
大学でできる経験は、専門分野を深める研究だけじゃないんです。従来の学び方とは違う方法で、これからの未来と社会で貢献&活躍できる人材を養成する、2つの大学を取材しました。

2021年に開学した、広島県にある新しい公立大学。従来の大学教育だけでは培った知見を社会で最大限生かせないという危機感から、実社会を生き抜き、世界をより良くするための人材育成を掲げて新しい大学教育を実践している。ソーシャルシステムデザイン学部の単科大学だが、その実はリベラルアーツであるため、学べる学問分野は幅広い。
公立大学は、設置者が自治体などの地方公共団体であるため、地域のニーズに応える学部を置く場合が多い。そんな中、広島県の公立大学として2021年に開学した叡啓大は、リベラルアーツを謳うソーシャルシステムデザイン学部の単科大学。なぜ今の時代にリベラルアーツなのか。なぜ課題発見・解決型学習を中心とするのか。学長の有信睦弘先生に、大学が目指すものを聞いた。

大学の設置準備から携わる学長の有信先生は、電機メーカーの東芝で研究開発に長年携わってきた。そこで感じたのは、大学教育への疑念だった。有信先生は「多くの人は『偏差値の高い大学を出れば、将来安泰だ』と思い、偏差値の高い大学を目指します。しかしいざ社会に出てみると、偏差値と仕事上の能力が比例しないことに気づくはずです。勉強ができるポテンシャルはあるはずなのに、なぜ能力を生かせないのか。これは、大学の教育に問題があるのではと感じました」と話す。「基本的に大学は、研究者を育てる機関。たとえば経済学を体系的に学び追究していけば経済の専門家になれますが、その知識を企業で生かす経験は、大学の中ではできません。多くが学部を卒業してすぐに就職するのに、研究結果を社会につなぐスキルを大学で学ばないまま社会に放り出されてしまう。だから、偏差値が高いのに能力を生かせない人が生まれてしまうのでしょう」(有信先生)
叡啓大が課題発見・解決型学習を中心としたカリキュラムを組むのには、もう1つ理由がある。「かつての日本は欧米というお手本を追いかけて経済成長を遂げましたが、今は違う。自ら目指すべき目標を掲げ、推進していく必要があります」と有信先生。目標や課題が明確な時代は、解決策だけを追っていれば成長できた。しかし、これからは自分たちで新しいものを考え出さなければならず、そのためには「何が問題なのか」を見つけ出す課題設定能力が重要になる。有信先生は、この能力の涵養が非常に困難であると前置きしながらも「“課題”というのは、自分が描いた夢と現実との落差なんじゃないか」と話し、夢を描くことの重要性にも触れる。
だからこそ、叡啓大は夢を描くための環境を整備。学生の4分の1は、さまざまな言語・文化圏からの留学生で構成される。有信先生は「異なる発想を切り捨てることなく、共感を持って議論ができる感性を育てる意味で、多様性は非常に重要です。異なる考えに触れることで発想も広がるし、夢を描くスコープも変わります」と話す。また、コミュニケーションの幅を広げるツールおよびビジネススキルとして英語を重要視。必要単位の半分は、英語で履修する。ICT教育も同様に力を入れており、実践形式の課題発見・解決型学習と同時並行で履修する。
1学年の定員数は100人と少人数で教職員の目が行き届きやすく、丁寧な指導が可能。日本人学生の約半分は総合型選抜での入学者で、受験生一人ひとりの資質・能力を確認するため、丁寧に選抜される。

学内には、学生や教員、企業担当者らが交流できるプロジェクトワークスペースがある
叡啓大での学びは、修得と実践を繰り返す。リベラルアーツ科目等で知識やスキルを学ぶ→実践科目で企業や自治体の課題に取り組む→そこで得た気づきをもとに、知識やスキルを学ぶ、といった形で修得と実践を何度も往復することで、社会で必要なコンピテンシー(資質・能力)が身につく。企業出身の有信先生らが自身の経験から生み出した、独自の教育システムだ。
有信先生は、自身の就業経験を基にこう話す。「大学設置準備中、関係者と『社会に出て必要な学問は何か』『学問はどうまたぐべきか』という議論を繰り返しました。英語やICTはもちろん、心理学や哲学も必要だという結論になりました。だから、叡啓大はリベラルアーツなんです。『開発職には文系学問は不要』なんて、とんでもない。裾野を広くしないと頂上は高くなりませんし、山に登るにしても多くの道を持ってほしい」。
学長の言葉からは、若者への期待が見え隠れする。未来を生き抜くだけではなく、未来を牽引する人材を育てていく。
課題発見・解決型授業のほかに、多様な経験ができるように国内外での体験・実践プログラム(2週間以上)が必修。心身ともにたくましく成長できる機会となっている。
取材日の4月7日、入学したばかりの1年生全員が受講する「課題解決入門」の授業が行われていました。学科長の川瀨真紀先生が担当する授業で、主体的に学ぶための考え方、ものの見方を具体的に学ぶ入門編。1年生は入学後1週間以内に、イノベーション(革新だけではなく、「新結合」という意味も持つそうです)を起こすための基礎を教わります。先生の出す簡単な課題に、グループワークをしながら答えていく体験型学習形式で進行。まだ入学して数日の1年生とは思えないほど、積極的で円滑なコミュニケーションが印象的でした。

2年生以上の学生がSA(スチューデントアシスタント)として授業を補佐。
1年生は安心&上級生にも新たな発見があり自身の成長に

デスクから離れ、床に座り込んでワークする様子も。自由かつ熱心!

「課題発見→解決」のフローが図示され、今後の取り組みをイメージしやすい
取材でお世話になった入試担当職員の方に「何よりも、ウチの学生を見てほしい」と言われました。学生は自分の夢を叶えるために、海外に行ったり他県に拠点を移したり、起業したり、文字どおりキラキラと活躍しているそうです。有信先生が「学生が『この大学は、何をしても否定されない』と言うんです。高校時代に『意識高い系(笑)』と冷ややかに扱われていた人が、やりたいことに全力で取り組める」とうれしそうな笑顔を見せていたのも納得です。また、先生や職員の方が、学生の顔と名前を覚えていることに驚きました。大学を支える大人が、一人ひとりの学生を大切に、また誇りに思っているのだと実感する取材でした。
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