何を学ぶ
地球上の有限な(天然・人工)資源に対して、その多様な価値を高め、経済・社会・環境と調和した持続可能な方法で、可能な限り循環させながら利活用するための学問。

所 千晴(ところ ちはる)先生
早稲田大学/理工学術院/教授、
東京大学大学院/工学系研究科/教授
東京大学大学院/工学系研究科/教授
1975年神戸生まれ。早稲田大学理工学部資源工学科(現環境資源工学科)卒、東京大学大学院工学系研究科地球システム工学専攻(現システム創成学専攻)修了。博士(工学)。専門は資源循環工学。主な著書に「資源循環論から考えるSDGs(エネルギーフォーラム社)」など。
資源工学の歴史
資源とは、人間生活や産業に利用できるもの全てを指す。すなわち、私たちが役立つと認識するものは全て資源である。しかし私たちの価値観は時代と共に変遷しているので、資源の対象もまた時代と共に変化している。したがって、資源工学は常に時代の要請と共に対象を変えて発展してきた学問である。
資源工学は、古くは採鉱・冶金、あるいは鉱山と呼ばれる工学分野で発展してきた。これは、鉱物や石炭、石油など、地下資源を私たちが利用できる資源に精製するまでに必要な、一連の技術やプロセス、その基礎学問を学ぶものである。たとえば、天然鉱山からの金属資源開発は、探査(地下資源を探し出す)、開発(生産施設を整える)、採掘(鉱石を掘り出す)、選鉱(鉱石からの対象金属を分離濃縮する)、製錬(高温プロセスで金属を分離濃縮する)、精製(電気や薬剤を使ってさらに純度をあげる)といった流れで行われる(図1参照)。
地下に眠る天然鉱物資源を利用するためには、まず、「探査」によってどこに存在しているかを探し当てる。地下に特定の金属資源が濃縮する機構を理解するためには、地質学や鉱物学といった理学的な学問も必要となる。「探査」ではそれらの基礎学問のもとに、物理的、化学的な方法を用いて、地下の構造を推測していくことになる。これらの方法は、病院で私たちの体を検査するときの方法をイメージするとわかりやすい。
地下資源が「探査」によって見つかれば、「開発」「採鉱」によって地上へ掘り起こす。これらの技術は、安定した地下構造物を建設し、固い岩盤を掘り進め、地上へ運搬し、生産施設を整えるという、まさに多様な工学技術の集約であると言える。実際に、現代の工学分野や企業の中には、歴史的には鉱山活動をルーツに持つものも多い。
地上に掘り出された鉱石は、さらに分離濃縮して精製しなければ資源にはならない。たとえば銅を例にそのフローを説明すると、天然鉱石中の銅品位は1%以下であるが、それを「選鉱」のプロセスによって20-40%まで分離濃縮する。この「選鉱」では、物理的または物理化学的な鉱石の特徴を使って、可能な限り省エネルギーな方法で鉱石中の銅成分を分離濃縮する。
さらに「製錬」では、1000℃を超える高温で金属が溶けることを利用して99%まで分離濃縮し、「精製」プロセスで電気や薬剤を使って銅品位を99.99%まで高める。バイオテクノロジーを使って鉱石から銅を分離濃縮する技術も存在する。日本の素材産業は、銅であれば99.9999%まで純度を高めることができる精緻な分離技術を有しており、このことが高精度を誇る日本のモノづくりを支えている。
一連のプロセスでは、環境負荷低減に対する技術も求められる。古くは日本でも鉱害の歴史を有することはご存じの通りである。現代的な鉱山では鉱害を出さないように、固体、液体、気体の有害物質を厳密に制御して処理する高度な技術を開発し、その技術によって天然鉱物は資源となり得ている。
こういった環境修復技術、環境処理技術も資源工学の重要な学問の1つである。
また、資源となり得るためには、経済性を有する必要もあるので、そのための資源経済学やシステム工学なども資源工学の重要な学問の1つである。
資源工学は、古くは採鉱・冶金、あるいは鉱山と呼ばれる工学分野で発展してきた。これは、鉱物や石炭、石油など、地下資源を私たちが利用できる資源に精製するまでに必要な、一連の技術やプロセス、その基礎学問を学ぶものである。たとえば、天然鉱山からの金属資源開発は、探査(地下資源を探し出す)、開発(生産施設を整える)、採掘(鉱石を掘り出す)、選鉱(鉱石からの対象金属を分離濃縮する)、製錬(高温プロセスで金属を分離濃縮する)、精製(電気や薬剤を使ってさらに純度をあげる)といった流れで行われる(図1参照)。
