
大学は1858年に福澤諭吉によって開かれた蘭学塾が祖。略して「SFC」と呼ばれる湘南藤沢キャンパスは1990年に開設され、今でこそ多くの大学が取り入れている問題発見・解決型学習の先駆けとなった。分野を横断した学際的な学びも叶え、各界をリードする人材を多く輩出している。
慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(通称SFC)のHPでは、卒業生の活躍の様子が紹介されている。たとえば法学部の卒業生なら「法曹界で多数活躍」のような傾向があるが、SFC卒業生の活躍の場は、多種多様だ。業界も業種も、活躍の仕方も違う。各界で活躍できる人材を輩出する教育の秘密は何なのか、SFCの総合政策学部長の加茂具樹先生と、環境情報学部長の一ノ瀬友博先生に聞いた。

今でこそ多くの大学で掲げられる問題発見・解決型の授業や教育プログラムだが、SFCが開設された1990年当時は、まだ珍しい学びの形だった。その教育効果について、2人の学部長はこう語る。
「当時は伝統的な学問分野を中心とした教育をしていましたが、テクノロジーが飛躍的に発展した時代。このまま成長すれば世界がより良くなると信じられていた一方、環境問題なども表出しました。これを解決するには、農学や工学だけではなく政策学や経済学も必要になった。それまでの伝統的な教育では、これからの時代を生き抜く人を作れないのでは?という懸念から、広く学び、問題発見・解決に主眼を置く教育を始めたのだと思います」(一ノ瀬先生)
加茂先生もうなずく。「活躍する卒業生が多いのは、社会に問題が起きて『こんな人材や職業が必要だ』となったとき、そのニーズに応える学生を輩出していたからというより、多様な要素を組み合わせて最適解を導き出す力を持つ人物をSFCが育んでいたからだと思います。SFCの環境は、学生に“常に自ら問題を発見し、解決のために行動すること”を促しています。その姿勢が、結果として社会の要望に合致し、活躍へと繋がっているのでしょう」
なぜ学生は問題解決のために行動できるように成長するのか。一ノ瀬先生は、SFCの自由で柔軟な環境を要因の1つに挙げた。「自由に越境する経験ができることかもしれません。伝統的な学び方をする大学だと、学部や学科の枠内に学ぶ範囲を収めてしまいますが、SFCは総合政策学部も環境情報学部も自由に越境できるんです。学問分野や研究会(一般的なゼミや研究室に近い)の枠を越えたり枠内のものをつなげたりして、思いもしない課題や解決策を生み出しています。中には自分で研究費を取ってくる学生もいますし、他のキャンパスまで授業を受けに行く学生も。驚くほど自由に動いて学んでいます」(一ノ瀬先生)
加茂先生は「失敗できること」を挙げる。「大学は実験の場であり、失敗していい場所。SFCでは研究会を自由に移動できるので、違うと思ったら次のセメスターで別の研究会に変えられます。研究会には1年から入れて、4年までの在籍学期すべて違う研究会でも、同じでもいい。失敗してもやり直せる機会が多いので、何度でも問いを立てて、解決や決断に挑戦できるんです」(加茂先生)
学生同士、学生と教員のコミュニケーションが密なのも特徴の1つ。教員同士で研究内容を共有する機会も多く、学生にほかの教員の研究会を勧めることもあるそう。一ノ瀬先生は「SFCは学生も共同研究者という立ち位置。教員もこのコンセプトに共感してSFCで教えていますし、学生の発想や行動力から刺激を受けています」と、やりがいを滲ませる。
クラスという仕組みもあり、何かあれば担任の教員に相談できる。
学生のバックグラウンドが多様なことも、成長の一因だという。SFCの2学部は慶應義塾大学の中でも総合型選抜の割合が高く、多様な個性を持つ学生が多い。さらに基礎学力を備えた一般選抜組、海外からの留学生(英語のみで学位取得可)、強い目的意識をもった内部進学者と、異なる目的・強みを持った学生が混在する。「学生はお互いをリスペクトし合い、違いを認め合う雰囲気があります。問題意識も将来像も異なるので、刺激的なのでしょう」と話すのは加茂先生。
あらゆる仕組みと環境が、学生の成長につながるSFC。これからも社会に貢献する人材を輩出し続けるはずだ。

SFCで実践されている、教員と学生が一体となって研究に取り組む姿勢は、創設者・福澤諭吉の「半学半教」の精神によるもの
A. 一ノ瀬先生:世間で誰かが言っている課題に取り組んでほしいわけではありません。自分自身が本当に解決したいことであれば、何でもいいです。自分が今までやってきたこと、これからやりたいこと、より良くしたいことなど。新しい知識や発想に触れることで、別の問題意識が生まれることもあります。
A. 加茂先生:いろいろな授業を受けてから、自分の課題を探していくのもいいと思います。大事なことは、自分の頭で考えて、実験して、失敗すること。明確な課題を持って入学してきても、「やっぱり違った」と言って方向性を変える学生はたくさんいます。
A. 一ノ瀬先生:大学選びを迷っているなら、学び方に着目してほしいです。知識やスキルを体系的に積み上げる伝統的な学び方がしたいなら、他大学がいいかもしれません。目的があって必要なものを選びながら広げていきたいなら、SFC は合っていると思います。
A. 加茂先生:好みや目的次第で、良し悪しの評価が変わると思います。このキャンパスは未来を学ぶ場所。未来は、誰かから与えられるものでも、あらかじめ決まっているものでもない。それを自らの手で作り上げたり掴み取るための、未来に立ち向かう力を培う場所です。もしも「未来をこう変えていきたい」という思いがあるのなら、SFCはすごく合っていると思います。
企業の中で働いていると、業務が属人化したり、他部署の仕事内容を知らなかったり、人や部署間で自然と壁ができてしまうことがあります。その壁を打ち破って全社的な取り組みをしたり、社内の財産を活用して新たなイノベーションを起こせるのは、壁を壁だと感じない人なのかもしれません。SFCは問題発見・解決力、コミュニケーション能力、幅広い知識、他人への理解や違いを受け入れる力、自信が養われる仕組みに満ちています。学生時代から人と人、仕事と仕事をつなぐことが当たり前な環境に身を置くことで、社会に出たあとも同様の行動が自然とできるのではないでしょうか。社会や企業で評価されるSFCの卒業生がたくさんいる理由が、何となくわかった気がします。

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