何を学ぶ
分子やその集合体に関する科学研究により、実生活に役立つ新素材・物質を作り出す学問分野。日本の化学は世界トップレベルであり、SDGsに物質科学の観点から取り組む。

中村 修一(なかむら しゅういち)先生
名古屋工業大学/大学院工学研究科/教授
1973年、愛知県生まれ。名古屋工業大学大学院工学研究科物質工学専攻修了。工学博士。名古屋工業大学助手、准教授を経て、2018年より現職。専攻は、有機化学、医薬品合成。日本化学会、日本薬学会会員。
化学物質と応用化学
“化学物質”と聞くとどういうイメージを持つだろうか? 国が行った調査によると、一般市民の約6割が化学物質について“害をもたらす悪いイメージ”を持っていると回答している。本当にそうなのだろうか?
私たちの身のまわりは天然物から人工のものまですべて化学物質から成り立っており、これら化学物質は、これまでの人類の発展に大きく寄与してきた。医療の進化は、医薬品、日用品などの化学物質の進化なしには語れないし、スマートフォンなどの電子機器の小型化における新規材料の寄与などを考えれば、化学物質の果たしてきた正の役割は大きい。
しかしながら、近年、環境ホルモン、地球温暖化、オゾン層破壊などの環境問題、食品中の化学物質に関する問題などに代表されるように、化学物質の負の部分も考慮する必要がある。こうした化学物質の正負の両面を、根本から取り扱う学問が“応用化学”であり、文明の発展や社会生活と密接なかかわりを持っている。言い換えれば、応用化学分野の研究が成功しなければ、今後、われわれは現状の生活スタイルを変えねばならないだろう。具体的に、身のまわりにある化学物質を見てみよう。
衣料品にはさまざまな合成繊維が用いられているし、われわれはポリ袋や食器など、さまざまなプラスチック成形品類に囲まれて生活している。近年の情報社会を支えるテレビやパソコン、情報端末もさまざまな化学物質によって構成され、自動車なども同様に化学物質によって支えられている。化粧品、食品保存料、食糧増産を支えるための肥料や農薬なども化学物質である。また、もっとも身近なわれわれの体自身が、タンパク質、脂質、糖類、DNAなどで構築され、それらは生体高分子と呼ばれる化学物質である。こういった化学物質や分子を扱い、その応用まで視野に入れる学問が応用化学である。
私たちの身のまわりは天然物から人工のものまですべて化学物質から成り立っており、これら化学物質は、これまでの人類の発展に大きく寄与してきた。医療の進化は、医薬品、日用品などの化学物質の進化なしには語れないし、スマートフォンなどの電子機器の小型化における新規材料の寄与などを考えれば、化学物質の果たしてきた正の役割は大きい。
しかしながら、近年、環境ホルモン、地球温暖化、オゾン層破壊などの環境問題、食品中の化学物質に関する問題などに代表されるように、化学物質の負の部分も考慮する必要がある。こうした化学物質の正負の両面を、根本から取り扱う学問が“応用化学”であり、文明の発展や社会生活と密接なかかわりを持っている。言い換えれば、応用化学分野の研究が成功しなければ、今後、われわれは現状の生活スタイルを変えねばならないだろう。具体的に、身のまわりにある化学物質を見てみよう。
衣料品にはさまざまな合成繊維が用いられているし、われわれはポリ袋や食器など、さまざまなプラスチック成形品類に囲まれて生活している。近年の情報社会を支えるテレビやパソコン、情報端末もさまざまな化学物質によって構成され、自動車なども同様に化学物質によって支えられている。化粧品、食品保存料、食糧増産を支えるための肥料や農薬なども化学物質である。また、もっとも身近なわれわれの体自身が、タンパク質、脂質、糖類、DNAなどで構築され、それらは生体高分子と呼ばれる化学物質である。こういった化学物質や分子を扱い、その応用まで視野に入れる学問が応用化学である。
学問の現状-化学の範囲
“化学”を英訳した“chemistry”の語源は、“alchemy:錬金術”にあるという。ものを価値の高いものに変質させる、言い換えれば、価値のない分子を意義深い分子に変換するといった意味で、非常に的を射た語源である。分子とは原子と原子が結合してできたもので、その状態や性質を理解することが化学という学問の根源である。また、その分子同士を適切な環境に置くと、新たな結合生成や開裂反応が起きたり、酸化還元反応が起きたりする。さらに、多数の分子が複数の弱い相互作用を起こし、規則的に集合することによって、高機能性を示す場合もある。その究極の集合体が生物であるといえる。すなわち、化学は、分子1個の状態から究極の集合体である生物まで、幅広くカバーする学問である。
応用化学の分野と用途
