何を学ぶ
衣服、もはや必需品という考えだけではない。豊かな暮らしの付加価値とライフスタイルそのものとして、ファッションを「創る」と「考える」の実践的・総合的学問である。

申 恩泳(シン ウンヨン)先生
文化学園大学/服装学部長、大学院生活環境学研究科/教授
文化女子大学家政学部(現・文化学園大学服装学部)を経て、同大学院(現・文化学園大学大学院)で人びとの着装行動に関する博士論文を執筆し、博士号(被服環境学)を取得後、同大学教員となる。
学問としての被服学の歴史
人間は、なぜ服を着るのか?
「衣食住」という言葉があるが、このうち、食べることは全ての生物に共通し、住処を持つことも大体そうである。しかし、服を着ることは人間だけの営みであり、人間は、日常生活において必ず衣服を身にまとい着飾っている。
「人間は、なぜ服を着るのだろう?」
授業の初回には必ずこのような質問を学生に投げかけるが、学生からは真っ先に「寒さや危険から体を守るため」という回答が多く出てくる。その通りであろう。地球上の他の動物とは違って、文明社会に生きる人間は服を身にまとうことで寒さを防ぎ、危険から自分の身を守る役割を担わせてきたからである。
「被服」という語は、衣服を含めて人間が身にまとうもの、または被るものの総称であるが、そもそも、人間が寒さや危険から身を守るためには、どのような素材で作ればもっと暖かいだろうか、または丈夫だろうか?どのような形に作ればもっと動きやすいだろうか、または快適だろうか?などについて深く追求し、衣生活に関わる全般をより科学的に研究しようとしたことが、学問としての「被服学」の始まりであると言えよう。そして、日本では第二次世界大戦後、衣服はまだ手作りがほとんどで家庭生活を営む上での必需品であるという考えから、大学の家政学部(家政学科)の領域のなかで被服材料、被服管理、被服構成、被服デザイン、服装史などの科目を中心に学問と教育の体系作りが始まったのである。
その後、産業界の目まぐるしい発展と衣類産業(ファッション業界)の急成長、技術の進歩と経済の高度成長に伴い、人間の衣生活は、それまでに手作りが主流であった衣服から既製服を主流とする衣生活へと発展した。また、そのような変化のなかで、多くの人びとはより美しいものを求めたり、より品質のよいものを求めたりと、豊かな生活を追求するようになり、「衣服/被服」に対する概念は、単に衣生活における必需品ではなく、「暮らしを豊かにしてくれる付加価値」のあるものへと変わった。そのため、被服材料、被服管理、被服構成、被服デザインなど、「モノとしての衣服/被服」(下表の類似用語参照)を学問の対象としていた従来の「被服学」に加えて、人間が追求する豊かな生活や社会、また、それに関わる人間の感性や行動や心理などを含めた、総合的なとらえ方が必要になったのである。
そのような考えをもとに、現在は、新たな学問体系が作られ、学問としての「被服学」は、より広い領域で研究と教育をする「服装学」として進化している。
「衣食住」という言葉があるが、このうち、食べることは全ての生物に共通し、住処を持つことも大体そうである。しかし、服を着ることは人間だけの営みであり、人間は、日常生活において必ず衣服を身にまとい着飾っている。
「人間は、なぜ服を着るのだろう?」
授業の初回には必ずこのような質問を学生に投げかけるが、学生からは真っ先に「寒さや危険から体を守るため」という回答が多く出てくる。その通りであろう。地球上の他の動物とは違って、文明社会に生きる人間は服を身にまとうことで寒さを防ぎ、危険から自分の身を守る役割を担わせてきたからである。
「被服」という語は、衣服を含めて人間が身にまとうもの、または被るものの総称であるが、そもそも、人間が寒さや危険から身を守るためには、どのような素材で作ればもっと暖かいだろうか、または丈夫だろうか?どのような形に作ればもっと動きやすいだろうか、または快適だろうか?などについて深く追求し、衣生活に関わる全般をより科学的に研究しようとしたことが、学問としての「被服学」の始まりであると言えよう。そして、日本では第二次世界大戦後、衣服はまだ手作りがほとんどで家庭生活を営む上での必需品であるという考えから、大学の家政学部(家政学科)の領域のなかで被服材料、被服管理、被服構成、被服デザイン、服装史などの科目を中心に学問と教育の体系作りが始まったのである。
その後、産業界の目まぐるしい発展と衣類産業(ファッション業界)の急成長、技術の進歩と経済の高度成長に伴い、人間の衣生活は、それまでに手作りが主流であった衣服から既製服を主流とする衣生活へと発展した。また、そのような変化のなかで、多くの人びとはより美しいものを求めたり、より品質のよいものを求めたりと、豊かな生活を追求するようになり、「衣服/被服」に対する概念は、単に衣生活における必需品ではなく、「暮らしを豊かにしてくれる付加価値」のあるものへと変わった。そのため、被服材料、被服管理、被服構成、被服デザインなど、「モノとしての衣服/被服」(下表の類似用語参照)を学問の対象としていた従来の「被服学」に加えて、人間が追求する豊かな生活や社会、また、それに関わる人間の感性や行動や心理などを含めた、総合的なとらえ方が必要になったのである。
そのような考えをもとに、現在は、新たな学問体系が作られ、学問としての「被服学」は、より広い領域で研究と教育をする「服装学」として進化している。
学問体系の現状(主な学科目とカリキュラム)
