何を学ぶ
農業に不可欠な生産環境の構築や生産技術の開発に取り組み、最新のテクノロジーや情報通信技術を駆使して、持続的で効率的な農業や農業スマート化・自動化の実現に挑む。

斎藤 広隆(さいとう ひろたか)先生
東京農工大学/大学院農学研究院/教授
1973年、東京都生まれ。東京大学農学部農業工学科卒。ミシガン大学土木・環境工学科博士課程修了。Ph.D.。日本学術振興会海外特別研究員、東京農工大学准教授を経て現職。専攻は農業環境工学。
分野の発展
食料生産に不可欠なものとして、皆さん何が浮かぶだろうか? 作物を栽培する上で必要なものとしては、太陽、水、土、栄養があり、加えて、農作業をする人や近代農業では農作業用の器具・機械も含まれるであろう。農業の歴史は古いものの、近代以前は耕地や用排水路の整備はされておらず、人力あるいは牛や馬の力による作業が多く、きつい、きたない、危険、いわゆる3Kの職場であったことは想像に難くない。しかし、農業土木学の創設者であり忠犬ハチ公の飼い主として知られている上野英三郎博士による耕地整理に端を発した「ほ場整備」(たとえば耕地の区画整理、土壌改良、用排水路設置などの農業生産基盤の整備のこと)や、戦後の動力を備えた農業機械や収穫物の貯蔵・加工・運搬に関連する農業施設の本格導入を経て、農業において農業生産性が向上し、安定的な食料供給が可能となった。長年にわたってこの農業生産基盤の整備や農業施設・農業機械の研究・開発など農業の近代化を担ってきたのが農業工学の研究者であり技術者である。さらに近年では、農業生産性向上だけでなく、農山村における地域資源の有効活用や生活環境の整備、地域社会の活性化や持続的な発展に向けた取り組み、農山村地域において人間と自然が共生できる地域づくりを目指してきた。たとえば、東京農工大学農学部地域生態システム学科では、自然と人間社会とが共存できる地域環境空間を構想し、設計できる人材を育成することを教育目標とし、これまでの細分化した教育分野の枠を超えてローカルからグローバルにわたる、さまざまなレベルの実践的な教育・研究をしており、農業工学もその一部を担っている。
農業工学の現状と課題
農業工学分野の先人たちの取り組みにより、耕地の大規模化、用排水路の整備、農道の整備は進み、多くの大型農業機械が導入され、作業の効率化が進み農業のあり方も変わってきた。しかし近年、農業生産基盤の老朽化、農業従事者のさらなる高齢化や後継者不足による地域の荒廃および耕作放棄地の増加、地震や地球規模の気候変動に伴う豪雨などの災害による農業生産基盤の甚大被害などの新たな問題も生じている。また、「生態系サービス」ということばに代表されるように、自然生態系における生物多様性の重要性が広く認識されるにしたがって、農業生産基盤も生態系に配慮したものが望まれている。そのような背景から、現在農業工学が取り組む課題は、生産性向上に向けた生産技術の開発や生産基盤の整備だけでなく、生態系に配慮した基盤の整備、生産基盤老朽化診断、長寿命化に向けた修繕・補修、生産基盤・技術の復興、防災・減災などの分野での革新的な技術開発が求められている。また、さらなる農業の効率化・省力化に向けて小型ロボットの導入や農作業の完全自動化などの取り組みも進んでいる。
農業工学のこれまでの取り組みの一つの成果が、いわゆるスマート農業と呼ばれるものである。スマート農業とはロボットや情報通信技術(ICT)を駆使し、省力化を進めながら安定した高品質生産を実現するための農業である。スマート農業の推進により、栽培技術の継承や新規就農の後押しなどが期待されているもので、今後日本のみならず世界で導入が促進されていくことが見込まれている。農業の完全自動化などを難しくする要因の一つに、工業製品には見られない自然環境下での土壌や作物生育の「ばらつき」があるが、センシング技術やデータ解析技術の発達などにより克服されてきた。このようなスマート農業の普及には農業工学分野が長年取り組んで整備してきた生産基盤が不可欠であり、関連する基礎技術や考え方は、農業工学分野で20年、30年前から、たとえば精密農業として取り組んできたものも少なくない。今後、スマート農業のいっそうの普及に向けてさらなる技術革新も求められており、農業工学としての取り組みが進められている。
また、さまざまなカメラ、センサー、衛星などのセンシング技術の発達により、ほ場の状況や作物の生育状況に関する大量のデータ(=ビッグデータ)の取得が可能となり、計算科学やデータ科学、人工知能(AI)を駆使した予測に基づいてビッグデータを栽培管理に生かす取り組みや仮想空間にほ場を再現するデジタルツイン技術の利用に関する研究も進んでいる。これまでの計測科学や計算科学に加えて、ビッグデータの収集やビッグデータの解析に基づく問題解決方法(データ駆動型科学とよぶ)は、農業分野において多くの可能性を秘めており、データ収集と予測技術の両面で、農業工学からの貢献は大きなものとなっている。