応用化学の分野は、有機化学、高分子化学、無機化学、分析化学、物理化学、化学工学に大別することができる。こうした分野を化学が扱う材料・技術という点から見ていこう(応用化学分野の相関図も参照)。なお、化学が取り扱う材料とは、有機材料、高分子材料、無機材料、生体材料、医薬品など多岐にわたる。
有機化学分野 :有機材料や分子そのものを研究する分野。炭素、水素、窒素、リン、硫黄、ハロゲンの元素で構成されるものはすべて有機材料だ。
医薬品、農薬の開発にも有機分子に関する知識が必須である。たとえば、新薬を開発する場合、分子式や基本的な性質は同じだが、生体によい影響を与える成分と、悪い影響を与える成分の両方を合わせ持つ化合物がある。そのよい成分と悪い成分を作り分けるために開発されてきた不斉触媒開発の研究において2001年に野依良治先生がノーベル化学賞を受賞している。
また、2010年にノーベル化学賞を受賞された鈴木章先生、根岸英一先生が開発したクロスカップリング反応によって複雑な構造を持つ高機能性有機分子の簡便な合成も可能となってきている。また、2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智先生のイベルメクチンの開発研究は、有機化学の集大成とも言える成果である。
高分子化学分野 :高分子材料を扱う分野。合成繊維や染料、プラスチック、樹脂、接着剤などは有機材料であると同時に、高分子材料でもある。これら高分子材料は身のまわりを埋め尽くしていて、その重要性は高い。また、近年では、環境に配慮した生分解性プラスチックも注目を集めている。
2000年にノーベル化学賞を受賞された白川英樹先生が開発に携わった電流を流すことのできるプラスチックは、スマートフォンやノート型パソコンなどに使われ、身近な高分子材料だ。また、宇宙・航空材料などにも高分子材料は使われ、さらなる高性能化が求められる分野である。また、タンパク質、DNAなどの生体高分子を分子レベルで取り扱って生命原理を探求したり、機能改変を行ったりもする。緑色に光るタンパク質の発見でノーベル化学賞を受賞した下村脩先生は、この分野の研究者である。
無機化学分野 :無機材料の分子の研究を行う分野。無機材料としては、セラミックスや陶器、セメントなどがあり、タイルや食器にも使われている。これらの無機化合物は磁性や強誘電性を持つものや、電気伝導度の高いものもあり、エレクトロニクス材料としても広く用いられる。また、角砂糖ほどの大きさの半導体中に図書館の情報をすべて詰め込むことのできるメモリ・ハードディスクの開発には、磁性材料をナノメートル間隔で規則的に並べる技術が必要であり、これらの開発には、無機化学を駆使する必要がある。また、タンパク質の中心での金属錯体の触媒機能、電子伝達機能の研究なども行う。さらには、光触媒として知られる酸化チタン、赤﨑勇先生・天野浩先生・中村修二先生らがノーベル物理学賞を受賞した青色発光ダイオードやリチウムイオン電池の開発で受賞した吉野彰先生の研究なども無機化学分野の研究である。
分析化学分野 :さまざまな物質の性質を解明する目的で、分子や原子の同定や定量を精密に行う分野。この分野では、2002年のノーベル化学賞を受賞された田中耕一先生が生体高分子を解析する質量分析装置の開発を行い、世界の化学をリードした。
物理化学分野 :分子軌道と呼ばれる電子が描く軌道を考慮し、分子を理論的かつ統一的に解釈したり、その理論計算を高度に発展したコンピュータを用いたりすることにより、実験で起こることを予測したりする分野。これらは高機能な分子を設計する際に必要となる。日本人としてはじめてノーベル化学賞を受賞した福井謙一先生は、この分野の研究で大きな基礎を築いている。
さらに、固体、液体、気体状態での物質の持つ光、熱、磁性、伝導性などの物性を明らかにするのも物理化学である。化学は経験的な科学であったが、この物理化学分野の発展により、未知の化合物の性質や反応性についてかなり予測できるようになった。
化学工学分野 :人類の発展のために開発された有意義な物質を、安全・安価に大量合成する技術を探求する分野。身のまわりにあるプラスチック、繊維、医薬品類は、原料をたどれば石油である。そこから触媒を用いて炭化水素を効率的に産出する手法や、より有用な化合物を製造するための化学プラントの精密な安全設計などは、この学問によって保証される。持続可能な社会を作り上げていく上で、高機能な材料の開発と環境にやさしい合成法(グリーンケミストリー)の同時開発が近年の重要な研究課題である。
応用化学分野内の複合的な発展例の一例として、テレビやパソコンのディスプレイを取り上げてみよう。こうしたディスプレイに以前使われていたブラウン管は家電店から完全に姿を消し、有機物を用いる薄型液晶テレビにとってかわるようになった。ここで使われている液晶分子は、結晶と液体の中間の性質を持ち、分子および分子集合体を扱う化学により開発された重要な材料である。規則的に並んでいる分子の向きを電気の力で変化させ、光を遮ったり表示したりする。