地下に眠る天然鉱物資源を利用するためには、まず、「探査」によってどこに存在しているかを探し当てる。地下に特定の金属資源が濃縮する機構を理解するためには、地質学や鉱物学といった理学的な学問も必要となる。「探査」ではそれらの基礎学問のもとに、物理的、化学的な方法を用いて、地下の構造を推測していくことになる。これらの方法は、病院で私たちの体を検査するときの方法をイメージするとわかりやすい。
地下資源が「探査」によって見つかれば、「開発」「採鉱」によって地上へ掘り起こす。これらの技術は、安定した地下構造物を建設し、固い岩盤を掘り進め、地上へ運搬し、生産施設を整えるという、まさに多様な工学技術の集約であると言える。実際に、現代の工学分野や企業の中には、歴史的には鉱山活動をルーツに持つものも多い。
地上に掘り出された鉱石は、さらに分離濃縮して精製しなければ資源にはならない。たとえば銅を例にそのフローを説明すると、天然鉱石中の銅品位は1%以下であるが、それを「選鉱」のプロセスによって20-40%まで分離濃縮する。この「選鉱」では、物理的または物理化学的な鉱石の特徴を使って、可能な限り省エネルギーな方法で鉱石中の銅成分を分離濃縮する。
さらに「製錬」では、1000℃を超える高温で金属が溶けることを利用して99%まで分離濃縮し、「精製」プロセスで電気や薬剤を使って銅品位を99.99%まで高める。バイオテクノロジーを使って鉱石から銅を分離濃縮する技術も存在する。日本の素材産業は、銅であれば99.9999%まで純度を高めることができる精緻な分離技術を有しており、このことが高精度を誇る日本のモノづくりを支えている。
一連のプロセスでは、環境負荷低減に対する技術も求められる。古くは日本でも鉱害の歴史を有することはご存じの通りである。現代的な鉱山では鉱害を出さないように、固体、液体、気体の有害物質を厳密に制御して処理する高度な技術を開発し、その技術によって天然鉱物は資源となり得ている。
こういった環境修復技術、環境処理技術も資源工学の重要な学問の1つである。
また、資源となり得るためには、経済性を有する必要もあるので、そのための資源経済学やシステム工学なども資源工学の重要な学問の1つである。
SDGs時代に求められる資源工学
資源は、経済性を有し、社会に必要とされ、そして環境に負担をかけないものでなければならない。これはまさに、SDGsの概念である経済・社会・環境との調和である。そして今、環境に対する考え方は、大きく変わりつつある。したがって、資源もまた、現在の環境に対する考え方に受容されるように利活用される必要があり、そのための学問がまた新たに必要となっている。
人類が地球の有限さに気づき始めたのはごく最近のことである。SDGs採択のきっかけとなったのは、気候変動、生物多様性、土地利用の変化、淡水の消費、生物地球化学的循環、海洋の酸性化、大気エアロゾルの負荷、成層圏オゾンの破壊、新規化学物質といった多様な9つの環境負荷に対して、地球の限界、すなわちプラネタリー・バウンダリーを超えつつあるという警鐘である。昨今はカーボンニュートラルに対する取り組みが急速に注目を集めており、もちろん非常に大切な環境負荷の1つではあるが、環境負荷は温室効果ガスだけではなく多様であることも正確に認識して、資源の利活用のあり方を考える必要がある。特に、カーボンニュートラルを推進すると、今以上に資源が必要となり、資源不足を懸念するレポートが世界各国で報告されている。そのために、今以上の資源循環の重要性が増すと考えられ、昨今ではサーキュラー・エコノミーという循環を主眼とした新たな経済政策も提唱されている。
先に示した天然鉱物資源の開発フローに、使用済みの人工資源の再利用のフローも図に示した(図1参照)。使用済みの人工資源の場合には、天然鉱物資源における探査の代わりに、ライフサイクル評価(LCA)やマテリアルフロー解析(MFA)といったシステム解析技術によって、その存在状況を把握する。そして、天然鉱物資源の開発や採掘の代わりに、それらを回収・運搬して集めることになる。集めた後の分離濃縮フローは、天然鉱物資源の選鉱、製錬、精製と類似しているが、人工資源には天然資源とは異なる成分、たとえば樹脂やガラスなどが混在しているため、天然資源とはまた違った分離技術開発と、それを支える学術的な基礎学問が必要となる。
