何を学ぶ
周期律表の全ての元素を対象とし、科学技術の発展と人類の幸福に貢献する無機固体材料に関する物質科学。セラミックス材料科学とも呼ばれ、日本が世界を牽引している。

中島 章(なかじま あきら)先生
東京科学大学/物質理工学院材料系/教授
1962年、東京に生まれる。東京工業大学工学部卒。同大学院修士課程修了。ペンシルバニア州立大学大学院博士課程修了。東京大学先端科学技術研究センター、ベンチャー企業を経て現職。専門は表面機能材料。
日本の材料技術は世界のトップレベル
今から30年前、私が米国留学中にインド人の友人に言われたことがある。「材料の研究は日本かアメリカでしかできない。おれは日本語ができないからアメリカに来たんだ」と。
日本は材料の合成技術、評価技術、応用技術とそれらに関係する産業分野が世界でも類を見ないほどバランスよく成長している。米国の大学でも材料に関する各種の合成装置、分析装置は、日本製のものがかなりあった。日本の材料研究の環境は、大学、産業界とも間違いなく世界のトップレベルにある。日本で材料の勉強をすることは、世界のトップで材料の勉強をすることになるのだ。
日本は材料の合成技術、評価技術、応用技術とそれらに関係する産業分野が世界でも類を見ないほどバランスよく成長している。米国の大学でも材料に関する各種の合成装置、分析装置は、日本製のものがかなりあった。日本の材料研究の環境は、大学、産業界とも間違いなく世界のトップレベルにある。日本で材料の勉強をすることは、世界のトップで材料の勉強をすることになるのだ。
セラミックスは宝の山
金属や金属錯体を除く無機固体物質のことを広義にセラミックスと呼ぶ。無機材料工学とはセラミックスの材料科学を取り扱う学問だ。
セラミックスには無限の可能性がある。それはセラミックスを構成する元素の種類が多いこと、化学結合や結晶構造が多種多様であることによる。一つの金属に対して酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物などがあり、それらが各金属の価数に応じて数種類の状態をとることが多い。同じ組成でも数種類の結晶構造を持つ場合もある。こうしてみると、いかにセラミックスの種類が多いかがわかるだろう。
しかし、学問としてのセラミックスの授業が日本で始まったのはほんの130年ほど前のこと。これは金属の歴史から見るとつい最近のことだ。科学者によりこの材料分野の可能性にスポットが当てられ、基礎研究が本格的に始まったのはわずか90〜100年前からである。そのときからわれわれ人間社会はこの物質分野の数々の驚くべき特性を知ることとなり、後述するように近代テクノロジーを支える材料として、あらゆる産業分野がこの材料を必要とするようになった。
私たちは、物質としての多様性からまだこの材料分野の性質のほんの一部を垣間見ているにすぎない。ある日突然、われわれが全く予期しないような性質を発現するセラミックスが現れても不思議ではないし、これまでもその繰り返しであった。そう、セラミックスは今も宝の山なのだ。
セラミックスには無限の可能性がある。それはセラミックスを構成する元素の種類が多いこと、化学結合や結晶構造が多種多様であることによる。一つの金属に対して酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物などがあり、それらが各金属の価数に応じて数種類の状態をとることが多い。同じ組成でも数種類の結晶構造を持つ場合もある。こうしてみると、いかにセラミックスの種類が多いかがわかるだろう。
しかし、学問としてのセラミックスの授業が日本で始まったのはほんの130年ほど前のこと。これは金属の歴史から見るとつい最近のことだ。科学者によりこの材料分野の可能性にスポットが当てられ、基礎研究が本格的に始まったのはわずか90〜100年前からである。そのときからわれわれ人間社会はこの物質分野の数々の驚くべき特性を知ることとなり、後述するように近代テクノロジーを支える材料として、あらゆる産業分野がこの材料を必要とするようになった。
私たちは、物質としての多様性からまだこの材料分野の性質のほんの一部を垣間見ているにすぎない。ある日突然、われわれが全く予期しないような性質を発現するセラミックスが現れても不思議ではないし、これまでもその繰り返しであった。そう、セラミックスは今も宝の山なのだ。
ナノテクノロジーから物質設計へ
セラミックス研究の基盤、技術開発の原点は、原子やイオンの立体配置、すなわち結晶構造であった。ガラスなど結晶でないもの(非晶質)においても、そのナノレベル(1ミリの100万分の1)の構造や組成を制御することが中心だった。その点では、そもそも、セラミックスはナノテクノロジーであると言える。
最近では異なる物質同士を、それらを構成する原子を1層ずつ積み上げて一つの薄膜に組み合わせることにより(このような結晶の構造を超格子という)、単独物質とは全く異なる物性を発現する新しい材料も開発されている。自然界では実現しない構造の物質を原子レベルで作ることができつつあるのだ。さらに近年は原子やイオンに留まらず、そのなかでの電子の振る舞いに着目した物質設計が求められてきており、それをベースにした電子、原子レベルからの新材料開発が主流になりつつある。このためにコンピュータを使って物質設計を行うマテリアルインフォマティクスという分野が重要になりつつある。
