何を学ぶ
食品学・栄養学・調理学を柱とし、生活者の視点から食を総合的にとらえ、よりよい生活の実践を目指し追究する学問。食に関わる課題の解決は、社会全体の発展に寄与する。

松井 貞子(まつい さだこ)先生
日本女子大学/食科学部/准教授
1974年、兵庫県生まれ。日本女子大学家政学部食物学科卒業。管理栄養士。大学病院で栄養管理業務に従事後、現在に至る。専門は臨床栄養学。主な研究テーマは、糖尿病性腎臓病の栄養因子に関する研究。
食物学とは
食物学は「食品学」「栄養学」「調理学」を柱とし、食に関する自然科学や人文・社会科学などを総合的に学ぶ学問分野である。私たちの身体は日々食べるものから作られ、食べ物を通して「栄養」を補給し、命をつないでいる。さらに、「食」は人を良くすると表され、生活の質(QOL)にも影響を与える。食べ物とは食品や料理を指すが、人びとが食品を心地よく・安全に・おいしく栄養補給ができるように加工するのが「調理」である。また「食品」に含まれる栄養素を知り、おいしさをもたらす要素は何かなど、食品を化学的あるいは客観的に評価することが、栄養や調理を考える上での基礎となる。
食物学は栄養学や農学の分野と重なるところが多いが、食は人びとの生活に直結し、その問題を生活の側面から検証する点や、従来日本で行われてきた実践的な技術を教える女性教育の流れの一つに食物学が置かれていたという歴史的背景から、家政学や生活科学系と同じ学問領域ととらえられている。
食物学は栄養学や農学の分野と重なるところが多いが、食は人びとの生活に直結し、その問題を生活の側面から検証する点や、従来日本で行われてきた実践的な技術を教える女性教育の流れの一つに食物学が置かれていたという歴史的背景から、家政学や生活科学系と同じ学問領域ととらえられている。
現代の課題は“栄養不良の二重負荷”
食品の主な栄養素成分として炭水化物、脂質、たんぱく質が識別されるようになったのは19世紀の初めであり、ビタミンの発見は20世紀に入ってからと、栄養素の発見は人類の歴史から見ればそう遠い昔ではない。わが国は、明治時代以降20世紀半ばまで、食料不足による感染症をはじめとした低栄養関連の疾病が死因の上位を占めていた。その後、20世紀後半の高度経済成長期には食の欧米化が急速に進み、飽食の時代に突入した。飽食は食べ過ぎや偏った食事による栄養過多を招き、肥満や糖尿病、高血圧、メタボリック症候群、慢性腎臓病などの生活習慣病のリスクを高め、QOLの低下につながる。このように、わが国では栄養不足から栄養過多に変遷してきたが、現代は世界共通の栄養問題として「栄養不良の二重負荷」にあるとされている。栄養不良の二重負荷とは、栄養不足と栄養過多が同時に進行する状況を指し、世界的に、栄養不良の二重負荷への対策が急務となっている。
調理はサイエンスと文化・伝統の文理融合が特徴
調理は食事計画に始まり、調理操作を経て完成された食べ物(料理)を食卓に提供するまでの内容を含む。和食がユネスコ無形文化遺産に登録されて久しいが、世界各国で継承されている食文化やテーブルマナーなども調理学に含まれる。調理は、食品を切る・加熱するなどの操作を経て、食品を安全に・おいしく・人体で消化吸収されやすい形にすることや、調理によって食品の形態を変化させ食べやすさを付与すること以外に、あらゆる場面で伝統的な技術や技能としても受け継がれている。またおいしさは味の要素だけではなく、視覚や嗅覚、触覚にも規定され、個人の食嗜好や食習慣に影響を及ぼす。食の外注化が進む現代では、調理をより効率的に安全に行う生産システムの構築が求められている。
さまざまな切り口から食品をとらえる
食品は3つの基本的機能として、生命現象を営むために必要不可欠なエネルギー源や生体構成成分の補給としての役割である栄養機能(第一次機能)と、食品の硬さや粘り・味などの感覚・嗜好機能(第二次機能)のほか、健康の維持・向上に関わる生体機能調節機能(第三次機能)を持つ。近年では食品の遺伝子解析や分析技術が進歩し、食品中の機能性成分の探索や解明に関する研究が精力的に行われ、商品開発には消費者ニーズの分析(マーケティング)が応用されている。また、超高齢化社会に対応し、飲み込みの機能が低下した高齢者が安全に栄養を摂取できるよう、食品の物性に配慮した食品の開発が進んでいる。
食物学の現状と課題
食物学も他の多くの学問分野と同様、技術革新や生活への利便性の追求とともに発展し、細分化が進んできた。例えば、食品の化学組成の分析により食品の保存性向上や新たな食品製造技術が急速に発展している。
栄養不良の二重負荷を抱えている現代において、栄養不足は特に子どもへの影響が深刻で、世界では1億4千万人以上の子どもの発育が阻害され、わが国においては高齢者の低栄養が問題となっている。一方で、栄養過多による生活習慣病は、先進国だけでなく途上国でも増えており、世界では約20億人が糖尿病などの食生活に関連した病気を患っており、栄養不足と栄養過多を合わせた不健康な食生活を送る人は30億人にのぼると報告されている。このことは、持続可能な社会の発展を阻む地球規模の課題となっている。
