何を学ぶ
人びとの健康を支える看護専門職(看護師、保健師、助産師)の基盤となる理論的根拠や新たな看護実践を追究する学問。生老病死の深い学びは、自身の人生観をも豊かにする。

増島 麻里子(ますじま まりこ)先生
千葉大学/大学院看護学研究院/教授
千葉大学大学院看護学研究科修了、がん専門病院等の看護師勤務を経て現職。専門は、成人看護学、がん看護学。エンドオブライフケアや浮腫/リンパ浮腫ケアに関わる研究と教育に取り組んでいる。
看護学とはどんな学問か
これから「看護学」を学ぶ皆さんは、看護というと何をイメージするだろうか。自身の幼少期に病気を体験し、家族から受けた看病や、病院で患者と関わる看護師を想像するかもしれない。あるいは、人の誕生に関わる助産師や、新型コロナウィルス感染症流行時に市民の健康観察や予防対策を牽引した保健師の活躍も記憶に新しいであろう。看護専門職は、あらゆる年代の人や家族、地域集団や社会の健康を促進し、病気を予防する重要な役割を担う医療職である。人は生きていく限り、健康そして病とともに人生を歩む存在である。「看護学」は思いやりや経験則による看病という行為を超えて、人の生老病死に深く関わる。きっかけは誰かのために学ぶ「看護学」かもしれないが、皆さん自身が生きる上で必ず役立ち、人生観に影響を与える学問でもある。
「看護学」は、対象の健康とは何か、人がよりよく生きるとはどのようなことか、生まれてから生涯を終えるまで自宅や高齢者施設を含む居宅、医療機関、社会でその人の持てる力を最大限生かすために看護専門職ができることは何かを追究し、看護を発展させ続ける学問である。多様で複雑な健康課題は、正解が1つではないことも多く、看護専門職が同じような状況に出会ったとしても、これまでの方法では解決できないこともある。そのため「看護学」では、その対象の考え方や視点を大切にし、その人にとって最善の方向性を科学的根拠に基づき徹底的に考え、最も効果的な看護を実践・評価・研究・開発することを学ぶ。
日本の大学教育における「看護学」は、比較的新しい学問領域でもある。ご存知のように看護師国家試験の受験資格を得るためには複数の進路があり、国が指定する看護師養成校には看護系大学、看護短期大学、看護専門学校が含まれる。日本の大学で「看護学」が教育され始めたのは1950年代であり、筆者が所属する千葉大学に看護学部が設置された1975年当時は、国公私立を含め看護系大学はわずか6校であった。看護基礎教育が4年制大学での教育を基本とすることが明示されたのは、2010年「保健師助産師看護師法及び看護師等の人材確保の促進に関する法律の一部改正」の可決・施行後である。2025年現在、看護系大学は約300校となり、看護系大学は看護師養成校入学定員の約1/2を占めるようになった。そのため「看護学」は今後の発展が大いに期待される学問の一つといえる。
「看護学」は、対象の健康とは何か、人がよりよく生きるとはどのようなことか、生まれてから生涯を終えるまで自宅や高齢者施設を含む居宅、医療機関、社会でその人の持てる力を最大限生かすために看護専門職ができることは何かを追究し、看護を発展させ続ける学問である。多様で複雑な健康課題は、正解が1つではないことも多く、看護専門職が同じような状況に出会ったとしても、これまでの方法では解決できないこともある。そのため「看護学」では、その対象の考え方や視点を大切にし、その人にとって最善の方向性を科学的根拠に基づき徹底的に考え、最も効果的な看護を実践・評価・研究・開発することを学ぶ。
日本の大学教育における「看護学」は、比較的新しい学問領域でもある。ご存知のように看護師国家試験の受験資格を得るためには複数の進路があり、国が指定する看護師養成校には看護系大学、看護短期大学、看護専門学校が含まれる。日本の大学で「看護学」が教育され始めたのは1950年代であり、筆者が所属する千葉大学に看護学部が設置された1975年当時は、国公私立を含め看護系大学はわずか6校であった。看護基礎教育が4年制大学での教育を基本とすることが明示されたのは、2010年「保健師助産師看護師法及び看護師等の人材確保の促進に関する法律の一部改正」の可決・施行後である。2025年現在、看護系大学は約300校となり、看護系大学は看護師養成校入学定員の約1/2を占めるようになった。そのため「看護学」は今後の発展が大いに期待される学問の一つといえる。
看護学の現状と課題
近未来の健康課題としては、少子高齢化に伴う人口構成の変化や地域・経済格差による課題、新興感染症の蔓延、災害や気候変動等に伴う新たな課題が予測される。これらの健康課題を解決するためには「看護学」単独ではなく、医学や社会学、心理学等の多様な他学問の基礎知識や技術を応用し、対象に最適な看護を考える必要がある(図1)。