最近では異なる物質同士を、それらを構成する原子を1層ずつ積み上げて一つの薄膜に組み合わせることにより(このような結晶の構造を超格子という)、単独物質とは全く異なる物性を発現する新しい材料も開発されている。自然界では実現しない構造の物質を原子レベルで作ることができつつあるのだ。さらに近年は原子やイオンに留まらず、そのなかでの電子の振る舞いに着目した物質設計が求められてきており、それをベースにした電子、原子レベルからの新材料開発が主流になりつつある。このためにコンピュータを使って物質設計を行うマテリアルインフォマティクスという分野が重要になりつつある。
メイドインジャパンのセラミックスが可能にしたIT技術
みなさんは日本の製造業が世界市場において揺るぎない地位を築いている材料技術をどれくらい知っているだろうか。赤外線を感知して火災や人を検知する焦電型セラミックスセンサー、長距離光通信を可能にする光ファイバーとそのコネクター、ハードディスク用コイルモーターなどに使用される希土類磁石、タッチパネルやディスプレーに不可欠な透明電極、美しいイルミネーションを可能にする発光体…。これらの技術は、今日のIT社会を支えるハイテク技術の根幹を成し、その全てが実はセラミックスである。
セラミックスなくして電子機器の高性能化と小型化は全く不可能である。これらの分野では、日本が世界トップレベルの技術を有している。日常、みなさんが使っているスマートフォンには何千ものセラミックス電子部品が組み込まれている。世界中で使われている電子セラミックスのかなりの部分が日本製なのである。
セラミックスなくして電子機器の高性能化と小型化は全く不可能である。これらの分野では、日本が世界トップレベルの技術を有している。日常、みなさんが使っているスマートフォンには何千ものセラミックス電子部品が組み込まれている。世界中で使われている電子セラミックスのかなりの部分が日本製なのである。
メイドインジャパンのセラミックスが可能にした環境・生体関連技術
電子材料分野だけが日本のセラミックスの独壇場なのではない。みなさんは光触媒という言葉を聞いたことがあるだろう。この物質は光を当てただけで水を酸素と水素に分解したり(水の光分解)、表面の菌やウイルスを分解したり(抗菌・抗ウイルス)、水中や空気中の環境ホルモンやダイオキシンなどの有害物を炭酸ガスと水にまで完全分解したり(環境浄化)、水を全くはじかなくなる(超親水性)などの性質を発現する夢のような物質だ。特に超親水性は雨が降っただけできれいになるガラス(セルフクリーニングガラス)や水滴が付かない自動車ミラーなど、すでに数多くの工業製品に用いられている。また、近年は光触媒を用いて、CO2を有用な物質に変換する研究(人工光合成)も盛んである。
これらの夢のような性質は、日本の研究者が偶然に発見したもので、日本のオリジナル技術である。この技術分野でも、日本は他の国を圧倒する学術および技術の水準を誇っており、日本の規格が世界標準になりつつある。
また、骨折や骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の治療に用いられる人工骨の分野においても、日本は世界トップレベルの技術水準を誇っている。
これらの夢のような性質は、日本の研究者が偶然に発見したもので、日本のオリジナル技術である。この技術分野でも、日本は他の国を圧倒する学術および技術の水準を誇っており、日本の規格が世界標準になりつつある。
また、骨折や骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の治療に用いられる人工骨の分野においても、日本は世界トップレベルの技術水準を誇っている。
物理と化学が融合したセラミックスの教育体系
これまでに紹介した例は、セラミックスが使われている産業技術全体のほんの一部にすぎない。セラミックスは、これら以外にもきわめて多くの分野で、さまざまな形態で使用されている。
東京科学大学ではセラミックス材料科学の教育を専門に行うカリキュラムを整備しているが、材料工学関連の学科を持つ多くの大学では、数講座程度セラミックスを取り扱う研究室があり、セラミックスの教育を受けることができる。
東京科学大学におけるセラミックスの教育体系では、1年次では物理学、化学、数学など理工系基礎科目を学ぶ。2年次から3年次にかけては専門科目が中心になり、物性科学(固体物性、無機材料強度学など)、構造科学(量子力学、非晶質体構造科学、結晶化学など)、反応科学(熱力学、化学反応動力学、電気化学、界面化学など)、プロセス科学(セラミックスプロセシング、薄膜・単結晶プロセシング、生体材料学など)の4つの無機材料科学の科目をまんべんなく学ぶ(下図参照)。また、セラミックスに限らず材料の開発には好奇心、積極性、発想力が求められる。学生は実験によって問題発見力、解析力、表現力など講義では得られない能力を修得し、4年次では各自個別の卒業研究に取り組む。物理と化学が半分ずつ融合したような学問体系が特徴であるが、近年この幅は一段と広がりつつあり、研究内容によっては有機物や生物が関与するものも少なくない。