また、ガラスのように透明でありながら、金属のように電気を通す透明電極として、照明や太陽電池などの光と電気を使う機器に広く利用される酸化インジウムに関しては、無機化学の研究が生かされている。
さらに最近では、有機EL素子と呼ばれる自己発光性の分子を用い、紙に近い形状のディスプレイも製造されている。こうした液晶材料、有機EL素子分子の開発は、これまでに蓄積されてきた有機化学、無機化学と物理化学の知識を総合して行われている。新規物質の設計と合成、新素材の構築を原子・分子レベルで行うのが、応用化学系学科である。
医薬品、農薬の開発にも有機分子に関する知識が必須である。たとえば、新薬を開発する場合、分子式や基本的な性質は同じだが、生体によい影響を与える成分と、悪い影響を与える成分の両方を合わせ持つ化合物がある。そのよい成分と悪い成分を作り分けるために開発されてきた不斉触媒開発の研究において2001年に野依良治先生がノーベル化学賞を受賞している。
また、2010年にノーベル化学賞を受賞された鈴木章先生、根岸英一先生が開発したクロスカップリング反応によって複雑な構造を持つ高機能性有機分子の簡便な合成も可能となってきている。また、2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智先生のイベルメクチンの開発研究は、有機化学の集大成とも言える成果である。
2000年にノーベル化学賞を受賞された白川英樹先生が開発に携わった電流を流すことのできるプラスチックは、スマートフォンやノート型パソコンなどに使われ、身近な高分子材料だ。また、宇宙・航空材料などにも高分子材料は使われ、さらなる高性能化が求められる分野である。また、タンパク質、DNAなどの生体高分子を分子レベルで取り扱って生命原理を探求したり、機能改変を行ったりもする。緑色に光るタンパク質の発見でノーベル化学賞を受賞した下村脩先生は、この分野の研究者である。
さらに、固体、液体、気体状態での物質の持つ光、熱、磁性、伝導性などの物性を明らかにするのも物理化学である。化学は経験的な科学であったが、この物理化学分野の発展により、未知の化合物の性質や反応性についてかなり予測できるようになった。
応用化学分野内の複合的な発展例の一例として、テレビやパソコンのディスプレイを取り上げてみよう。こうしたディスプレイに以前使われていたブラウン管は家電店から完全に姿を消し、有機物を用いる薄型液晶テレビにとってかわるようになった。ここで使われている液晶分子は、結晶と液体の中間の性質を持ち、分子および分子集合体を扱う化学により開発された重要な材料である。規則的に並んでいる分子の向きを電気の力で変化させ、光を遮ったり表示したりする。
また、ガラスのように透明でありながら、金属のように電気を通す透明電極として、照明や太陽電池などの光と電気を使う機器に広く利用される酸化インジウムに関しては、無機化学の研究が生かされている。
さらに最近では、有機EL素子と呼ばれる自己発光性の分子を用い、紙に近い形状のディスプレイも製造されている。こうした液晶材料、有機EL素子分子の開発は、これまでに蓄積されてきた有機化学、無機化学と物理化学の知識を総合して行われている。新規物質の設計と合成、新素材の構築を原子・分子レベルで行うのが、応用化学系学科である。
エネルギー問題、地球温暖化問題
東日本大震災をきっかけとした電力需給のひっ迫と代替クリーンエネルギーへの転換の要望を考慮すると、高機能な色素増感型ならびに有機薄膜型太陽電池の開発、植物からとれるバイオエタノールなどを燃料として利用する手法の開発が強く求められており、応用化学分野がこれから果たすべき役割は大きい。
たとえば、水素と酸素の燃焼から水とエネルギーを生み出す燃料電池は、クリーンエネルギーの代表技術として注目されているが、現状では、その触媒として希少貴金属である白金が用いられている。こういった貴金属類は資源量に限りがあり、作れば作るほどその希少金属の枯渇化が進行するため、常温常圧で働く高効率触媒の開発が強く望まれている。
このように、すべての物質創成において、地球環境問題への対応などが求められている。こうした点では、まだまだ応用化学分野は未解決な課題を数多く残しており、これから大学で研究を行う学生たちのチャレンジに期待していると言ってもいい。
たとえば、水素と酸素の燃焼から水とエネルギーを生み出す燃料電池は、クリーンエネルギーの代表技術として注目されているが、現状では、その触媒として希少貴金属である白金が用いられている。こういった貴金属類は資源量に限りがあり、作れば作るほどその希少金属の枯渇化が進行するため、常温常圧で働く高効率触媒の開発が強く望まれている。
