【小論文対策-1-2】文章読解型小論文の回答例(悪い例・良い例)

小論文対策

2024.06.20

文章読解型小論文の回答例(悪い例・良い例)

文章読解型小論文の攻略ポイントを押さえたら、次は回答例を見ながら、具体的に攻略ポイントを紹介していく。悪い例からは注意すべき点を、良い例からは試験本番で活かせるテクニックを、学んでいこう!

文章読解型の例題

次の文章を読んで、あとの問題に答えなさい。

教養は、まず自分のためにあるのでした。どんな教養を身につけるかは、自分の勝手です。
でも教養は、自分の狭い範囲を超えていくためにあります。
あるひとは、フランスの現代ファッションに詳しくなる。あるひとは、インドの初期仏教に詳しくなる。あるひとは、中国の古典に詳しくなる。そういう違いがありつつ、ほかの人びとの関心のあり方にも興味を持っている。自分の生活の狭い範囲をはみ出した、知の拡がりを楽しんでいる。
つまり教養は、ひとりの範囲で完結するものではなく、同時代のおおぜいの人びとに関心をもつことなのです。そして、自分を客観化し、自分と社会の関係を見つめてより正しい解決を選び取る助けになるのです。
こうして、教養は、よりまっとうな政治的関心の養分になります。
(中略)
ここから、いまの時代の教養のほんとうのあり方がみえてきます。
かつて教養は、社会のひと握りのリーダーの人びとが、リーダーとして適切な意思決定を行うための基礎知識でした。
(中略)
いまや教養は、社会すべての人びとが、有権者として適切な意思決定を行うための基礎知識です。
教育が行き渡り、中産階級が勃興し、すべての人びとが自立した市民として尊重されるようになりました。そのあらわれが、政治の面では、民主主義。とくに、普通選挙です。人びとは、選挙で自分の意思を表明し、代表を政治のポストに送ります。その代表がリーダーとなって、重要な決定をします。
選挙によって、有権者は、自分たちの政府をつくりあげるのです。
選挙で選ばれるリーダーは、かつてのように、圧倒的な教養を誇ることができません。情報が広く行き渡り、誰の教養も大して違いがないことは明らかです。リーダーに決定を「お任せ」するわけには行きません。
それなら、選挙で票を投ずる有権者は、リーダー並みの教養にもとづいて、この先の社会はかくあるべきという意思を示すことになります。そういう票が集まって、主権者の総意が表されます。リーダーはそれに従って、政治を行うのです。

人々が深く教養を身につけるほど、こうした民主主義の働きを底上げすることができます。これは、誰にとっても望ましいことでしょう。
教養を身につけるのはなぜか。それはまず、自分の喜びのため。そして、人々と手をたずさえて、よりよい社会をつくり出すため、なのです。
(出典:橋爪大三郎、『人間にとって教養とはなにか』、SBクリエイティブ株式会社、2021年より抜粋・一部改変)

 著者の考えをふまえながら、「教養を身につける」ことがなぜ必要なのか、あなたの考えを 600 字以内(句読点を含む)で述べなさい。
(2023 年度 大分大学 福祉健康科学部福祉健康科学科理学療法コース 総合型選抜入試問題)

悪い回答例

<回答例の見方>
「×」マークまたはマーカーがひかれている文章をタップ(クリック)すると、NGポイントが詳しく表示される。

今や、教養は、一部の人だけのものではない。多くの人が持つことで、圧倒的な教養を誇っていたリーダーたちも、常にチェックされ問いただされることになった。理想を掲げ自分の意思を表明することで、私たちが生きる社会は、より民主主義的に運営されることになるのだ。

民主主義の健全な運営は望ましいことだが、こうした政治状況の変化は、教養が多くの人に等しく行き渡っていることが前提となるはずだ。しかし、教養は本当に全ての人に届いているのだろうか。筆者は「情報が広く行き渡り、誰の教養も大して違いがない」と述べているが、個人間で教養のレベルに差があるのが現実的だ。