食物学が農学や生命科学領域と異なるのは、第一に生活者の視点を重視し、食を総合的にとらえる点である。ある特定の食品成分や栄養素が人びとにとって有用であるとしても、われわれは主に食品を介して成分や栄養素を摂取している。さらに、その食品を安全においしく食べられる方法がわかり、適正な価格で安定的に供給されるものでなければ、人びとには受け入れられにくいだろう。今後は、食物学領域においても多様性への対応やSDGs(持続可能な開発目標)の実現に向けた取り組みとして何ができるのかを国や企業、専門家をはじめ、各個人が考え行動を起こすことが求められる。この一例として栄養問題とSDGs目標の関わりを挙げておきたい(表1)。栄養課題への取り組みは、あらゆる年齢の人びとの栄養状態を改善・維持し、健康増進につながるだけでなく、教育や勤労等のさまざまな社会活動を支え、社会全体の発展にも寄与するとされている。
栄養不良の二重負荷を抱えている現代において、栄養不足は特に子どもへの影響が深刻で、世界では1億4千万人以上の子どもの発育が阻害され、わが国においては高齢者の低栄養が問題となっている。一方で、栄養過多による生活習慣病は、先進国だけでなく途上国でも増えており、世界では約20億人が糖尿病などの食生活に関連した病気を患っており、栄養不足と栄養過多を合わせた不健康な食生活を送る人は30億人にのぼると報告されている。このことは、持続可能な社会の発展を阻む地球規模の課題となっている。
食物学が農学や生命科学領域と異なるのは、第一に生活者の視点を重視し、食を総合的にとらえる点である。ある特定の食品成分や栄養素が人びとにとって有用であるとしても、われわれは主に食品を介して成分や栄養素を摂取している。さらに、その食品を安全においしく食べられる方法がわかり、適正な価格で安定的に供給されるものでなければ、人びとには受け入れられにくいだろう。今後は、食物学領域においても多様性への対応やSDGs(持続可能な開発目標)の実現に向けた取り組みとして何ができるのかを国や企業、専門家をはじめ、各個人が考え行動を起こすことが求められる。この一例として栄養問題とSDGs目標の関わりを挙げておきたい(表1)。栄養課題への取り組みは、あらゆる年齢の人びとの栄養状態を改善・維持し、健康増進につながるだけでなく、教育や勤労等のさまざまな社会活動を支え、社会全体の発展にも寄与するとされている。
生体・食品・生活文化を総合的に追究する
食物学は生体に関する科学、食品に関する科学、生活文化に関する科学の3分野に関わる。生体と栄養の関係を理解するために、基礎として生化学、生理学、栄養学などを学ぶ。これらの科目により、食物が消化吸収され栄養素として体内に取り入れられ、身体活動に必要なエネルギーや筋肉・骨など身体の構成素となること、諸臓器の働きや各栄養素の代謝過程などを学ぶ。
人の一生は胎児期から高齢期までの成長発達から老化に至る過程において、身体的特徴や生活環境が異なるため、それぞれのライフコースに応じた必要栄養量と食生活のあり方を学び、実践に役立てる。食べ物に関しては、基礎として食品化学や食品分析学などで食品の化学的・物理的性質を学び、食品の改良や加工食品、新商品の開発に役立つ知識を得る。また、食品の腐敗や汚染を防止し、食品の保存・加工や生産方法の確立に必要な知識として食品衛生学や微生物学を学ぶ。これらは食品の安全性を担保する基礎となる。
さらに私たちが食べる食品は、感情を持った人間がさまざまな要因を持って選択していることを忘れてはならない。皆さんは毎日の食事をどのような観点で選んでいるだろうか? 深く考えたことはないかもしれないが、食品の選択は個人の嗜好やその時の気分や体調、生活環境などさまざまな影響を受けている。そして、食品はどこで栽培・製造され、どのような流通経路で入手されるのか、近年では食の安全性が問われており、フードロスや食品製造に関わる環境問題への対策が急務となっている。和食は、盛りつけや器など見た目の美しさや季節の移ろいなどにも気を配り、その時代の社会的背景や文化とともに会席料理などの伝統的な形式が発展してきた。和食を世界に発信し、後世に受け継ぐことも現代の日本人の重要な役割といえよう。これらはフードシステム論やフードコーディネート論、食文化論を学ぶことで、より有意義な食生活を営むことへの提案にも生かされる。
