何を学ぶ
社会基盤を支え、エネルギー・資源問題、SDGsにも取り組む金属工学。キロメートルの巨大建造物から、ナノメートルの微小デバイスに至るまでの対象領域の幅広さが魅力。

春本 高志(はるもと たかし)先生
東京科学大学/物質理工学院/准教授
1985年生まれ。東京工業大学卒、博士(工学)。大学院では清華大学(中国)留学。東京理科大学助教、東京工業大学助教を経て現職。専門は、磁性薄膜・水素吸蔵薄膜を中心とした機能性薄膜。
鉄は国家なり?
“鉄は国家なり” この言葉は、19世紀のドイツ・ビスマルクに由来すると言われている。当時、ヨーロッパでは産業革命の時代であり、蒸気機関を基盤にした工業・鉄道の発展が盛んであった。したがって、素材としての鉄が強く求められていた。また、戦乱が発生していたため、鉄が戦略的にも非常に重要であった。そのため、「鉄」=「国力」と捉えることができ得るという状況を表現した言葉と考えられる。しかし、この言葉は、時代が進むにつれて国力の象徴も変化し、その結果、過去のものと捉えられる傾向にあった。
ところが、最近、再び、この言葉の重みを考えさせられる情勢である。即ち、報道の通り、日本のある鉄鋼メーカーが、アメリカのある鉄鋼メーカーの買収を試みたところ、日米国家間の政治問題に発展している。一民間企業の買収計画にも関わらず、アメリカ大統領選でも論点となったほどである。これ以上の言及は差し控えるが、この問題が示唆する通り、鉄をはじめとする金属材料は、経済発展の基盤であり、社会にとって必要不可欠である。本頁で紹介する「金属工学」は、この重要な素材「金属」に特化した分野である。
ところが、最近、再び、この言葉の重みを考えさせられる情勢である。即ち、報道の通り、日本のある鉄鋼メーカーが、アメリカのある鉄鋼メーカーの買収を試みたところ、日米国家間の政治問題に発展している。一民間企業の買収計画にも関わらず、アメリカ大統領選でも論点となったほどである。これ以上の言及は差し控えるが、この問題が示唆する通り、鉄をはじめとする金属材料は、経済発展の基盤であり、社会にとって必要不可欠である。本頁で紹介する「金属工学」は、この重要な素材「金属」に特化した分野である。
金属とは?
ここで、そもそも金属とは何か?について考えてみたい。誰もが、金属とは、たとえば、鉄、アルミニウム、銅と知っている。これら金属の特徴としては、電気や熱をよく通す、金属光沢がある…等が挙げられる。こうした金属特有の性質は、実は、金属中に存在する自由電子により説明される。したがって、金属とは何か?に対する答えは、高校生では、金属とは自由電子を持つ物質であるといえる。
大学の金属工学では、物質中の電子についてさらに詳しく学ぶ。その過程を通して、電子は、粒子であるが、波でもあるという不思議な量子力学の世界も知ることとなる。そして、最終的には、本学問ガイドのレベルを大きく超えてしまうが、フェルミ面を持つ物質が金属であると定義される。このように、物質の本質を学ぶことができる点が本分野の特徴である。そして、後述の通り、卒業後はこれら知識を基盤に、実社会に波及するような仕事、たとえば、新しい素材を開発/利用して製品化するといったことにも挑戦できる。
大学の金属工学では、物質中の電子についてさらに詳しく学ぶ。その過程を通して、電子は、粒子であるが、波でもあるという不思議な量子力学の世界も知ることとなる。そして、最終的には、本学問ガイドのレベルを大きく超えてしまうが、フェルミ面を持つ物質が金属であると定義される。このように、物質の本質を学ぶことができる点が本分野の特徴である。そして、後述の通り、卒業後はこれら知識を基盤に、実社会に波及するような仕事、たとえば、新しい素材を開発/利用して製品化するといったことにも挑戦できる。
金属工学の魅力:対象領域の幅広さ
金属でできた製品は、無数に存在する。たとえば、図の通り、サイズの大きな製品では、橋梁(例:瀬戸大橋)や鉄塔(東京タワー等)であり、長さ/高さは、数百メートルからキロメートルと巨大である。高層ビルも、実は、建物内部の鉄筋や鉄骨により支えられている。身近なサイズの製品では、鉄やアルミでできた自動車、鉄道、家電、アルミ缶等が挙げられる。サイズの小さな製品では、たとえば、チタンでできた生体適合性ネジであり、歯科インプラントの土台として顎骨に埋入されたり、骨折の治療に用いられたりしている。意外なところでは、電子データの保存も、実は金属により行われている。具体的には、クラウドにデータ保存すると、データはデータセンターへと送られ、最終的に、磁性金属のナノメートルサイズの粒子に、磁気的に書き込まれて記録されている(磁気記録)。さらには、今後の発展が期待される、電子のスピンという性質を利用したスピントロニクスにおいても、磁性金属が用いられる。
