課題に対して、学生一人ひとりがオリジナルな建築を提案する。住宅や学校、図書館、劇場など、さまざまな用途の建築を対象に、敷地の条件や周辺環境、構造や材料、設備などを総合的に考えながら設計を進める。製図室を舞台に、教員と一対一の対話を重ねながら設計内容を練り上げていく過程は「エスキス」と呼ばれる。また、実際の建築を訪れ、空間を体験することも重要な学習の一部である。最終的には、自分のアイデアを図面や模型などのプレゼンテーションとしてまとめ、講評会で発表する。そこには一つの正解はなく、同じ課題でも十人いれば十通りの建築が生まれる。この多様性こそが、建築の大きな魅力である。
建築学が直面している課題
現在、建築学は大きな転換期にある。代表的な課題の一つが環境問題だ。建築・建設分野は、世界全体の二酸化炭素排出量の中で大きな割合を占めており、建設時だけでなく、完成後の建物の使われ方を含め、省エネルギー・低炭素化を進めることが求められている。そのためには、断熱性能や設備機器の効率を上げるのはもちろんのこと、光や風といった自然エネルギーを活用し、人びとにとって快適な空間を追求する必要がある。建築学の諸分野の知見を総動員して取り組むべき課題である。
また、多くの先進国では人口減少が進み、社会は右肩上がりの成長期から、より成熟した段階へと移行しつつある。そうしたなかで、かつてのように古い建物を簡単に壊して新しく建て続けるサイクルは成り立たない。そのため、既存建築を生かしながらその価値を高める「リノベーション」が重要なテーマとなっている。新しく建てる場合であっても、百年単位で使い続けられる建築が求められる。そのためには、単に物理的な耐久性を高めるだけでなく、将来の用途変更や社会の変化に対応できるような柔軟性を持つ空間や、長期にわたって愛され、丁寧に使い続けられるデザインが必要だ。
近年では、木造建築が見直され、住宅だけでなく中大規模の建築も木造で建てられるケースが増えている。木造建築は、CO2排出量の削減や森林資源循環に貢献するだけでなく、部分的な修理や更新を行い、長く手入れしながら使い続けていくのに適しているという特徴もある。法隆寺や薬師寺などの木造寺院が千年以上にわたって使い続けられてきたことはその証であり、そのような持続性は、現代建築でも実現可能なのだ。
さらには、コンピュータ技術を用いた設計やシミュレーション、使い手が設計プロセスや運営に参加する建築のあり方など、新しい試みも広がっている。縮小する社会だからこそ、これまでにない発想で、未来の建築のあり方を構想していくことが、今まさに求められている。日本の建築は、設計・施工の両面において世界的に高い評価を受けており、今後も世界の建築文化をリードすることが期待されている。
また、多くの先進国では人口減少が進み、社会は右肩上がりの成長期から、より成熟した段階へと移行しつつある。そうしたなかで、かつてのように古い建物を簡単に壊して新しく建て続けるサイクルは成り立たない。そのため、既存建築を生かしながらその価値を高める「リノベーション」が重要なテーマとなっている。新しく建てる場合であっても、百年単位で使い続けられる建築が求められる。そのためには、単に物理的な耐久性を高めるだけでなく、将来の用途変更や社会の変化に対応できるような柔軟性を持つ空間や、長期にわたって愛され、丁寧に使い続けられるデザインが必要だ。
近年では、木造建築が見直され、住宅だけでなく中大規模の建築も木造で建てられるケースが増えている。木造建築は、CO2排出量の削減や森林資源循環に貢献するだけでなく、部分的な修理や更新を行い、長く手入れしながら使い続けていくのに適しているという特徴もある。法隆寺や薬師寺などの木造寺院が千年以上にわたって使い続けられてきたことはその証であり、そのような持続性は、現代建築でも実現可能なのだ。
さらには、コンピュータ技術を用いた設計やシミュレーション、使い手が設計プロセスや運営に参加する建築のあり方など、新しい試みも広がっている。縮小する社会だからこそ、これまでにない発想で、未来の建築のあり方を構想していくことが、今まさに求められている。日本の建築は、設計・施工の両面において世界的に高い評価を受けており、今後も世界の建築文化をリードすることが期待されている。
建築を学んだ先にある進路
建築学科を卒業した後の進路は非常に多様である。設計事務所や建設会社で設計や施工に携わる人、ハウスメーカーや建材メーカー、不動産会社、官公庁で活躍する人もいる。大学や研究機関で研究を続ける道もあるし、出版や編集、デザイン、マスコミなど、建設以外の分野に進む人もいる。建築学で培われる「複雑な条件を整理し、自分の考えを形にして伝える力」は、さまざまな分野で生かすことができる。
おわりに
建築は、私たちの日常の中にある大変に身近な存在であると同時に、この世界を読み解くための有効な視座を与えてくれる。自分たちの身体を包み込んでいる空間の成り立ちに、少しでも興味を持ったことがある方は、未来の建築や都市を考える一員として、建築学に挑戦することをぜひ検討してみてほしい。