スーパーやコンビニエンスストアの総菜、弁当や外食店の宅配を利用し購入して食べる食事の形態を「中食」というが、社会の多様化により、中食のニーズがますます高まっている。また、学校給食は児童生徒の成長を支え、社員食堂は従業員の健康管理に大いに貢献している。対象者集団へのアセスメントと分析結果から改善に向けた目標を立て(公衆衛生学、公衆栄養学)、この目標を食事(給食)計画に落とし込み、食材の調達、コスト管理、衛生管理など、給食の生産に関わる一連の流れを給食経営管理論で学ぶ。また、対象者個人に応じた栄養アセスメント(応用栄養学)に基づき栄養管理計画を立てるが、糖尿病や腎臓病など食事そのものが治療となる疾患では、食事療法が重要な位置づけを持つ(臨床栄養学)。さらには、食べることに関わる人間の行動理論を学び、健康増進や病気の予防・治療を目指した食事や栄養摂取を可能にするための教育方法やカウンセリング手法を学ぶのが栄養教育論である。
このように、食物学は化学や生物などの自然科学を基礎とする学問であり、生体や食品に関する学科目は実験や実習を通して学ぶことが多い。基礎的な実験や実習により、知識や既に明らかにされている事実を視覚的・体験的に理解を深めることができる。これらを通して日常的に食べる食物を個々人の特性に当てはめ、実生活に展開して応用するための創造力・実行力を培い今後の日本社会に貢献してほしい。
人の一生は胎児期から高齢期までの成長発達から老化に至る過程において、身体的特徴や生活環境が異なるため、それぞれのライフコースに応じた必要栄養量と食生活のあり方を学び、実践に役立てる。食べ物に関しては、基礎として食品化学や食品分析学などで食品の化学的・物理的性質を学び、食品の改良や加工食品、新商品の開発に役立つ知識を得る。また、食品の腐敗や汚染を防止し、食品の保存・加工や生産方法の確立に必要な知識として食品衛生学や微生物学を学ぶ。これらは食品の安全性を担保する基礎となる。
さらに私たちが食べる食品は、感情を持った人間がさまざまな要因を持って選択していることを忘れてはならない。皆さんは毎日の食事をどのような観点で選んでいるだろうか? 深く考えたことはないかもしれないが、食品の選択は個人の嗜好やその時の気分や体調、生活環境などさまざまな影響を受けている。そして、食品はどこで栽培・製造され、どのような流通経路で入手されるのか、近年では食の安全性が問われており、フードロスや食品製造に関わる環境問題への対策が急務となっている。和食は、盛りつけや器など見た目の美しさや季節の移ろいなどにも気を配り、その時代の社会的背景や文化とともに会席料理などの伝統的な形式が発展してきた。和食を世界に発信し、後世に受け継ぐことも現代の日本人の重要な役割といえよう。これらはフードシステム論やフードコーディネート論、食文化論を学ぶことで、より有意義な食生活を営むことへの提案にも生かされる。
スーパーやコンビニエンスストアの総菜、弁当や外食店の宅配を利用し購入して食べる食事の形態を「中食」というが、社会の多様化により、中食のニーズがますます高まっている。また、学校給食は児童生徒の成長を支え、社員食堂は従業員の健康管理に大いに貢献している。対象者集団へのアセスメントと分析結果から改善に向けた目標を立て(公衆衛生学、公衆栄養学)、この目標を食事(給食)計画に落とし込み、食材の調達、コスト管理、衛生管理など、給食の生産に関わる一連の流れを給食経営管理論で学ぶ。また、対象者個人に応じた栄養アセスメント(応用栄養学)に基づき栄養管理計画を立てるが、糖尿病や腎臓病など食事そのものが治療となる疾患では、食事療法が重要な位置づけを持つ(臨床栄養学)。さらには、食べることに関わる人間の行動理論を学び、健康増進や病気の予防・治療を目指した食事や栄養摂取を可能にするための教育方法やカウンセリング手法を学ぶのが栄養教育論である。
このように、食物学は化学や生物などの自然科学を基礎とする学問であり、生体や食品に関する学科目は実験や実習を通して学ぶことが多い。基礎的な実験や実習により、知識や既に明らかにされている事実を視覚的・体験的に理解を深めることができる。これらを通して日常的に食べる食物を個々人の特性に当てはめ、実生活に展開して応用するための創造力・実行力を培い今後の日本社会に貢献してほしい。
活躍が期待されている栄養士・管理栄養士
超高齢化や多様化が進む現代において、栄養士は食事提供に関わるフードサービスの中核を担い、管理栄養士は医療従事者として保健や医療、福祉の分野で活躍している。食べることは人間にとって生命活動を支える手段であり、全てのライフコースで食育が重要視されている。とりわけ成長期にある児童・生徒には栄養教諭が、乳幼児や妊産婦、高齢者などの地域住民の食と健康を支えるのが、保健所や保健センターの管理栄養士である。
食物学分野を学んだ栄養士・管理栄養士は、コミュニケーション力を持って人を全人的・包括的にとらえ、食物を通して人の命を守ることやQOLの高い生活を提案することができ、今後益々の活躍が期待されている。
食物学分野を学んだ栄養士・管理栄養士は、コミュニケーション力を持って人を全人的・包括的にとらえ、食物を通して人の命を守ることやQOLの高い生活を提案することができ、今後益々の活躍が期待されている。