農業工学のこれまでの取り組みの一つの成果が、いわゆるスマート農業と呼ばれるものである。スマート農業とはロボットや情報通信技術(ICT)を駆使し、省力化を進めながら安定した高品質生産を実現するための農業である。スマート農業の推進により、栽培技術の継承や新規就農の後押しなどが期待されているもので、今後日本のみならず世界で導入が促進されていくことが見込まれている。農業の完全自動化などを難しくする要因の一つに、工業製品には見られない自然環境下での土壌や作物生育の「ばらつき」があるが、センシング技術やデータ解析技術の発達などにより克服されてきた。このようなスマート農業の普及には農業工学分野が長年取り組んで整備してきた生産基盤が不可欠であり、関連する基礎技術や考え方は、農業工学分野で20年、30年前から、たとえば精密農業として取り組んできたものも少なくない。今後、スマート農業のいっそうの普及に向けてさらなる技術革新も求められており、農業工学としての取り組みが進められている。
また、さまざまなカメラ、センサー、衛星などのセンシング技術の発達により、ほ場の状況や作物の生育状況に関する大量のデータ(=ビッグデータ)の取得が可能となり、計算科学やデータ科学、人工知能(AI)を駆使した予測に基づいてビッグデータを栽培管理に生かす取り組みや仮想空間にほ場を再現するデジタルツイン技術の利用に関する研究も進んでいる。これまでの計測科学や計算科学に加えて、ビッグデータの収集やビッグデータの解析に基づく問題解決方法(データ駆動型科学とよぶ)は、農業分野において多くの可能性を秘めており、データ収集と予測技術の両面で、農業工学からの貢献は大きなものとなっている。
農業工学のカリキュラム
農業工学は自然科学系分野のみならず人文社会系まで幅広い学びが求められ、大学1年次には教養基礎科目を中心に履修をする。農業工学では、専門課程に進むと、いわゆる「三力」とよばれる、構造力学、水理学、土質力学などの工学系の基礎科目をはじめとして、測量学、土壌物理学、農業機械学、リモートセンシングなど農業工学分野の素養に不可欠な科目および、それら科目に関連する実習や実験を履修する。教室内の学びの理解を深めるためにも、農業工学のカリキュラムでは実験、演習、実習は不可欠となっている。手順に沿って正確に計測し、データを取りまとめ、解析の上最終的にレポートにまとめるという一連の作業は、卒業論文のみならず実社会の実務上必要な技能である。一方で、近年ロボット技術、IoT、AIなどの先端工学的技術を利用したデジタル農業やスマート農業が展開されており、農業工学のカリキュラムでも、情報科学やデータ科学に関連する科目の履修が不可欠になっている。
専門科目を一通り履修したのち、4年次から(大学によっては3年次の途中から)は研究室に所属し、指導教員のもとで卒業論文のための卒業研究に取り組む。一般に卒業研究のテーマは指導教員と相談しながら場合によっては自分なりに見つけ、1年かけて実験や調査を進めてデータを集め、解析し、卒業研究発表会にて成果を発表し、最終的に卒業論文としてとりまとめる。
卒業研究を進めるにあたっては、研究室のゼミに参加し、自分の研究課題に関連する最新の学術論文をレビューし、自分の実験や調査、解析の進捗状況を報告し、指導教員や大学院生、または同級生らと議論を重ねていく。大学教育におけるアクティブラーニングの重要性が謳(うた)われているが、卒業研究はその最たるものである。また、先端研究は、グローバルに展開されており、自身の卒業研究に関連する学術論文の多くは英語論文であることも少なくなく、結果として、英語を学ぶ動機が必然的に生じる。学生は卒業研究を通して農業工学分野において重要なさまざまな技術や知識に加えて論理的思考を身につけるだけでなく、農業工学分野の先端研究の社会での位置づけや研究成果の社会実装、世界での展開など、幅広い視点を持つことができるようになる。
専門科目を一通り履修したのち、4年次から(大学によっては3年次の途中から)は研究室に所属し、指導教員のもとで卒業論文のための卒業研究に取り組む。一般に卒業研究のテーマは指導教員と相談しながら場合によっては自分なりに見つけ、1年かけて実験や調査を進めてデータを集め、解析し、卒業研究発表会にて成果を発表し、最終的に卒業論文としてとりまとめる。
卒業研究を進めるにあたっては、研究室のゼミに参加し、自分の研究課題に関連する最新の学術論文をレビューし、自分の実験や調査、解析の進捗状況を報告し、指導教員や大学院生、または同級生らと議論を重ねていく。大学教育におけるアクティブラーニングの重要性が謳(うた)われているが、卒業研究はその最たるものである。また、先端研究は、グローバルに展開されており、自身の卒業研究に関連する学術論文の多くは英語論文であることも少なくなく、結果として、英語を学ぶ動機が必然的に生じる。学生は卒業研究を通して農業工学分野において重要なさまざまな技術や知識に加えて論理的思考を身につけるだけでなく、農業工学分野の先端研究の社会での位置づけや研究成果の社会実装、世界での展開など、幅広い視点を持つことができるようになる。
卒業後の進路と就職
