何を学ぶ
地球表面の約7割を占める海洋で展開される海上物流、食糧供給、資源開発、自然エネルギー利用、科学研究など、人類に不可欠な活動を担う船舶の技術や海洋工学について学ぶ。

和田 良太(わだ りょうた)先生
東京大学/大学院新領域創成科学研究科海洋技術環境学専攻/准教授
1982年、大阪府生まれ。東京大学大学院新領域創成科学研究科海洋技術環境学専攻博士課程修了。2020年より現職。専門は海洋工学分野における統計科学、データ科学の応用。
人類と海
海洋は地球表面の約7割を占めており、多様な生態系を形成している。また熱、水、炭素などの循環を調整することで地球規模の気候を調節している。海は地球というシステムを維持する上で重要な役割を担っている。
人類は、古くから魚介類などの食料を海から採取し、物資および人の移動に海を利用してきた。航空機が発達した今日でも、貨物輸送の99%は船舶による輸送に依存している。20世紀半ばには石油・天然ガスを海から得るようになり、大量の鉱物資源も海で発見された。
そして今、人類は気候変動への対策として、海洋の再生可能エネルギーや海底下二酸化炭素貯留など、海の持つポテンシャルを環境と調和した形で有効に利用しようとしている。
船舶・海洋工学は、人類が海を知り、利用し、そして守るための工学である。
人類は、古くから魚介類などの食料を海から採取し、物資および人の移動に海を利用してきた。航空機が発達した今日でも、貨物輸送の99%は船舶による輸送に依存している。20世紀半ばには石油・天然ガスを海から得るようになり、大量の鉱物資源も海で発見された。
そして今、人類は気候変動への対策として、海洋の再生可能エネルギーや海底下二酸化炭素貯留など、海の持つポテンシャルを環境と調和した形で有効に利用しようとしている。
船舶・海洋工学は、人類が海を知り、利用し、そして守るための工学である。
船舶・海洋工学の歴史
船舶・海洋工学は造船業に端を発している。わが国の近代造船業は、江戸末期の“黒船来航”をきっかけに、進歩した西欧の造船技術を導入したことで幕が開かれた。多くの日本人留学生が先進諸国へ派遣され、外国人技術者が積極的に招かれた。以来、わが国の造船技術者のたゆまぬ努力の結果、1956年には造船量世界一になり、現在も生産シェアは世界第3位の地位を占めている。造船業は社会の変革の中で、大型化や液化ガス輸送などの技術開発が進み、今後は高度な技術を駆使した自律運航船などの実用化が期待される。
また、世界有数の深度6500mまで潜水可能な有人潜水調査船「しんかい6500」や無人探査機「かいこう7000Ⅱ」、深海底を掘削して地球内部を探査するきわめて高度な地球深部探査船「ちきゅう」などがわが国で造られている。さらに、広大な海洋空間を利用する浮体式洋上風力発電研究など浮体技術や海中技術の開発も進められている。
また、世界有数の深度6500mまで潜水可能な有人潜水調査船「しんかい6500」や無人探査機「かいこう7000Ⅱ」、深海底を掘削して地球内部を探査するきわめて高度な地球深部探査船「ちきゅう」などがわが国で造られている。さらに、広大な海洋空間を利用する浮体式洋上風力発電研究など浮体技術や海中技術の開発も進められている。
新たな役割と展開
船舶・海洋工学は、長らく船舶や海洋構造物といった大型構造物を作ることに取り組んできた。近年は重厚長大なものづくりに加えて、エネルギーの開発や地球環境問題といった人類社会が抱えるさまざまな課題の解決や、ビッグサイエンスである地球の科学的探査などの先端研究にも取り組んでいる。
■低炭素船・自律運航船の開発
全世界の船舶から排出されるCO2の量はドイツ一国分に匹敵するほど大きく、この削減に向けて世界各国でさまざまな取り組みが展開されている。
日本では高い技術力を生かした水素・アンモニアなどのゼロエミッション船や自動運航を取り入れた次世代船の開発が進められている。また、地球温暖化により北極域の氷が少なくなったことを利用した北極海航路の開発も進められている。