このように、すべての物質創成において、地球環境問題への対応などが求められている。こうした点では、まだまだ応用化学分野は未解決な課題を数多く残しており、これから大学で研究を行う学生たちのチャレンジに期待していると言ってもいい。
学科内の構成、授業科目、研究活動
応用化学系学科内は幾つかの分野に分かれており、大学によって違いはあるが、先述のような有機化学、高分子化学、無機化学、分析化学、物理化学、化学工学の各分野がある。また、触媒化学、バイオ工学、電気化学、環境化学などが応用化学系学科に含まれることもある。それぞれの分野に研究室があり、教授、准教授、助教などの教員がいる。
卒業研究と大学院
通常は4年生になると、研究室に配属され卒業研究を行う。受動的に勉強・実験するのではなく、ここからは自ら考え研究・実験を行うこととなる。研究室には、教員のほか博士課程や修士課程の学生がおり、これらの先輩から、手取り足取り実験技術を教わりながら、研究者としての素養を身につけていく。また、卒業研究論文をまとめるという経験は、学生を大きく成長させるだろう。
最近、化学系研究職へ就職する場合は、大学院に進学することが一般的である。最近の名古屋工業大学の現状では7〜8割の学生が大学院へ進学し、社会のニーズに的確に応えるため、さらに専門的な知識、研究技術、論理的思考、プレゼンテーション能力の向上に励んでいる。その後も博士後期課程に進み専門性を深く掘り下げ、博士号を取得し、企業、大学、研究機関で研究を続ける道もある。
最近、化学系研究職へ就職する場合は、大学院に進学することが一般的である。最近の名古屋工業大学の現状では7〜8割の学生が大学院へ進学し、社会のニーズに的確に応えるため、さらに専門的な知識、研究技術、論理的思考、プレゼンテーション能力の向上に励んでいる。その後も博士後期課程に進み専門性を深く掘り下げ、博士号を取得し、企業、大学、研究機関で研究を続ける道もある。
理学部と工学部の比較、他分野との比較
化学については、理学部と工学部のいずれでも学べる。どちらを選べばいいのかと悩むかもしれない。化学の根源を学ぶという点では、理学部と工学部は大きな差はないだろう。しかし、理学部には高分子系、材料系の分野が少なく、化学工学分野の多くは工学部にあるなどの違いがある。また、工学部には材料系、環境化学系、バイオサイエンス系の化学が学べる学科も多い。応用化学系分野は、それら化学全般を学ぶという点で、化学およびその関連技術の総合商社・デパートであると言える。
化学は就職に強いか?
化学系学科は、不況においても求人率があまり下がらず、就職に強いと言われる。なぜだろうか? 化学関連産業の工業出荷高は、国内製造業のなかで輸送用機械に次ぐ第2位に当たり、紛れもない国の基幹産業である。景気によって輸送用機械、電気機器などの需要が変動しても、医・農薬品、食品、衣料品などを含む化学分野の製品は景気変動が比較的少ない。
実際に応用化学系学科の就職先を調べてみると、化学工業だけではなく、製薬会社、食品会社、自動車会社、情報・通信産業など幅広い。新しく高機能な“もの”を作るためには物質への理解が必要となるため、応用化学系学科の卒業生の活躍分野は無限であると言えよう。
実際に応用化学系学科の就職先を調べてみると、化学工業だけではなく、製薬会社、食品会社、自動車会社、情報・通信産業など幅広い。新しく高機能な“もの”を作るためには物質への理解が必要となるため、応用化学系学科の卒業生の活躍分野は無限であると言えよう。
日本の化学は、世界のトップレベル
昨今のノーベル賞の受賞やその他の有名な賞や学会における研究発表を見ても、化学技術は日本が得意とする学問分野であることがわかる。合成技術、分析技術、応用技術のすべてにおいて、日本は世界のトップレベルであり、世界の各先進国から常に注目されるべき存在を保ち続けている。日本の化学者たちは常に世界初の発見をするために、日々手を休めることなく研究し、有名な科学雑誌に論文を発表している。よりよい社会を作っていくために化学は日々進化しているのだ。
日本のお家芸である「ものづくり」の基本技術である化学技術を日本で勉強することは、世界トップレベルの環境で勉強することを意味し、21世紀の世界をリードする人材へと成長するのに適した環境であると言える。最先端の環境で、無限の可能性を秘めた若者がチャレンジする素地が整っている。
日本のお家芸である「ものづくり」の基本技術である化学技術を日本で勉強することは、世界トップレベルの環境で勉強することを意味し、21世紀の世界をリードする人材へと成長するのに適した環境であると言える。最先端の環境で、無限の可能性を秘めた若者がチャレンジする素地が整っている。

