何を学ぶ
栄養学とは、健康の維持、病気の予防・治療のために、いつ何をどれだけ食べればよいのかを理解する学問。AIなどを活用した個別化栄養管理という未来の栄養学の実現を目指す。

竹谷 豊(たけたに ゆたか)先生
徳島大学/医学部医科栄養学科/教授
1970年生まれ、兵庫県出身。1994年に徳島大学大学院栄養学研究科博士前期課程修了。徳島大学医学部栄養学科助手、准教授を経て2014年より現職。専門は臨床栄養学。
学問の歴史と将来
古来より「医食同源」、「食律生命」、「食養生」と言われるように、生きるために、また病気の予防や治療のために食事が重要だと認識されてきました。江戸中期の儒学者である貝原(かいばら)益軒(えきけん)は、「養生訓」の中で食塩の少ない食事、いろいろなものをバランスよく食べることなど現在の栄養学にも通ずる食事のとり方を記しています。一方、欧州ではすでに身体の構成成分の理解、エネルギー、たんぱく質、脂質の実体とその重要性についての科学的な理解が進み、今日の栄養学の基礎が確立されてきていました。明治維新とともに西洋の栄養学がわが国にも導入されました。当時の社会的にも国防上も大きな問題が脚気でした。海軍軍医であった高木(たかき)兼寛(かねひろ)は、白米主体の食事とした軍艦と洋食を取り入れた軍艦とを比較することで、食事に原因があることを明らかにし、脚気を克服しました。現在では栄養疫学と言われるこの研究手法は、当時は画期的なものでした。これらの研究をもとに、農学者の鈴木梅太郎博士が、米ぬかから脚気予防の有効成分として「オリザニン」を抽出することに世界で初めて成功しました。この成分は、現在ではビタミンB₁として知られています。このように19世紀末から20世紀初頭にかけて、ビタミンやミネラルの栄養学的研究が進みましたが、研究の多くは医学の一部として行われてきました。そのようななか、日本では、佐伯(さいき)矩(ただす)博士が、それまで医学の一部であった栄養学を一つの学問として独立させ、世界初の栄養学研究所や栄養士養成学校を立ち上げに尽力されました。これらが現在の医薬基盤・健康・栄養研究所や栄養士・管理栄養士制度の確立につながっています。ちなみに「栄養」という言葉を定着させたのも佐伯先生です。
20世紀初頭の栄養学は、欠乏の克服が課題でした。戦後の食糧難や栄養不良の克服に栄養学は大きく貢献し、いち早く復興を遂げる一因となりました。学校給食は、食育として食生活の改善に貢献し現在も重要な位置づけにあります。20世紀後半からは、飽食の時代を迎え、栄養過剰の問題とともに、傷病者や高齢者における栄養不良の問題と対峙してきました。21世紀の現代では、改めて「いつ・何を・どれだけ食べればよいのか」をより一層考えねばならない時代となっています。また、病気の治療における栄養学の重要性も高まっています。特に管理栄養士には、栄養療法の専門家としてチーム医療に携わることが求められています(図参照)。栄養サポートチーム(NST)は、チーム医療実践の代表的なものですが、近年では、摂食嚥下チームなど、さまざまな病態の患者ケアへの参画が求められているほか、集中治療室や一般病棟への管理栄養士の専任配置も進められています。医学の進歩に併せて医師、歯科医師、薬剤師、看護師などと連携して対応できる管理栄養士が求められており、より専門性の高い管理栄養士として、がん病態栄養専門管理栄養士、糖尿病病態栄養専門管理栄養士、在宅栄養専門管理栄養士、摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士などの専門管理栄養士制度が設けられています。また、行政における栄養施策の立案・推進や地震や台風など大規模な広域災害時の災害支援における管理栄養士の重要性も増しています。
20世紀初頭の栄養学は、欠乏の克服が課題でした。戦後の食糧難や栄養不良の克服に栄養学は大きく貢献し、いち早く復興を遂げる一因となりました。学校給食は、食育として食生活の改善に貢献し現在も重要な位置づけにあります。20世紀後半からは、飽食の時代を迎え、栄養過剰の問題とともに、傷病者や高齢者における栄養不良の問題と対峙してきました。21世紀の現代では、改めて「いつ・何を・どれだけ食べればよいのか」をより一層考えねばならない時代となっています。また、病気の治療における栄養学の重要性も高まっています。特に管理栄養士には、栄養療法の専門家としてチーム医療に携わることが求められています(図参照)。栄養サポートチーム(NST)は、チーム医療実践の代表的なものですが、近年では、摂食嚥下チームなど、さまざまな病態の患者ケアへの参画が求められているほか、集中治療室や一般病棟への管理栄養士の専任配置も進められています。医学の進歩に併せて医師、歯科医師、薬剤師、看護師などと連携して対応できる管理栄養士が求められており、より専門性の高い管理栄養士として、がん病態栄養専門管理栄養士、糖尿病病態栄養専門管理栄養士、在宅栄養専門管理栄養士、摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士などの専門管理栄養士制度が設けられています。また、行政における栄養施策の立案・推進や地震や台風など大規模な広域災害時の災害支援における管理栄養士の重要性も増しています。