文明社会に生きる人間は、日常生活のなかで衣服を身にまとい、寒さや危険から自分の身を守っている一方で、好きな色や形を取り入れて個人の感性や自分らしさを表現している。また、自分の経済力や立場などを表現したり、民族や宗教的な意味を含めて自分が暮らしている社会の規範や信仰心を示したりもする。つまり、人間は衣服というモノに、何らかの意味づけをした装いで、他の人びととコミュニケーションしながら社会的生活をしているということである。
こうした人間の社会的生活を含めた研究と教育として、文化学園大学では創立時から家政学部に服装学科を置くことで、その体系作りを試みてきた。現在は家政学部から服装学部へと変更し、ファッションクリエイション学科とファッション社会学科の2学科を置いている。この2学科ではそれぞれ「創る」と「考える」に焦点化したカリキュラムで教育を行っている。そこに前項で述べた社会変化が背景としてあり、一貫して「服装」という観点がある(図参照)。
たとえば、ファッションクリエイション学科では、人間がモノとしての衣服を身にまとう際に、いかにして豊かさと自分らしさを表現できるモノを「創る」かに主眼を置いている。それは科学的な実験や美学または芸術学的な視点を含めたアプローチである。
一方、ファッション社会学科では、「衣」を「ファッション」として装う人びと側に立って、心理・社会・文化・市場・ビジネス・グローバルなどの視点からアプローチし、それらが互いにどのように結びついているかという諸関係性を理解し、「考える」ことに主眼を置いている。
これらの学びから、ファッション業界に携わるための実践力・洞察力・総合力を身につけることを目的としている。
こうした人間の社会的生活を含めた研究と教育として、文化学園大学では創立時から家政学部に服装学科を置くことで、その体系作りを試みてきた。現在は家政学部から服装学部へと変更し、ファッションクリエイション学科とファッション社会学科の2学科を置いている。この2学科ではそれぞれ「創る」と「考える」に焦点化したカリキュラムで教育を行っている。そこに前項で述べた社会変化が背景としてあり、一貫して「服装」という観点がある(図参照)。
たとえば、ファッションクリエイション学科では、人間がモノとしての衣服を身にまとう際に、いかにして豊かさと自分らしさを表現できるモノを「創る」かに主眼を置いている。それは科学的な実験や美学または芸術学的な視点を含めたアプローチである。
一方、ファッション社会学科では、「衣」を「ファッション」として装う人びと側に立って、心理・社会・文化・市場・ビジネス・グローバルなどの視点からアプローチし、それらが互いにどのように結びついているかという諸関係性を理解し、「考える」ことに主眼を置いている。
これらの学びから、ファッション業界に携わるための実践力・洞察力・総合力を身につけることを目的としている。
学問としての課題と将来
このように学問としての被服学は、社会の変化や産業界の発展とともに「服装学」へとその幅を広げて、カリキュラム体系も大きく変わってきたのが現状であるが、こうした変化は今後も求め続けられることであろう。現に、近年の大きな社会変化のなかには、超高齢化社会の問題や環境問題、またはジェンダー問題などが大きな関心事となっており、各産業界においても学問の世界においても、これらの問題に積極的に取り組んでいる。被服学あるいは服装学の学問の世界においてそれぞれの例を挙げれば、体の不自由な方や高齢者にやさしいユニバーサルファッションに関する研究が盛んに行われたり、被服のリサイクルやリユースなど、産業界と連携しながら対策を研究したり、ジェンダー問題との関連ではジェンダーレスファッションを含めた教育による意識の改革などがある。
こうした一連のことを含めて大学の研究や教育は、常に変化に対応しつつ、持続可能なファッションとファッション教育をしていかなければならない。それが学問としての課題でもあるといえよう。また、上記に述べた学問領域とカリキュラムは、文化学園大学の例であるが、他の多くの大学においても、基本的には同様の考え方のもとでカリキュラムを立てていると思われる。強いて違いがあるとすれば、それぞれの大学には、それぞれの大学がより強みとする学問領域があり、その強みを生かした形で学科とカリキュラムの構成が異なるという点であろう。
被服学/服装学の勉強を希望する高校生の皆さんには各々の動機や将来に望む道があると思われるが、自らが「好き」なファッションを学びの素材にしながら種々の専門性を深堀できるよう、また「好き」に加えて自分の「適性」を生かせる将来と向き合っていただくことを願う。
こうした一連のことを含めて大学の研究や教育は、常に変化に対応しつつ、持続可能なファッションとファッション教育をしていかなければならない。それが学問としての課題でもあるといえよう。また、上記に述べた学問領域とカリキュラムは、文化学園大学の例であるが、他の多くの大学においても、基本的には同様の考え方のもとでカリキュラムを立てていると思われる。強いて違いがあるとすれば、それぞれの大学には、それぞれの大学がより強みとする学問領域があり、その強みを生かした形で学科とカリキュラムの構成が異なるという点であろう。
被服学/服装学の勉強を希望する高校生の皆さんには各々の動機や将来に望む道があると思われるが、自らが「好き」なファッションを学びの素材にしながら種々の専門性を深堀できるよう、また「好き」に加えて自分の「適性」を生かせる将来と向き合っていただくことを願う。