材料科学としてのセラミックスは近年、ますます高度かつ細分化の傾向にあり、学部4年間で十分な応用的素地までを身につけるのが困難になっている。このため学生のほとんどが大学院修士課程に進学し、一部の者は、さらに高度な知識と研究能力を身につけるため、博士課程に進学する。
東京科学大学ではセラミックス材料科学の教育を専門に行うカリキュラムを整備しているが、材料工学関連の学科を持つ多くの大学では、数講座程度セラミックスを取り扱う研究室があり、セラミックスの教育を受けることができる。
東京科学大学におけるセラミックスの教育体系では、1年次では物理学、化学、数学など理工系基礎科目を学ぶ。2年次から3年次にかけては専門科目が中心になり、物性科学(固体物性、無機材料強度学など)、構造科学(量子力学、非晶質体構造科学、結晶化学など)、反応科学(熱力学、化学反応動力学、電気化学、界面化学など)、プロセス科学(セラミックスプロセシング、薄膜・単結晶プロセシング、生体材料学など)の4つの無機材料科学の科目をまんべんなく学ぶ(下図参照)。また、セラミックスに限らず材料の開発には好奇心、積極性、発想力が求められる。学生は実験によって問題発見力、解析力、表現力など講義では得られない能力を修得し、4年次では各自個別の卒業研究に取り組む。物理と化学が半分ずつ融合したような学問体系が特徴であるが、近年この幅は一段と広がりつつあり、研究内容によっては有機物や生物が関与するものも少なくない。
材料科学としてのセラミックスは近年、ますます高度かつ細分化の傾向にあり、学部4年間で十分な応用的素地までを身につけるのが困難になっている。このため学生のほとんどが大学院修士課程に進学し、一部の者は、さらに高度な知識と研究能力を身につけるため、博士課程に進学する。
就職先や活動分野は無限
科学技術の画期的進歩が材料によりもたらされている例は数多い。材料技術は科学技術の発展サイクルに対してカギの役割を果たしている。先にも述べたように日本のセラミックス技術は世界のトップである。したがって、日本で受けられる無機材料工学の教育・研究も、また、世界トップ水準である。
大学で今日セラミックスを学んだ卒業生は、従来のような素材系(ガラス、セメント、鉄鋼など)のみならず、化学、機械、電気、情報、建築、エネルギーなど、あらゆる製造業分野で必要とされ活躍している。
また、産業界だけでなく国立研究開発法人の研究所や各地の公的研究機関、大学などで日本のセラミックス技術を支える研究者として活躍する者も多い。
大学で今日セラミックスを学んだ卒業生は、従来のような素材系(ガラス、セメント、鉄鋼など)のみならず、化学、機械、電気、情報、建築、エネルギーなど、あらゆる製造業分野で必要とされ活躍している。
また、産業界だけでなく国立研究開発法人の研究所や各地の公的研究機関、大学などで日本のセラミックス技術を支える研究者として活躍する者も多い。
夢を追求するみなさんが必要
材料は工学技術の基礎であり、21世紀も材料を制する者が技術を制するであろう。光触媒、青色発光ダイオード、カーボンナノチューブ、超伝導材料…。新しい材料は次々と開発されてくる。それらの材料はみなさんによって生かされるのを待っている。
スマートフォンのような通信手段やそれを用いた写真や動画の転送は、50年ほど前はSF小説の世界だった。それが今、セラミックスにより可能になった。青色発光素子も20世紀中の実現は困難といわれたが、20世紀中に実用化してしまった。
今、みなさんが頭のなかに思い描いている夢の暮らしも30年後、ひょっとしたら可能になっているかもしれない。それを実現するのは、革新的な材料の開発にかかっている。そのためにはフレキシブルな発想を持ち、夢を追求するみなさんの情熱が必要である。
日本のテクノロジーを支えていくのはほかでもない、若いみなさんなのだ。ぜひ、その気概を持ってセラミックス材料科学の世界に飛び込んできてほしい。この魅力あふれる材料分野で世界のテクノロジーフロンティアを目指そう。
スマートフォンのような通信手段やそれを用いた写真や動画の転送は、50年ほど前はSF小説の世界だった。それが今、セラミックスにより可能になった。青色発光素子も20世紀中の実現は困難といわれたが、20世紀中に実用化してしまった。
今、みなさんが頭のなかに思い描いている夢の暮らしも30年後、ひょっとしたら可能になっているかもしれない。それを実現するのは、革新的な材料の開発にかかっている。そのためにはフレキシブルな発想を持ち、夢を追求するみなさんの情熱が必要である。
日本のテクノロジーを支えていくのはほかでもない、若いみなさんなのだ。ぜひ、その気概を持ってセラミックス材料科学の世界に飛び込んできてほしい。この魅力あふれる材料分野で世界のテクノロジーフロンティアを目指そう。