「看護学」に引きつけて考えると、少子化は35歳以上で出産する女性の増加も一因と考えられている。30代後半や40歳以上の高年での妊娠・出産は、妊娠高血圧症候群等の母体の生命に関わる合併症や流産のリスクが増加することもある。「看護学」として解決するためには、高年出産に関わる健康課題を有する人やその家族・パートナーを理解し、妊婦の心身の健康を支えるための心理学的なアプローチや、母体や新生児の合併症予防のための医学の基礎知識が必須となる。また、なぜ少子化が進むのかといった社会学の観点や世界の少子化対策を知る国際的な視点も「看護学」に必要な素養である。
また「看護学」の進展は、人びとの健康に貢献する医学や薬学の進歩も大きく影響する。筆者が専門とするがん医療においては、人体に負担の少ない手術方法や放射線治療の開発、がんの種別によってはがんに関連する遺伝子変異を検査することで一人ひとりの病態に合う新たながん薬物治療の開発も目覚ましい。同じ「乳がん」と診断されても治療はさまざまで、乳房を全部切除する場合もあれば、一部を切除する場合もある。がん薬物治療を手術前または手術後に受けたり、放射線治療を追加する場合もある。治療や薬剤の発展には医学や薬学が役割を担うが、医学や薬学と異なる「看護学」の特徴は、対象を「がん患者」のように疾患中心に考えるのではなく「がんと共に生きる人」のように、一貫して一人の人間を中心に置いて考える点にある。「看護学」では、がんと診断された時の心理過程から最適な看護を考えたり、がんと共に生きる人が子育てや仕事をしながら治療を継続するために必要な看護を提供し、多職種と連携しながら対象と向き合う。がん治療が功を奏し、治癒に向かう人びとも多いが、治療の効果が見込めない時期には死を見据えた看護も必要となる。医療の力が及ばない段階においても、最期までその人が自分らしく生きることを支えるための意思決定支援や、心身の苦痛を緩和する看護を開発することは「看護学」の大きな役割である。
「看護学」が目指す人々の健康維持・増進は、世界共通の課題でもある。昨今は情報技術(ICT:Information and Communication Technology)や人工知能(AI:Artificial Intelligence)を看護に取り入れる研究も行われ、医療者が対象から離れた場にいても、医療や看護を提供する遠隔医療や遠隔看護も開発されている。「看護学」は、いまだ看護の手が届かぬ領域をなくし、人びとの健康に真に貢献するために、他学問領域と連携・融合しながら、未来志向で看護の実践・教育・研究を進化させている。
「看護学」に引きつけて考えると、少子化は35歳以上で出産する女性の増加も一因と考えられている。30代後半や40歳以上の高年での妊娠・出産は、妊娠高血圧症候群等の母体の生命に関わる合併症や流産のリスクが増加することもある。「看護学」として解決するためには、高年出産に関わる健康課題を有する人やその家族・パートナーを理解し、妊婦の心身の健康を支えるための心理学的なアプローチや、母体や新生児の合併症予防のための医学の基礎知識が必須となる。また、なぜ少子化が進むのかといった社会学の観点や世界の少子化対策を知る国際的な視点も「看護学」に必要な素養である。
また「看護学」の進展は、人びとの健康に貢献する医学や薬学の進歩も大きく影響する。筆者が専門とするがん医療においては、人体に負担の少ない手術方法や放射線治療の開発、がんの種別によってはがんに関連する遺伝子変異を検査することで一人ひとりの病態に合う新たながん薬物治療の開発も目覚ましい。同じ「乳がん」と診断されても治療はさまざまで、乳房を全部切除する場合もあれば、一部を切除する場合もある。がん薬物治療を手術前または手術後に受けたり、放射線治療を追加する場合もある。治療や薬剤の発展には医学や薬学が役割を担うが、医学や薬学と異なる「看護学」の特徴は、対象を「がん患者」のように疾患中心に考えるのではなく「がんと共に生きる人」のように、一貫して一人の人間を中心に置いて考える点にある。「看護学」では、がんと診断された時の心理過程から最適な看護を考えたり、がんと共に生きる人が子育てや仕事をしながら治療を継続するために必要な看護を提供し、多職種と連携しながら対象と向き合う。がん治療が功を奏し、治癒に向かう人びとも多いが、治療の効果が見込めない時期には死を見据えた看護も必要となる。医療の力が及ばない段階においても、最期までその人が自分らしく生きることを支えるための意思決定支援や、心身の苦痛を緩和する看護を開発することは「看護学」の大きな役割である。
「看護学」が目指す人々の健康維持・増進は、世界共通の課題でもある。昨今は情報技術(ICT:Information and Communication Technology)や人工知能(AI:Artificial Intelligence)を看護に取り入れる研究も行われ、医療者が対象から離れた場にいても、医療や看護を提供する遠隔医療や遠隔看護も開発されている。「看護学」は、いまだ看護の手が届かぬ領域をなくし、人びとの健康に真に貢献するために、他学問領域と連携・融合しながら、未来志向で看護の実践・教育・研究を進化させている。