インドの初期仏教に詳しい人や中国の古典に詳しい人などは、そう多くは存在しない。しかも、それぞれの教養の内容が異なるため、教養を持つ人びとの間での共通認識が生まれにくいことも想定される。筆者が述べるような「自分の喜びのため」の教養にこだわると他者とうまく連帯できないだろうし、「人々と手をたずさえて、よりよい社会をつくり出すため」の教養を持とうとすると、共通する内容を同じような深さで人びとに身につけさせる必要が発生するのではないだろうか。

暗記や計算ばかりを追い求める教育よりも、古典や海外の優れた考え方を多くの人びとに身につけさせることが、民主主義を機能させるためには必要になるだろうと私は考える。

NGポイントまとめ

先生

先生

筆者の主張を見誤らないように!

具体例にこだわるのは危険

具体例は、わかりやすい。具体例は、扱いやすい。しかし、小論文執筆において、筆者が示した具体例をそのまま対象にするのは危険なのだ。
具体例とは、何らかの意見を導くための通過点なのである。筆者の意見を対象にしてこそ、合格する小論文作成が可能となる。枝を見て森を見ず。細部にこだわって本質を見誤る。その事態は、避けよう。

設問への対応は冒頭で

設問の問いかけに正面から対応していること。それが、高く評価されるための最大のポイントだ。
冒頭で対応してしまうことで、文章の方向がしっかりと定まる。筆者による主張のうちもっとも重要なことも、ここに組み込んでみよう。ここで、枝葉の部分にこだわると、設問に対応することがないままに文章が進行してしまう危険性が高まるのだ。

良い回答例

<回答例の見方>
「◯」マークまたはマーカーがひかれている文章をタップ(クリック)すると、GOODポイントが詳しく表示される。

教養を身につけることは、自分だけではなく社会がよりよくなるために必要である。教養を身につける目的を「自分の喜びのため。そして、人びとと手をたずさえて、よりよい社会をつくり出すため」とする筆者の意見には強く賛同する。

現代社会には、多くの情報があふれている。そして、自らが情報の発信者となる機会も圧倒的に増えている。その中で、フェイクニュースを見きわめるための情報管理などは、個人の判断に委ねられているのが現状だ。教養を「自分を客観化し、自分と社会の関係を見つめてより正しい解決を選び取る」方法と考える筆者の指摘は、まさに情報化社会における自衛のあり方を示すものだ。危険な情報を見抜き自己を防衛する視点は、同時に、重要な考えを見きわめたり、他者との有意義な交流を促すことにもつながるだろう。教養とは、周囲の意見に流される危険を回避しながら自他ともに豊かに生きていくための基盤であり、姿が見えない他者との関わりが多い現代社会においては特に求められるものなのではないだろうか。

教養が開かれたものになることで、政治的な状況は改善された。情報がより多くの人へ行き渡ることが、その変化を支えてきた。その際に、情報そのものの真偽を見きわめることが重要となるのは言うまでもない。他者との豊かな情報共有を行うためにも、個人の判断の基盤となる教養を身につける学習機会を社会全体に積極的に提供すべきだ。

GOODポイントまとめ

先生

先生

自分の視点があればこそ!

筆者の意見を適切に利用している

筆者の意見の引用が効果的に見えるのは、自分の意見が示されているからである。冒頭には、設問に対応した意見。第二段落には「情報化社会」という視点とともに示されている意見。それぞれに筆者の言葉を利用して表現している。筆者の意見に頼り切るのではなく、うまく活用する。そのためには、自分の視点を定めることが重要となるのである。

文章のバランスがGOOD

設問に対応している冒頭部分。視点を示しながら自らの意見を展開する本論部分。提案で締めくくる結論部分。簡潔であり、バランスもよい。

小論文の正しい書き方

具体例を省くこと、引用が長すぎないこと、提案のための文体(特に、自分の意見を提案するための疑問形)が文章の適切な箇所に配置されていること。これらが文章のバランスを整えている。