もちろん、これら人工資源の再利用フローにおいても、環境負荷低減に対する環境修復技術、環境処理技術は非常に重要である。
以上のように、資源工学は資源の利活用を、できる限り環境負荷を低く実現し、可能な限り経済的、社会的な価値を高めるためのあらゆる技術を実現するための学問であり、数学、物理、化学、生物、地学といったあらゆる自然科学的な基礎学問を駆使しつつ、経済学、社会科学といった資源を取り巻く社会的背景を理解するための人文社会学にも関心が必要となる総合工学である。
人類が地球の有限さに気づき始めたのはごく最近のことである。SDGs採択のきっかけとなったのは、気候変動、生物多様性、土地利用の変化、淡水の消費、生物地球化学的循環、海洋の酸性化、大気エアロゾルの負荷、成層圏オゾンの破壊、新規化学物質といった多様な9つの環境負荷に対して、地球の限界、すなわちプラネタリー・バウンダリーを超えつつあるという警鐘である。昨今はカーボンニュートラルに対する取り組みが急速に注目を集めており、もちろん非常に大切な環境負荷の1つではあるが、環境負荷は温室効果ガスだけではなく多様であることも正確に認識して、資源の利活用のあり方を考える必要がある。特に、カーボンニュートラルを推進すると、今以上に資源が必要となり、資源不足を懸念するレポートが世界各国で報告されている。そのために、今以上の資源循環の重要性が増すと考えられ、昨今ではサーキュラー・エコノミーという循環を主眼とした新たな経済政策も提唱されている。
先に示した天然鉱物資源の開発フローに、使用済みの人工資源の再利用のフローも図に示した(図1参照)。使用済みの人工資源の場合には、天然鉱物資源における探査の代わりに、ライフサイクル評価(LCA)やマテリアルフロー解析(MFA)といったシステム解析技術によって、その存在状況を把握する。そして、天然鉱物資源の開発や採掘の代わりに、それらを回収・運搬して集めることになる。集めた後の分離濃縮フローは、天然鉱物資源の選鉱、製錬、精製と類似しているが、人工資源には天然資源とは異なる成分、たとえば樹脂やガラスなどが混在しているため、天然資源とはまた違った分離技術開発と、それを支える学術的な基礎学問が必要となる。
もちろん、これら人工資源の再利用フローにおいても、環境負荷低減に対する環境修復技術、環境処理技術は非常に重要である。
以上のように、資源工学は資源の利活用を、できる限り環境負荷を低く実現し、可能な限り経済的、社会的な価値を高めるためのあらゆる技術を実現するための学問であり、数学、物理、化学、生物、地学といったあらゆる自然科学的な基礎学問を駆使しつつ、経済学、社会科学といった資源を取り巻く社会的背景を理解するための人文社会学にも関心が必要となる総合工学である。
大学での主な学科目の内容とカリキュラム
資源工学のカリキュラム例を図で紹介する(図2参照)。学部1、2年次では、物理学、化学、数学、ITを中心とする自然科学教育と、理工系技術者・研究者になるために求められる人文社会的な教養教育、世界で活躍するための英語教育を主体としながらも、資源工学の専門科目をイメージするための導入教育が設置されている。2年次からは、開発系、循環系、環境系の各専門分野の概論と共に、専門実験を受講し、より実践的な能力を習得する。3年次にはさらに各分野に関連した専門科目と専門実験を詳細に学び、卒業論文研究を実施する研究室を選択する。4年次にはいずれかの研究室に配属し、1年間の研究活動を行い、その成果を「卒業論文」にまとめる。この卒業論文研究を通して、経済・社会・環境に調和する資源の利活用に関わる多様な研究テーマから興味のあるテーマを選び、仮説を立て、それを実験や解析、調査によって検証することを繰り返し、成果が得られればゼミや学会などで発表してフィードバックを受け、最終的にはその成果によって社会貢献を目指すことになる。資源工学分野では大学院へ進学する学生も多く、大学院ではさらに修士論文研究、博士論文研究を実施して、高いレベルでの研究開発に携わることになる。