卒業後の進路は大学院への進学か就職かの二つとなる。就職先は公務員か民間企業に分けられるが、農業工学では公務員を目指す学生は少なくない。公務員も、農林水産省をはじめとする国家公務員から各地方自治体の公務員まで選択肢は多いが、多くの学生は技術系の専門を必要とする技術職を目指して公務員試験に臨む。たとえば、農業工学のなかでも土木系の技術職を目指す場合、地方自治体によって農業土木職や総合土木職とよばれる職種に応募するが、採用試験には土木一般に必要な、応用力学、水理学や土質力学などの専門科目から出題される。
民間企業への就職の場合、建設系(大手ゼネコンから建設コンサルタントまで)や食品関連、機械関連を目指す学生が多い一方、近年では環境・生態系関連から情報関連分野に加えて、これまで農学に関係のなかった企業が農学分野に参入するなど、幅広い業種に就職する学生も多い。農学部でありながら、物理や数学をベースとしている農業工学系で学んだ学生のニーズはさまざまな業種に広がっていることがうかがえる。また、農業分野でもスタートアップ企業も増えており、学生にとって選択肢の一つとなっている。農業工学を学ぶ学生の特徴として、工学的な技術や手法を習得し駆使できる一方で、作物生産を伴う「農」に対する思い入れがあるため、たとえば建設コンサルタントであっても会社の規模に関係なく農業関連に特化した会社を好んで選択する傾向も見受けられる。
また、ほかの農学分野と同じように、農業工学分野でも専門性をさらに深めるために大学院へ進学する学生も多い。修士課程に進学する場合は2年間かけて修士論文研究に取り組み、研究者を目指して博士課程まで進学する場合はさらに3年間研究に取り組み、博士論文を仕上げる。修士課程を修了後は、公務員または民間企業への就職が多くなるが、最近は公務員をはじめ専門性が重視され、学部卒と大学院卒では採用プロセスが異なるところもある。博士課程在学中は、国内外の学会での研究発表や学術雑誌への論文投稿などを通して研究者として礎を築き、博士課程を修了後は、国や民間の研究機関または大学において、博士研究員などとして研究を続け、研究者としてのキャリアを目指す。近年、科学技術立国の復活を目指すなか、学問分野を問わず博士人材の重要性が再認識され、国や大学による博士課程進学者に対する財政支援の充実が図られている。また、学会(たとえば農業農村工学会など)による博士課程進学者への財政支援も増えており、農業工学分野でも博士課程への進学が増え、深い専門性を有する博士人材の活躍する場が産学官問わず増えていくことが期待されている。また、海外の大学院へ進学する学生や、博士課程修了後に海外の研究機関で研究員を務めるなど、国際的な場での活躍を目指す学生も少なくない。農業工学に関する技術や研究に国境はなく、農業工学の学生にも世界を見据えて取り組んでもらいたい。
民間企業への就職の場合、建設系(大手ゼネコンから建設コンサルタントまで)や食品関連、機械関連を目指す学生が多い一方、近年では環境・生態系関連から情報関連分野に加えて、これまで農学に関係のなかった企業が農学分野に参入するなど、幅広い業種に就職する学生も多い。農学部でありながら、物理や数学をベースとしている農業工学系で学んだ学生のニーズはさまざまな業種に広がっていることがうかがえる。また、農業分野でもスタートアップ企業も増えており、学生にとって選択肢の一つとなっている。農業工学を学ぶ学生の特徴として、工学的な技術や手法を習得し駆使できる一方で、作物生産を伴う「農」に対する思い入れがあるため、たとえば建設コンサルタントであっても会社の規模に関係なく農業関連に特化した会社を好んで選択する傾向も見受けられる。
また、ほかの農学分野と同じように、農業工学分野でも専門性をさらに深めるために大学院へ進学する学生も多い。修士課程に進学する場合は2年間かけて修士論文研究に取り組み、研究者を目指して博士課程まで進学する場合はさらに3年間研究に取り組み、博士論文を仕上げる。修士課程を修了後は、公務員または民間企業への就職が多くなるが、最近は公務員をはじめ専門性が重視され、学部卒と大学院卒では採用プロセスが異なるところもある。博士課程在学中は、国内外の学会での研究発表や学術雑誌への論文投稿などを通して研究者として礎を築き、博士課程を修了後は、国や民間の研究機関または大学において、博士研究員などとして研究を続け、研究者としてのキャリアを目指す。近年、科学技術立国の復活を目指すなか、学問分野を問わず博士人材の重要性が再認識され、国や大学による博士課程進学者に対する財政支援の充実が図られている。また、学会(たとえば農業農村工学会など)による博士課程進学者への財政支援も増えており、農業工学分野でも博士課程への進学が増え、深い専門性を有する博士人材の活躍する場が産学官問わず増えていくことが期待されている。また、海外の大学院へ進学する学生や、博士課程修了後に海外の研究機関で研究員を務めるなど、国際的な場での活躍を目指す学生も少なくない。農業工学に関する技術や研究に国境はなく、農業工学の学生にも世界を見据えて取り組んでもらいたい。