また船舶運航においても自動化が進み、日本でも積極的な開発が進められている。こうした複雑な船舶の設計を行うために、シミュレーションなどを活用したモデルベース開発(MBD)などのデジタルエンジニアリング導入に向けた取り組みも進められている。
■海洋再生可能エネルギー利用
海洋における風、太陽光、潮汐、潮流、海流、海洋温度差などの海洋再生可能エネルギーの利用を目指した研究開発が進められている。特に海上の強い風を活用した洋上風力発電の導入が拡大しており、深い海域でも展開できる浮体式洋上風力発電の開発も期待されている。
■資源・エネルギー開発
魚介類などの食料資源や海洋石油など、これまでも多くの資源が海洋から供給されている。非資源国の日本においても、世界6番目の広さを持つ排他的経済水域には豊富な資源の存在が確認されており、メタンと水とが結合し結晶化したメタンハイドレートやレアメタル、レアアースを含む深海底鉱物資源などの利用を目指した研究開発が進められている。
■地球の科学的調査
海洋の利用や災害防止の前提となるのが、海底を含む海洋の十分な科学的理解である。海洋は「地球最後のフロンティア」と呼ばれる未知な領域であり、深海底の未知生物や地震震源域の海底亀裂調査などに活躍する有人潜水調査船「しんかい6500」や無人探査機「かいこうⅡ」、深海底を掘削して地球内部の地層資料を採取する地球深部探査船「ちきゅう」などの先端科学を可能とする技術を海洋工学が支えている。衛星データや通信など宇宙と連携した海洋調査も広がっている。
■海洋の空間利用
船舶・海洋工学で蓄積された高度な設計技術や生産技術を利用して、長さ、幅ともに数キロメートルになる巨大な浮体構造物の技術(メガフロート技術)が国家プロジェクトとして開発された。埋め立てによる土地造成と異なり、地震の影響を受けず、また移動や撤去が容易なことから、自然環境への影響が少ないなどの特徴がある。また浮体を利用した沖合養殖システムや、地球温暖化対策として海底下にCO2を貯留するプロジェクトなども取り組まれている。
■地球環境問題
広大な海洋が地球環境に及ぼす影響はきわめて大きい。海洋の膨大な海水は、太陽から地球上に降り注ぐエネルギーの貯蔵庫であるとともに、地球規模の熱や物質の循環に重要な役割を担っている。また、大気中のCO2の吸収源としても重要である。他分野の研究者と協力して海洋環境の長期にわたる変動把握、保全と回復のための諸技術を発展させている。
■低炭素船・自律運航船の開発
全世界の船舶から排出されるCO2の量はドイツ一国分に匹敵するほど大きく、この削減に向けて世界各国でさまざまな取り組みが展開されている。
日本では高い技術力を生かした水素・アンモニアなどのゼロエミッション船や自動運航を取り入れた次世代船の開発が進められている。また、地球温暖化により北極域の氷が少なくなったことを利用した北極海航路の開発も進められている。
また船舶運航においても自動化が進み、日本でも積極的な開発が進められている。こうした複雑な船舶の設計を行うために、シミュレーションなどを活用したモデルベース開発(MBD)などのデジタルエンジニアリング導入に向けた取り組みも進められている。
■海洋再生可能エネルギー利用
海洋における風、太陽光、潮汐、潮流、海流、海洋温度差などの海洋再生可能エネルギーの利用を目指した研究開発が進められている。特に海上の強い風を活用した洋上風力発電の導入が拡大しており、深い海域でも展開できる浮体式洋上風力発電の開発も期待されている。
■資源・エネルギー開発
魚介類などの食料資源や海洋石油など、これまでも多くの資源が海洋から供給されている。非資源国の日本においても、世界6番目の広さを持つ排他的経済水域には豊富な資源の存在が確認されており、メタンと水とが結合し結晶化したメタンハイドレートやレアメタル、レアアースを含む深海底鉱物資源などの利用を目指した研究開発が進められている。
■地球の科学的調査
