
生糸(絹)が海外輸出品の主力だった明治期、養蚕・製糸などの蚕糸業は日本の基幹産業のひとつだった。各地の養蚕が盛んな地の中から長野県上田市に、養蚕業・製糸業に特化した現在の国立大学にあたる上田蚕糸専門学校が設立。専門家や技術者が集まる「蚕都・上田」は、日本の近代化を推し進める原動力となった。

長野県は精密機械工業が盛んなことで知られる。実はこれも、繭から糸や繊維をつくり出す機器から始まったもの。養蚕が衰退した現代でも、上田蚕糸専門学校の時代から培われた技術力が継承され、発展してきたわけだ。
上田蚕糸専門学校から発足した信州大学繊維学部も、県内外の企業との共同研究が盛んで、約150のプロジェクトで実社会に役立つモノづくりに貢献。研究分野でも、繊維分野の国際的な研究機関となっている。

先進繊維・感性工学科で行う、ファン付きウェアの温熱ストレス軽減効果の実験の様子。

機械・ロボット学科では、さまざまな歩行アシストデバイスも開発している。

応用生物科学科では野蚕(野生の蚕)やめん羊の飼育、野菜の栽培も行う。

化学・材料学科には、プラスチックやゴムなどの高分子材料を通じて環境問題に取り組む研究室もある。
かつての養蚕・絹織物から始まった長野県上田市の繊維産業だが、今や繊維学部が扱う“繊維”は糸や織物だけではない。筋繊維、カーボンファイバー(炭素繊維)、DNAが二重らせん状に連なる遺伝子……。繊維学部教授の河村隆先生は「わかりやすく言うならば、繊維学部で扱う“繊維”とは、細くて長い形状のマテリアル」だという。たとえば、高強度繊維を使った土木・建築資材や、人工衛星や宇宙服に使える繊維素材の開発、遺伝子組み換えでシルクのような糸を吐く蜘蛛の研究など、工学・農学・理学・医学などの分野を横断的に融合した幅広い学びが可能だ。

直径が100ナノメートル(1mmの1万分の1)以下のナノ粒子を扱う研究も。画像はナノワイヤの周期配列。

附属農場では約50頭のめん羊を飼育。毛刈り体験も行い、羊毛を研究や実習に使用している。
たとえば、1秒ごとにカチカチと動くのではなく、絶えず滑らかに動く時計の秒針が、心理的にどのような影響を与えるか――。実はこれも繊維学部の研究のひとつ。使う人の視点から快適に生活するためのモノづくりを学ぶ、感性工学の分野にあたる。「繊維学部で行われている研究の半数以上が、上記で述べた“細くて長い形状のマテリアル”以外のもの」と言う河村先生ご自身も、生物の持つ隠れたスキルに着目したロボット開発に携わっている。モノづくりに興味がある人は、“繊維”という先入観にとらわれず、繊維学部の先生方の研究を調べてみてほしい。

人体と衣服の関係性をコンピュータシミュレーションで解析。

昆虫の優れた嗅覚システムを搭載した嗅覚飛行ロボットを開発。

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