何を学ぶ
ミクロからマクロに及ぶ多様な生物・環境を対象に、植物を主とする生命科学を学ぶ。食料生産の基礎から応用まで幅広く学べ、食料、健康、環境分野を支える基幹的な学問。

北柴 大泰(きたしば ひろやす)先生
東北大学/大学院農学研究科/教授
1970年秋田県生まれ。東北大学卒。山形県立園芸試験場、農林水産省果樹研究所での博士研究員を経て2006年から現職。専攻は植物遺伝育種学。『植物育種学第5版』(文永堂出版)を分担執筆編集。
農学とは何か
「農学」と聞くと、高校生の皆さんはどのようなイメージを思い浮かべるだろうか。「農業」という言葉が初めに思い浮かび、目を閉じれば、田畑、山、川などの風景がイメージされるのではないか。少しズームインしてみると、イネ、野菜、果樹、花などの農作物を、またそれらを支えている土を思い浮かべるだろう。そして、葉や花の上で虫がとまる姿も想像できるだろう。さらに顕微鏡をのぞくと、微生物や植物の細胞など、それらの形、動いている様子を観察することができるに違いない。もっとズームインすればDNAにまで到達することは想像できる。
今度は逆にズームアウトしてみよう。田畑の周辺が太陽光を十分に浴びている様子が思い浮かべられるだろうか。強い風雨にさらされていることもあるだろう。実際、環境は四季ごとに変わり、同じ季節でも緯度の高い地域と低い地域で気候の差が大きい。ここまでいろいろと生き物や環境を表す言葉が出てきたが、それぞれに関連する分野を学び、つながりを理解し、さらに未解明なことを研究し、農作物生産に役立てることを目指す学問が「農学」である。
農学はこれまでに食料生産のさまざまな分野に貢献してきた。代表的な例として多収性があげられる。世界三大作物といえばトウモロコシ、コムギ、イネだが、「緑の革命」で知られるように遺伝的な改良(育種)や栽培方法の研究の発展により、過去半世紀と比較すると収量が約3倍となった。ほかには、環境ストレスや病害虫に対する継続的な研究により、安定した生産が可能になった。多様な消費者の好みや加工に適する品種や、機能性を高めた品種の育成も進められてきた。高品質・ブランド化を目指した栽培方法の研究により、海外輸出にも力が入れられている。物だけでなく、高度な栽培技術も海外からは注目されている。
農業は将来どのように変化していくのかについて先を読むのは難しい。しかし、地球温暖化、国際競争、食と健康などを考えると諸課題はすでに見えている。そのため、農学が担う役割は非常に重要である。
今度は逆にズームアウトしてみよう。田畑の周辺が太陽光を十分に浴びている様子が思い浮かべられるだろうか。強い風雨にさらされていることもあるだろう。実際、環境は四季ごとに変わり、同じ季節でも緯度の高い地域と低い地域で気候の差が大きい。ここまでいろいろと生き物や環境を表す言葉が出てきたが、それぞれに関連する分野を学び、つながりを理解し、さらに未解明なことを研究し、農作物生産に役立てることを目指す学問が「農学」である。
農学はこれまでに食料生産のさまざまな分野に貢献してきた。代表的な例として多収性があげられる。世界三大作物といえばトウモロコシ、コムギ、イネだが、「緑の革命」で知られるように遺伝的な改良(育種)や栽培方法の研究の発展により、過去半世紀と比較すると収量が約3倍となった。ほかには、環境ストレスや病害虫に対する継続的な研究により、安定した生産が可能になった。多様な消費者の好みや加工に適する品種や、機能性を高めた品種の育成も進められてきた。高品質・ブランド化を目指した栽培方法の研究により、海外輸出にも力が入れられている。物だけでなく、高度な栽培技術も海外からは注目されている。
農業は将来どのように変化していくのかについて先を読むのは難しい。しかし、地球温暖化、国際競争、食と健康などを考えると諸課題はすでに見えている。そのため、農学が担う役割は非常に重要である。
農学の現状と課題