学問の現状と課題
栄養学の研究は、非常に広く、奥が深いものです。特にこの20年ほどの間には、栄養素や食品成分の生理作用や、病気のときの栄養素代謝異常のメカニズムが分子レベルで明らかになってきました。そのようなメカニズムをもとに、栄養療法の開発、健康増進のための機能性食品の開発、スポーツ栄養学などが発展してきました。一方、食べても太りにくい人やインフルエンザに感染しやすい人など、人間には個人差というものがあります。個人差には、体質、生活習慣、環境などさまざまな要因が関与しますが、これらを精密に理解し、健康維持や病気の予防・治療において個人に最適な栄養管理を提供しようという考え方が広がってきています。このような考え方に基づく栄養学をプレシジョン栄養学(個別化栄養学あるいは精密化栄養学という意味)といいます。個人差を決める代表的な因子は、遺伝子や腸内細菌です。例えば、遺伝子のわずかな違いや常在する腸内細菌の種類の違いが、栄養素の代謝や生理作用の違い、さらには病気の発症に違いを生じることがわかってきました。一方、遺伝子や腸内細菌にそのようなリスクをもっていたとしても、食生活を適切にすることで将来の病気のリスクを減らすことも可能です。最近では、腸内細菌を標的とした機能性食品が市場に出ており、「腸活」と言う言葉もマスメディアなどで頻繁に紹介されています。体質の決定に関わる遺伝子検査なども人間ドックなどで実施されているところもあります。
また、人には体内時計というものがあり、食べる時間によって栄養素の代謝速度や利用効率に違いがあることも明らかになってきています。体内時計による栄養素の代謝調節に合わせた適切な栄養摂取を目指す学問として時間栄養学という領域も近年注目されている分野です。プレシジョン栄養学は、このような遺伝子、腸内細菌、時間栄養学など栄養学のさまざまな領域の知見を統合して応用していくものです。現在は、遺伝子、腸内細菌や体内時計などに違いがある場合に、どのような食事をすればより健康が維持できるか、病気になりにくいかといった研究が進んできています。しかしながら、そのような組合せは無数にあり、莫大なデータを解析する必要があります。例えば、数千〜数万人から食事や生活習慣のデータと健康・疾病に関連する検査データなどを集めて人工知能で解析し、個人にとって最適な食事を提案する研究などがあります。このような研究が進めば、個人の年齢、体質、疾病の有無、生活環境に併せて、いつ、何をどれだけ食べればよいかを精密に示すことができるようになると期待されています。
また、人には体内時計というものがあり、食べる時間によって栄養素の代謝速度や利用効率に違いがあることも明らかになってきています。体内時計による栄養素の代謝調節に合わせた適切な栄養摂取を目指す学問として時間栄養学という領域も近年注目されている分野です。プレシジョン栄養学は、このような遺伝子、腸内細菌、時間栄養学など栄養学のさまざまな領域の知見を統合して応用していくものです。現在は、遺伝子、腸内細菌や体内時計などに違いがある場合に、どのような食事をすればより健康が維持できるか、病気になりにくいかといった研究が進んできています。しかしながら、そのような組合せは無数にあり、莫大なデータを解析する必要があります。例えば、数千〜数万人から食事や生活習慣のデータと健康・疾病に関連する検査データなどを集めて人工知能で解析し、個人にとって最適な食事を提案する研究などがあります。このような研究が進めば、個人の年齢、体質、疾病の有無、生活環境に併せて、いつ、何をどれだけ食べればよいかを精密に示すことができるようになると期待されています。
大学での主な学科目の内容とカリキュラム
栄養学領域の大学では、栄養士や管理栄養士の取得を目指すために、法律で定められた科目を学ぶ必要があります。大学によって重点を置いている科目やカリキュラムの構成に違いはありますが、概ね以下のような構成となります。