海洋の利用や災害防止の前提となるのが、海底を含む海洋の十分な科学的理解である。海洋は「地球最後のフロンティア」と呼ばれる未知な領域であり、深海底の未知生物や地震震源域の海底亀裂調査などに活躍する有人潜水調査船「しんかい6500」や無人探査機「かいこうⅡ」、深海底を掘削して地球内部の地層資料を採取する地球深部探査船「ちきゅう」などの先端科学を可能とする技術を海洋工学が支えている。衛星データや通信など宇宙と連携した海洋調査も広がっている。
■海洋の空間利用
船舶・海洋工学で蓄積された高度な設計技術や生産技術を利用して、長さ、幅ともに数キロメートルになる巨大な浮体構造物の技術(メガフロート技術)が国家プロジェクトとして開発された。埋め立てによる土地造成と異なり、地震の影響を受けず、また移動や撤去が容易なことから、自然環境への影響が少ないなどの特徴がある。また浮体を利用した沖合養殖システムや、地球温暖化対策として海底下にCO2を貯留するプロジェクトなども取り組まれている。
■地球環境問題
広大な海洋が地球環境に及ぼす影響はきわめて大きい。海洋の膨大な海水は、太陽から地球上に降り注ぐエネルギーの貯蔵庫であるとともに、地球規模の熱や物質の循環に重要な役割を担っている。また、大気中のCO2の吸収源としても重要である。他分野の研究者と協力して海洋環境の長期にわたる変動把握、保全と回復のための諸技術を発展させている。
船舶・海洋工学のカリキュラム
船舶・海洋工学の特徴の一つは、諸分野の工学を総合して、人間社会のニーズに応えるシステムを作りあげる総合工学であることにある。
現在、船舶・海洋工学の教育を行っている学科は、数多くないが、工学部あるいは理工学部の総合工学系、環境工学系などの学科において、船舶海洋工学や海洋システム工学といったコースにより実施されている。以下に教育内容を簡単に紹介する。
船舶・海洋工学では、現象を定量的に理解し、その性能を予測する手法を用いるのが一般的である。そのため、高校では数学、物理を履修しておくことが望ましい。
1)基礎科目
低学年では、専門科目を学ぶために必要な基礎工学や工学的素養に関する科目を広く学ぶ。主なものは、数学、力学、流体力学、材料力学、機械工学、電気工学、海洋学、制御工学、製図法などがある。
2)専門科目
高学年に進むと、専門科目を学ぶことになる。専門科目は、大きく分類すると、次の5つの分野に分けられる。また、これらを横断的に学習し、学習への動機づけを行うことや、船舶・海洋工学の特徴である総合工学の側面について学ぶ「デザイン」や「ものつくり」演習などプロジェクト型学習(PBL)の導入が盛んである。
①流体に関する科目
船舶や海洋構造物などと、それらを取り巻く流体との関係について学ぶ分野である。浮体静力学、抵抗理論、推進理論、運動理論、熱物質移動論などを学ぶ。
②構造に関する科目
船舶や海洋構造物の強さに関する分野で、構造工学、浮体構造工学、信頼性工学、振動学などを学ぶ。
③システムに関する科目
船舶や海洋構造物などを、全体として取りまとめる方法に関する分野で、設計論、CAD/CAM、システム工学、情報工学、艤装(ぎそう)工学、海洋機器工学、海中ロボット工学、高速艇やヨット、海上輸送、物流のシステムなどを学ぶ。近年はシミュレーションモデルを活用したシステム設計を扱う講義も増えている。
④生産に関する科目
船舶や海洋構造物の生産技術に関するもので、材料工学、接合工学、生産システム工学などを学ぶ。
⑤海洋環境に関する科目
海洋を理解し、地球環境問題などに取り組むための分野で、海洋環境工学をはじめ、海洋流体力学、海洋空間利用、海洋開発工学などを学ぶ。
3)ゼミナール、卒業研究
最終学年になると、修得した知識を深化し、総合化・具体化する能力を高めるために、特別な課題を取り上げて学ぶゼミナールや卒業研究がある。ゼミナールや卒業研究では、学生が単独または少人数のグループで、担当教員の指導のもと、船舶・海洋工学に関わる流体工学、材料工学、構造工学、制御工学、生産工学、設計工学に関する調査や研究を行う。また、高速艇、ヨット、自律運航船などのいろいろな船舶の設計を行う。教室での授業と比較して、卒業研究では学生による自主的かつ探索的な学習が重んじられる。