「農学」を学ぶ学科は主に農学部に設置され、古くは農学科、現在は生物生産、食料生産、生物資源、応用生命科学などと称する学科である。ここでは一般的に作物学、園芸学、育種学、病理学、昆虫・害虫学、土壌学などの専門分野が置かれている。作物学ではイネ科やマメ科などを主として生態、生理を研究し、生産性や品質の向上を図る栽培法に資する研究を行っている。園芸学では果樹、野菜、花などの生理学的、生化学的な研究に取り組んでいる。育種学ではさまざまな特性に関する遺伝機構を理解し、品種育成を効率よく行うための育種技術に資する基礎・応用研究を進めている。病理学では作物に害を引き起こすウイルス、細菌、糸状菌(菌糸を作るカビ)などの感染応答機構の解明と防除方法を研究している。虫の生態、生理を調査し防除法に役立てる研究が昆虫・害虫学であり、土壌の性質を解明し、施肥などの面で農作物の栽培に役立てるのが土壌学である。このほかに、資源学、農業気象学の分野を設けている大学もある。
DNAを増幅するPCR技術や、組織培養などの遺伝子工学技術が普通に使われるようになった一方で、ゲノム塩基配列を高速で大量に解読する技術が開発され、さらにRNAやタンパク質の網羅的な分析技術も飛躍的に発展している。このおかげで生物・生命現象の膨大な情報が得られるようになった。その情報を大型計算機で分析する手法が必要であるが、このためのバイオインフォマティクス(生物情報科学)という学問、研究分野が生まれた。情報は作物、園芸、育種、病理学などで利用され、基礎研究の加速化につながっている。また、顕微鏡は高性能化し細胞内外で起こる現象を精密に観察できるようになった。
研究テーマは国内外の農業を取り巻く情勢によって変化し、次々と取り組むべき課題が生まれている。たとえば、近年は地球全体の温暖化が加速化し、乾燥、塩害などで悩まされている地域、農地が増えている。そのため環境ストレス対策は急務であり、環境ストレス耐性品種の開発、栽培方法の確立に向けた基礎、応用研究が進められている。
環境に配慮し田畑の生き物との共存を図り、持続的な生産を目指す動きも活発だ。遺伝資源の見直しも始まっていて、地方に古くから伝わる農作物品種を地域活性化に役立てる動きが見られる。最近特に注目すべきことの一つは、さまざまな農作物で「ゲノム」の研究が加速化していることである。交雑やゲノム編集技術などによる効率よい品種育成の利用が始まっている。このほかに、ロボット技術や情報通信技術を活用した超省力化(スマート化)や高品質生産のための新たな作物栽培技術、管理技術の研究開発も進められている。今後もさらに「農学」の活躍する場は多い。
DNAを増幅するPCR技術や、組織培養などの遺伝子工学技術が普通に使われるようになった一方で、ゲノム塩基配列を高速で大量に解読する技術が開発され、さらにRNAやタンパク質の網羅的な分析技術も飛躍的に発展している。このおかげで生物・生命現象の膨大な情報が得られるようになった。その情報を大型計算機で分析する手法が必要であるが、このためのバイオインフォマティクス(生物情報科学)という学問、研究分野が生まれた。情報は作物、園芸、育種、病理学などで利用され、基礎研究の加速化につながっている。また、顕微鏡は高性能化し細胞内外で起こる現象を精密に観察できるようになった。
研究テーマは国内外の農業を取り巻く情勢によって変化し、次々と取り組むべき課題が生まれている。たとえば、近年は地球全体の温暖化が加速化し、乾燥、塩害などで悩まされている地域、農地が増えている。そのため環境ストレス対策は急務であり、環境ストレス耐性品種の開発、栽培方法の確立に向けた基礎、応用研究が進められている。
環境に配慮し田畑の生き物との共存を図り、持続的な生産を目指す動きも活発だ。遺伝資源の見直しも始まっていて、地方に古くから伝わる農作物品種を地域活性化に役立てる動きが見られる。最近特に注目すべきことの一つは、さまざまな農作物で「ゲノム」の研究が加速化していることである。交雑やゲノム編集技術などによる効率よい品種育成の利用が始まっている。このほかに、ロボット技術や情報通信技術を活用した超省力化(スマート化)や高品質生産のための新たな作物栽培技術、管理技術の研究開発も進められている。今後もさらに「農学」の活躍する場は多い。
