小論文対策
2024.06.20
資料分析型小論文の攻略ポイントを押さえたら、次は回答例を見ながら、具体的に攻略ポイントを紹介していく。NG例からは注意すべき点を、良い例からは試験本番で活かせるテクニックを、学んでいこう!
次の図は、公立小学校児童における年間の学習塾費と学校外スポーツ支出の推移を表したものである。図から読み取ることができる学習塾費と学校外スポーツ支出の変化について説明し、その変化をもたらしたと考えられる要因についてあなたの考えを論述せよ。なお、論述には「スポーツの産業化」という語句を用い、600字以内で論述すること。
(注)値は公立小学校児童の平均
(出典:清水紀宏(2021)『子どものスポーツ格差―体力二極化の原因を問う』大修館書店)
2023年度 高知工科大学 経済・マネジメント学群 総合型選抜入試問題
<回答例の見方>
「×」マークまたはマーカーがひかれている文章をタップ(クリック)すると、NGポイントが詳しく表示される。
「学習塾費」は2006年を頂点として増減を繰り返しているが、概ね50,000円から60,000円の範囲にとどまっている。一方で、「スポーツ・レクリエーション活動費」は1994年の30,000円から2016年には60,000円台へと倍近くにも増大している。
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設問における指定がある場合を除き、数字もアルファベットも半角表記を用いて1マスに2文字を左からつめて書き記す。
固有名詞の場合は、1マスに1字を用いる。
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細かい数字を挙げて〈読み上げ〉をしている。しかし、その数値は全て必要だっただろうか?〈変化〉として何に注目しているのか。それが最重要のはずなのだが、かえって焦点がボケているのでは?
このことから、この23年間において、小学生の児童によるスポーツへの関心が倍増したことが読み取れる。
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費用が増加したからといって、スポーツへの関心が同様に増加したことにはならない。目の前のデータを都合のよいように解釈するのは〈読み取り〉ではなく〈読み換え〉でしかない。
学習塾に通うのは、学校の勉強を補足する面のみならず、受験のためでもあるだろう。私立中学校への受験における合格へ向けて塾に通う児童は少なくない。受験は1つの産業なのだ。
スポーツに対する関心が高まってきているのは、健康増進のためには望ましいことだ。2020年に開催される予定であった東京オリンピックに向けて、スポーツ熱が高まったり、社会において健康づくりがブームになったことも、児童のスポーツへの関心が高まったことの背景にあるだろう。しかし、その熱を利用して、スポーツの産業化を推進していくことには危機感を覚える。受験と同じように加熱していくのは、スポーツを純粋に楽しむ精神を妨げる可能性がある。競争する精神も必要だが、スポーツからは互いを高め合うようなスポーツマンスピリットを学んでほしいと願ってやまない。
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「スポーツの産業化」を〈変化〉の要因としてとらえるのが、本筋の解釈。ここでは、スポーツ熱に便乗する動きという副次的な存在としてとらえている。もったいない。
スポーツが受験以上に関心を集めるのはよいことだが、産業化によるリスクも警戒すべきだと私は考える。
先生
まずは「何に注目しているのか」を示そう
見えるがままに数値を〈読み上げ〉はじめる。どんどん書いていけそうな気がするが、あれこれと数値を挙げれば、何に注目しているのかという焦点がぼんやりしてきてしまう。
大切なのは、「変化」について、どの点に注目しているのかを示すこと。言葉で埋め尽くすことによって、自分の着眼点を見失わないように注意しよう。
「変化の要因」を問われているのである。「スポーツの産業化」という語句を用いることを求められているのである。受験のような競争を批判しスポーツマンスピリットを尊重するような価値観は、設問の趣旨から外れてしまっている視点だ。キーワードは、変化の要因の1つとして位置づけることでこそ、設問への適切な対応となるだろう。
<回答例の見方>
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多少の増減はあるものの高い水準を維持する「学習塾費」に対して、「スポーツ・レクリエーション活動費」は増加し続け、近年では「学習塾費」を上回るほどに変化している。
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図からの読み取りにおいて、数値の読み上げは不要である。全体の4分の1以内に簡潔にまとめよう。
その要因としては、少子化をめぐる社会環境の変化と、それに対応するようなスポーツの産業化が考えられる。
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グラフの背景となる「少子化」を指摘し、自分の視点を提示。その上で、キーワードを組み込んで意見をまとめている。短い文で、設問への対応を果たした。
日本において少子化が深刻化していることは多くの人が知るところである。グラフで示されている1994年から2018年までの期間も例外ではない。かつて児童たちは地域のサッカーや野球のスポーツクラブなどによってスポーツやレクリエーションを経験していた。少子化によって、この体制が維持できなくなっていく。チームのメンバーさえ揃わない事態が発生するのだ。地域社会のコミュニティーにおいて運営されていた集団が機能しなくなる。その社会変化は、児童の活動を個別化・有償参加へと移行させていく。元から個別化・有償参加であった「学習塾費」と同じようなスタイルに、学校外スポーツの質が変化するのだ。そして、その動きに対応するように、スポーツの産業化が進行する。器具や施設の拡充や、トレーナーなどの人的ケアの充実化などのサービスの競争が、消費者の支出を増大させる背景にあるだろう。
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社会的変化の内容を具体的に示している。費用の増大の原因は、無償系のサービスの減少にあったのだ。
スポーツの産業化により、有償のサービスを受けられる児童と受けられない児童との差が開くことが懸念される。児童の身体状況とスポーツ産業の関係について今後も注視する必要がある。
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変化の要因を踏まえた上で、それを拡張してみよう。最終段落に書く内容が見えてくるはずだ。
先生
設問の要求にバランスよく対応する
設問内容への対応を、簡潔に。求められているキーワードの使用を、適切に。このことは、合格する小論文作成にとってもっとも大切なことである。
「少子化」の動きを重ねることで、与えられている数値の変化に迫っている。変化の要因を「社会環境の変化」と位置づけ、その内容をわかりやすく説明している。設問条件のクリアも適切である。
〈図〉を資料として分析するのは言うまでもない。では、図のタイトルや出典にまで気を配っているだろうか。『子どものスポーツ格差―体力二極化の原因を問う』という出典に注目。経済状況によって発生する児童の体力格差を視野に入れておくことで、スポーツの産業化の今後についての懸念材料が見えてくる。ここでは、最終段落での記述に活用した。