以上の通り、金属工学では、数キロメートルの巨大建造物からナノメートルの微小デバイスに至るまでの全てを対象領域としている。この領域の幅広さゆえ、多様性に富んでおり、入学後、面白いと感じた方向に進むことが可能である。即ち、読者のみなさんの興味や個性を生かして活躍できる舞台がある。さらに、後述する通り、就職活動においても、この幅広さが有利に働く。
以上の通り、金属工学では、数キロメートルの巨大建造物からナノメートルの微小デバイスに至るまでの全てを対象領域としている。この領域の幅広さゆえ、多様性に富んでおり、入学後、面白いと感じた方向に進むことが可能である。即ち、読者のみなさんの興味や個性を生かして活躍できる舞台がある。さらに、後述する通り、就職活動においても、この幅広さが有利に働く。
エネルギー・資源問題、SDGsにも取り組む金属工学
金属工学は、一見、エネルギー・資源問題、SDGsとは無関係であると思われがちだが、実はそうではない。たとえば、地球温暖化対策としてCO2排出量削減・カーボンニュートラルを可能にする社会として水素社会が提唱されているが、そこにおいても、金属材料は一役買っている。たとえば、水素製造・貯蔵の際には、水素を吸蔵する性質を持つ金属(水素吸蔵合金)が用いられている。このように、金属の持つ特殊な性質を利用した機能性金属材料は、エネルギー問題を解決するキーマテリアルである。
この他、資源問題・SDGsの取り組みも進めている。都市鉱山という言葉に代表されるように、使用済製品にはさまざまな金属が含まれるが、それを取り出し、再利用・リサイクルすることにも挑戦している。再利用することで、より少ない資源で持続可能な社会・SDGsを実現できる。たとえば、アルミ缶では、すでに9割程度が再利用されており(日本アルミニウム協会調べ)、使い捨ての時代から再利用を基本とした循環型社会の時代へと移りつつある。
この他、資源問題・SDGsの取り組みも進めている。都市鉱山という言葉に代表されるように、使用済製品にはさまざまな金属が含まれるが、それを取り出し、再利用・リサイクルすることにも挑戦している。再利用することで、より少ない資源で持続可能な社会・SDGsを実現できる。たとえば、アルミ缶では、すでに9割程度が再利用されており(日本アルミニウム協会調べ)、使い捨ての時代から再利用を基本とした循環型社会の時代へと移りつつある。
高校の科目とのつながり
金属工学は、高校の物理・化学・数学・情報・生物等の科目とつながりが深い。図の通り、たとえば、物理を基に、金属の電気・磁気的な性質を理解し、先に述べた磁気記録・スピントロニクスへと展開している。さらに、こうした分野では、スーパーコンピューターを用いた大規模計算やAIにより、材料特性を推定することが盛んに行われている(計算材料科学、データ駆動型材料開発)。したがって、数学・情報等ともつながりがある。化学や生物は、金属の用途と深く関係している。たとえば、錆びない金属として有名なステンレスは、大気中・水中での安定性を高めた鉄系合金の一種であり、化学(反応)の知識を基盤にしている。また、今後の超高齢化社会では、医療用金属材料(先述の生体用ネジ等)のニーズも増加、それゆえ、生物とのつながりも増加傾向にある。以上の通り、金属は非常に幅広い用途を持っているため、さまざまな科目とつながっており、得意科目を生かすことができる。
最後に、私の体験談を記したい。私は、物理が得意だったため、理学部物理科への進学を希望していたが、入学できたのは、工学部金属工学科であった。当初は、不本意に思っていたが、後日、金属工学にも物理に限りなく近い領域(金属物理学)が存在することを知り、その領域を選択。現在は、磁性金属中における電子の運動や、金属水素化物の物性…等の物理に近い内容を研究できており、住めば都である。
最後に、私の体験談を記したい。私は、物理が得意だったため、理学部物理科への進学を希望していたが、入学できたのは、工学部金属工学科であった。当初は、不本意に思っていたが、後日、金属工学にも物理に限りなく近い領域(金属物理学)が存在することを知り、その領域を選択。現在は、磁性金属中における電子の運動や、金属水素化物の物性…等の物理に近い内容を研究できており、住めば都である。
卒業後の進路
金属工学卒業後は、図の通り、素材メーカーだけでなく、自動車や機械、建築、電機等の分野にも就職の道がある。これは、金属が、多種多様な製品に利用されているからである。さらに、材料への深い理解を生かして、近年注目度が上がっている半導体・エレクトロニクス分野にも就職可能である。この他、先に述べた通り、金属工学はエネルギー・資源問題等とも関連しているため、資源開発や商社も就職先として視野に入る。さらには、研究で培ったデータ解析力(数字に強い)を生かして、コンサルタントやシステムエンジニア、銀行員になる卒業生もいる。したがって、卒業後の進路・職業選択の幅広さは、読者のみなさんが考える帯域をはるかに超えており、想像以上の可能性に満ちている。