カリキュラム
農学の分野は生物を対象としているため、関連する基礎学問を入学後の早い段階で学ぶ。具体的には、生物学、細胞学、遺伝学、生理学を学び、さらに応用学問である分子遺伝学、分子生物学などを学ぶ。生化学、生物統計学も修得しておく必要があり、ほとんどの大学で必修として組まれている。学年が進むにつれて専門分野を学ぶことになる。一般的には作物学、園芸学、土壌学、育種学、病理学、昆虫・害虫学が必修である。さらに植物栄養学、森林生態学、遺伝子工学、農業経済学などの関連科目が加わり、幅広く知識を得る。
また、卒業論文研究を始める前に、学生実験が組まれており、生態学(成育調査など)、形態学(組織の顕微鏡観察など)、生理学(光合成・蒸散測定など)、酵素学、分子遺伝学(DNA・RNA実験など)、植物無機・有機成分分析、土壌分析、病理学(細菌の観察など)、昆虫学(標本、生態観察など)などの実験や、データの統計処理解析、学術情報の検索など、基本手法、結果の整理や解釈の仕方を実習する。農場実習もほとんどの大学でカリキュラムに組まれ、農作物の栽培や調査を実習する。科学分野で発表される論文のほとんどは英語で書かれているため英文の読解力や、専門用語に触れる実習もある。
4年次には自らの選んだテーマについて指導教員とともに研究を進めていく。また、ゼミや科学論文で専門知識を深め、さらに論文構成、科学論文の書き方などの指導を受け、自らの成果を論文としてまとめる。
また、卒業論文研究を始める前に、学生実験が組まれており、生態学(成育調査など)、形態学(組織の顕微鏡観察など)、生理学(光合成・蒸散測定など)、酵素学、分子遺伝学(DNA・RNA実験など)、植物無機・有機成分分析、土壌分析、病理学(細菌の観察など)、昆虫学(標本、生態観察など)などの実験や、データの統計処理解析、学術情報の検索など、基本手法、結果の整理や解釈の仕方を実習する。農場実習もほとんどの大学でカリキュラムに組まれ、農作物の栽培や調査を実習する。科学分野で発表される論文のほとんどは英語で書かれているため英文の読解力や、専門用語に触れる実習もある。
4年次には自らの選んだテーマについて指導教員とともに研究を進めていく。また、ゼミや科学論文で専門知識を深め、さらに論文構成、科学論文の書き方などの指導を受け、自らの成果を論文としてまとめる。
進路と就職
卒業後の進路は、就職と進学に分かれる。就職先は公務員と民間に大きく分けられる。国家公務員の場合、総合職や一般職試験を受け主に農林水産省管轄の本省や地方局に勤務し、実務を通して行政に関わることになる。研究職を目指す場合には、農研機構での研究職試験を受ける。一方、地方公務員では、農業分野で技術系職として採用された後、ほとんどの場合は農業振興政策、農業技術普及、試験研究のいずれかに配属される。通常はそれぞれを数年ごとに異動して見識を深めていき、地方農業の活性化に力を尽くす。
民間においては、種苗、農薬の開発・生産関連企業、食品関連企業などへの就職がある。しかし、大学院進学が多い傾向が続いており、この場合修士課程2年でさらに専門性を深め、前述の就職を目指す。博士課程では、さらに高度な技術や洞察力を身につけ、独立した研究者を目指す。国際共同研究の重要性が増しており、海外の研究者と対等に活躍するには博士号の取得は有利となる。多くの高校生が博士を目指し、一人でも多く国際貢献に関わって活躍してもらいたい。
民間においては、種苗、農薬の開発・生産関連企業、食品関連企業などへの就職がある。しかし、大学院進学が多い傾向が続いており、この場合修士課程2年でさらに専門性を深め、前述の就職を目指す。博士課程では、さらに高度な技術や洞察力を身につけ、独立した研究者を目指す。国際共同研究の重要性が増しており、海外の研究者と対等に活躍するには博士号の取得は有利となる。多くの高校生が博士を目指し、一人でも多く国際貢献に関わって活躍してもらいたい。