現在、船舶・海洋工学の教育を行っている学科は、数多くないが、工学部あるいは理工学部の総合工学系、環境工学系などの学科において、船舶海洋工学や海洋システム工学といったコースにより実施されている。以下に教育内容を簡単に紹介する。
船舶・海洋工学では、現象を定量的に理解し、その性能を予測する手法を用いるのが一般的である。そのため、高校では数学、物理を履修しておくことが望ましい。
1)基礎科目
低学年では、専門科目を学ぶために必要な基礎工学や工学的素養に関する科目を広く学ぶ。主なものは、数学、力学、流体力学、材料力学、機械工学、電気工学、海洋学、制御工学、製図法などがある。
2)専門科目
高学年に進むと、専門科目を学ぶことになる。専門科目は、大きく分類すると、次の5つの分野に分けられる。また、これらを横断的に学習し、学習への動機づけを行うことや、船舶・海洋工学の特徴である総合工学の側面について学ぶ「デザイン」や「ものつくり」演習などプロジェクト型学習(PBL)の導入が盛んである。
①流体に関する科目
船舶や海洋構造物などと、それらを取り巻く流体との関係について学ぶ分野である。浮体静力学、抵抗理論、推進理論、運動理論、熱物質移動論などを学ぶ。
②構造に関する科目
船舶や海洋構造物の強さに関する分野で、構造工学、浮体構造工学、信頼性工学、振動学などを学ぶ。
③システムに関する科目
船舶や海洋構造物などを、全体として取りまとめる方法に関する分野で、設計論、CAD/CAM、システム工学、情報工学、艤装(ぎそう)工学、海洋機器工学、海中ロボット工学、高速艇やヨット、海上輸送、物流のシステムなどを学ぶ。近年はシミュレーションモデルを活用したシステム設計を扱う講義も増えている。
④生産に関する科目
船舶や海洋構造物の生産技術に関するもので、材料工学、接合工学、生産システム工学などを学ぶ。
⑤海洋環境に関する科目
海洋を理解し、地球環境問題などに取り組むための分野で、海洋環境工学をはじめ、海洋流体力学、海洋空間利用、海洋開発工学などを学ぶ。
3)ゼミナール、卒業研究
最終学年になると、修得した知識を深化し、総合化・具体化する能力を高めるために、特別な課題を取り上げて学ぶゼミナールや卒業研究がある。ゼミナールや卒業研究では、学生が単独または少人数のグループで、担当教員の指導のもと、船舶・海洋工学に関わる流体工学、材料工学、構造工学、制御工学、生産工学、設計工学に関する調査や研究を行う。また、高速艇、ヨット、自律運航船などのいろいろな船舶の設計を行う。教室での授業と比較して、卒業研究では学生による自主的かつ探索的な学習が重んじられる。
大学院での教育と研究
学部で学ぶことは基礎的な知識にとどまるため、高度な技術および理論を修得するためには大学院に進む必要がある。大学院では、より専門的で高度な教育に加えて、多くの場合、主体的に課題設定や仮説検証を行う修士研究に取り組む。
近年、大学院の重点化が進み、大学における教育および研究の主体が、従来の学部から大学院に移行しつつある。その結果、船舶・海洋工学系の学科が、大学院では地球総合工学系、または地球環境工学系などに属しているところもある。それに伴って、船舶・海洋工学系の学部卒業生が、大学院では環境工学などの分野へ進学することも多い。
近年、大学院の重点化が進み、大学における教育および研究の主体が、従来の学部から大学院に移行しつつある。その結果、船舶・海洋工学系の学科が、大学院では地球総合工学系、または地球環境工学系などに属しているところもある。それに伴って、船舶・海洋工学系の学部卒業生が、大学院では環境工学などの分野へ進学することも多い。
卒業後の進路
船舶・海洋工学は総合工学であり、海洋分野で活躍するための専門性だけでなく、幅広い基礎知識を土台に巨大で複雑なシステムを取りまとめる能力が養われる。そのため、卒業生は、造船、重機械工業をはじめ、自動車工業、航空機工業、製鉄業、電機工業、建設業、海運、物流、情報処理、商社、銀行、証券、シンクタンク、コンサルタント、官公庁など、多方面で活躍している。