1年次には教養科目のほか、専門科目修得の基盤となる化学や生物学、数学などの基礎的な科目を学びます。これらの科目では、化学では有機化学、生物学では細胞や人体の仕組み、数学では統計学など、栄養学の理解につながる内容を学びます。その後には、栄養学の基礎となる人体の構造と機能を学ぶ生化学や生理学、食品学などの専門基礎科目の履修も始まります。2年次からは、本格的に病気の成り立ち、基礎栄養学、食品衛生学、調理学などの専門基礎科目の講義、実験、実習による学びが中心となります。例えば、病気の成り立ちでは、糖尿病や腎臓病などの発症機序や治療法など基礎医学・臨床医学・薬理学に関わる内容を学びます。基礎栄養学では栄養素の種類と機能について学びます。3年次では、応用栄養学、栄養教育論、臨床栄養学、公衆栄養学、給食経営管理論など、より専門的な栄養学の講義と実験・実習があります。応用栄養学では、ライフステージと栄養、栄養教育では食育や行動変容の方法、臨床栄養学では疾病毎の栄養管理、公衆栄養学では集団への栄養介入の方法、給食経営管理論では給食の運営方法などを学びます。4年次では病院、保健所、学校などの集団給食施設での臨地実習および卒業研究に取り組みます。特に、2年次と3年次には講義に加え専門的な実験・実習の時間が大幅に増加します。栄養教諭を目指す人には、さらに教職課程を履修する必要があります。
栄養学は、学際的な学問であり、文系・理系のどちらからでも進学することはできる大学が多いと思います。しかし、栄養学は、医学、薬学、農学と非常に密接な関係がある理系の学問です(図参照)。高校で学ぶ科目としては、化学、生物学が基本となるので、これらの科目を高校在学中にしっかりと学んでおいてほしいと思います。
また、食事と体の機能の関係や病気の発症や治療との関係を理解するために、論理的な思考力が求められます。さらに、今後はAIなどを駆使するための情報学や統計、英語などの能力がこれまで以上に求められるようになるでしょう。
卒業後の進路は、病院、老人保健施設、学校などのほか、食品企業、保健所や市町村の保健センター等の行政職、国や大学の研究機関などがあります。特に、病院、行政、企業や大学などの研究職への就職にあたっては、研究者の素養が求められるため、大学院への進学が勧められます。最近では朝ドラで管理栄養士が取り上げられ社会的な関心も高まっています。栄養学は、食事・栄養を通じて、多くの人の健康維持や病気の回復に貢献できる学問です。そのような使命感をもって取り組める人に栄養学を学んでいただきたいと思います。
1年次には教養科目のほか、専門科目修得の基盤となる化学や生物学、数学などの基礎的な科目を学びます。これらの科目では、化学では有機化学、生物学では細胞や人体の仕組み、数学では統計学など、栄養学の理解につながる内容を学びます。その後には、栄養学の基礎となる人体の構造と機能を学ぶ生化学や生理学、食品学などの専門基礎科目の履修も始まります。2年次からは、本格的に病気の成り立ち、基礎栄養学、食品衛生学、調理学などの専門基礎科目の講義、実験、実習による学びが中心となります。例えば、病気の成り立ちでは、糖尿病や腎臓病などの発症機序や治療法など基礎医学・臨床医学・薬理学に関わる内容を学びます。基礎栄養学では栄養素の種類と機能について学びます。3年次では、応用栄養学、栄養教育論、臨床栄養学、公衆栄養学、給食経営管理論など、より専門的な栄養学の講義と実験・実習があります。応用栄養学では、ライフステージと栄養、栄養教育では食育や行動変容の方法、臨床栄養学では疾病毎の栄養管理、公衆栄養学では集団への栄養介入の方法、給食経営管理論では給食の運営方法などを学びます。4年次では病院、保健所、学校などの集団給食施設での臨地実習および卒業研究に取り組みます。特に、2年次と3年次には講義に加え専門的な実験・実習の時間が大幅に増加します。栄養教諭を目指す人には、さらに教職課程を履修する必要があります。
栄養学は、学際的な学問であり、文系・理系のどちらからでも進学することはできる大学が多いと思います。しかし、栄養学は、医学、薬学、農学と非常に密接な関係がある理系の学問です(図参照)。高校で学ぶ科目としては、化学、生物学が基本となるので、これらの科目を高校在学中にしっかりと学んでおいてほしいと思います。
また、食事と体の機能の関係や病気の発症や治療との関係を理解するために、論理的な思考力が求められます。さらに、今後はAIなどを駆使するための情報学や統計、英語などの能力がこれまで以上に求められるようになるでしょう。
卒業後の進路は、病院、老人保健施設、学校などのほか、食品企業、保健所や市町村の保健センター等の行政職、国や大学の研究機関などがあります。特に、病院、行政、企業や大学などの研究職への就職にあたっては、研究者の素養が求められるため、大学院への進学が勧められます。最近では朝ドラで管理栄養士が取り上げられ社会的な関心も高まっています。栄養学は、食事・栄養を通じて、多くの人の健康維持や病気の回復に貢献できる学問です。そのような使命感をもって取り組める人に栄養学を学んでいただきたいと思います。
◆栄養学関連の学科として家政・生活科学部系統の「食物学分野」もあるので参照してほしい。

