東京都にある私立大・学習院大学には、伝統ある文学部に幅広い分野の研究者が所属している。英文学が専門の眞野泰文学部長に、文学部の学びの意義について語っていただいた。

学習院大学 文学部長
眞野 泰 先生
専門は英文学。著書に『英語のしくみと訳しかた』(研究社)がある。現代小説の翻訳も手掛けており、訳書にグレアム・スウィフト『マザリング・サンデー』(新潮社)など。
文学部で学べる内容は、大学によってまちまちです。学習院大学には文学部に8つの学科がありますが、実際に学べる分野は8つにとどまりません。たとえば哲学科は哲学・思想史系と美学・美術史系に分かれていますし、日本語日本文学科も日本語日本文学系と日本語教育系に分かれているからです。
また、大学院には身体表象文化学専攻という分野があり、舞台芸術やマンガ・アニメーションなどについて学ぶことができます。
それでは、文学部で学べる多様な分野に共通するものとは、何なのでしょうか。それは、「言葉を通して人間を研究する」ということです。これは別の言い方をすると、「他者を理解するために、他者が書いたオリジナルなテキストを読解する」ということです。
言葉は人間の文化を支えてきたものです。自ら直接テキストを読むことで、自分とは違う時代・地域の人について学んだり理解したりできます。このとき、違い、つまり多様性を知る一方で、「違う暮らしをしていても、この気持ちは共感できるな」という普遍性に気づくことがあります。過去の文学作品や外国の文学作品を読む意味は、人間の多様性と普遍性を確認できることにあると思います。

「言葉を通して人間を研究する」の根っこにあるものは、自分以外の他者への関心です。これは心理学や教育学にも共通しています。患者さんや子どもたちと言葉で話しながら、相手を理解し、相手の中に自分を見つけていくというプロセスは、文学や史学、哲学などにも通じる部分があります。
現代はAIが全盛の時代です。しかし、AIにも苦手分野はあり、たとえばそれは読解力です。AIはある言語の文章を他言語に置き換えることはできますが、文章を読んでいるわけではありません。自分の知識経験と照らし合わせつつ、想像力を使って文章を読むことができるのは人間だけです。テキストに何がどう書いてあるのか、また、何が書かれていないのか、考えながら読むことが人間にはできます。今の時代にこそ、読むことの難しさと楽しさが再認識されるべきでしょう。
文学部独自の特長として、古典作品に触れる機会が多いことが挙げられます。学生に発表の課題などを出すと、ネットの文章だけをネタとして集めてくる人がいますが、ネット上の文章には信頼できないものも多くあります。しかし、長い歳月をかけて読み継がれてきた古典は、自分の頭を使って読解することで得られるものがたくさんあります。
古典などの文章を自分の頭で読み解こうとする経験は、自分なりの物の見方を育てることや、世界や人との付き合い方を考えることにつながります。そうした力は、直接文学部の学問と関係のない仕事をする人であっても、社会で役立てることができるはずです。
文学部を検討している受験生の皆さんに申し上げたいことがあります。それは、偏差値にとらわれず、好きなことを大切にしてほしいということです。大学の価値は偏差値だけでは測れません。興味のある大学には、ぜひ実際に足を運んでみてください。文学部だから就職に苦労する、なんてこともありません。周囲からのアドバイスは大事ですが、最終的には自分の進路は自分で選びましょう。

学習院大学文学部
哲学科・史学科・日本語日本文学科・英語英米文化学科・ドイツ語圏文化学科・フランス語圏文化学科・心理学科・教育学科の8学科から成る。少人数教育が特徴で、手厚い指導を受けられる演習・ゼミが多数用意されている。学習院大学には、専攻分野に加えて特定のテーマを追求できる副専攻制度もある。

古文書や皇族ゆかりの品々など、貴重な史資料を多数収蔵する学習院大学史料館・霞会館記念学習院ミュージアム(同館提供)。
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