大学での学び
大学で「看護学」を学ぶということは、看護基礎教育を受けることに直結し、看護師をはじめ、大学によっては保健師や助産師の国家受験資格も得ることができる。看護師国家試験で問われる科目と主な学習内容を表に示す(表1)。また文部科学省は、2025年に「看護学」を学ぶ学生が卒業時に到達することが望まれる「看護学教育において到達が期待される中核となる能力」として11の内容を提示した。その内容は「対象を総合的・全人的に捉える基本的能力」「プロフェッショナリズム」「生涯学習能力」「地域社会における健康支援」「ケアの質と安全の管理」「多職種連携能力」「科学的探究能力」「患者ケアのための臨床スキル」「コミュニケーション能力」「情報・科学技術を活かす能力」「専門知識に基づいた問題解決能力」である。このような能力を獲得するためには、創造力や問題意識、倫理観、思考力、感受性をあわせ持つ調和のとれた豊かな人間性が基盤となる(図2)。「看護学」のカリキュラムでは、豊かな教養と柔軟で論理的な思考力を培い、幅広い問題意識と確かな倫理観を備え調和のとれた看護専門職として現代社会の要請に応えられる人材育成を重視する。
次に、看護学部のカリキュラムが年次ごとにどのように進行するかの例を示す(図3)。専門教育科目には、人間・健康・看護の理解を主軸とし、人間や生活、保健・医療・福祉を理解するための専門基礎科目と、看護実践の理論と方法や看護を発展させる機能を理解するための専門科目がある。専門科目では、看護実践の基本理論と方法論を学ぶ基礎看護学にはじまり、小児期、成人期、老年期というライフステージごとに、人びとに特徴的な健康問題や治療方法、看護を学び、さらに、家族や地域を基盤にした看護活動の考え方等を学ぶ。「看護学」においては、看護の対象と直接関わる実践を通して学ぶ臨地実習での学びも重視する。実習では、学んだ知識や技術を活用して看護を必要とする人びとに対する理解を深めつつ、その人らしい生活ができるように根拠に基づく看護を実践する。さらに、看護を発展させる科目として、研究活動を通して主体的に看護を追究する卒業研究も併行して行う。
次に、看護学部のカリキュラムが年次ごとにどのように進行するかの例を示す(図3)。専門教育科目には、人間・健康・看護の理解を主軸とし、人間や生活、保健・医療・福祉を理解するための専門基礎科目と、看護実践の理論と方法や看護を発展させる機能を理解するための専門科目がある。専門科目では、看護実践の基本理論と方法論を学ぶ基礎看護学にはじまり、小児期、成人期、老年期というライフステージごとに、人びとに特徴的な健康問題や治療方法、看護を学び、さらに、家族や地域を基盤にした看護活動の考え方等を学ぶ。「看護学」においては、看護の対象と直接関わる実践を通して学ぶ臨地実習での学びも重視する。実習では、学んだ知識や技術を活用して看護を必要とする人びとに対する理解を深めつつ、その人らしい生活ができるように根拠に基づく看護を実践する。さらに、看護を発展させる科目として、研究活動を通して主体的に看護を追究する卒業研究も併行して行う。
卒業後の進路
看護師、保健師、助産師の国家試験は2月中旬に実施され、3月下旬の合格発表を受けて、晴れて有資格者として働くこととなる。職場は、病院、保健センター、訪問看護ステーション、福祉施設、助産院等、さまざまである。看護専門職のキャリアや学びの拡がりは全て自分次第であり、「看護学」を基盤にした将来の道は無限大である。実践経験を積んだ上で、海外青年協力隊や海外の病院や看護系大学で国際的に活動する道、がん看護や小児看護等の特定分野の専門看護師や認定看護師等のスペシャリストになる道、看護管理者や看護学教育研究者になる道、厚生労働省の看護系技官や文部科学省の看護教育専門官として省庁で働く道もある。キャリアアップのためには、大学院で専門領域の学問をさらに探究し、高度な看護実践力や研究力を身につけることも必要である。教育研究者として従事するためには、修士や博士の学位を有することが求められる。大学における看護学教育は、大学院教育にも連動している。大学院での学びは、看護実践の場で直面する課題に対する自身の視野を広げ、実践の科学である看護をさらに発展させることにもつながるであろう。
こんな人に向いている
「看護学」は人を対象とする学問なので、人間や健康に関心があり、生命と向き合う責任感と使命感を有する人に向いている。看護専門職の国家資格は、一度取得すると更新の必要はないが、常に看護に関わる専門知識と技術をアップデートする生涯学習が欠かせない。学び続けるプロセスを楽しみ、他学問領域の知見やグローバルな思考を深め、科学者の視点で新たな看護を見出す創造性を養うことで、解決困難と思われる健康課題にも果敢に挑戦してほしい。そして「看護学」を通して、自分、そして身近な友人や家族が健やかに生きるための智慧を学びつつ、看護専門職として生涯活躍されることを願う。





